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大切なきみ
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目が覚めると、知らない部屋にいた。だけど、不思議と戸惑う事はなかった。
「おはよ、おきた?」
物音に気がついたのか、扉が開き髪の長い女性が部屋に入ってきた。手にはティーカップを持っている。私の好きな紅茶の匂いがした。
「はい、おはようございます」
よく分からず、とりあえず挨拶を返す。彼女は寂しそうに笑って、ティーカップをベットの隣のテーブルに置いた。彼女の青く透き通った瞳が、私の姿を愛おしそうに映している。なぜだか分からないけど、切ない気持ちになった。この人は誰なのだろう。知ってるような気がするのに、全く分からない。
「ゆーちゃんはさ、今、平気?」
彼女の不器用な言葉は一層私の心を締め付けた。とても心配そうな顔で私を見つめる。それでも、私は彼女の事がわからない。でも、ゆーちゃんと呼んでくる程だ、きっと彼女は私の事を知っているのだろう。
「何も分からないけど、怖くはないです」
彼女の視線から目を逸らすように、ティーカップを掴みながら言った。それでも彼女は、安堵の表情を浮かべ「よかった」と言う。私の心配をしている彼女の方が辛そうにみえた。どうして?という言葉を飲み込んで「ありがとうございます」と言った。
彼女が家を案内してくれて、家の中に関してはわかった。けど、なんでここにいるのか、彼女は誰なのか、それは分からないままだ。いや、きっと思い出せないまま、が正しいかも。
私は、自分の名前と趣味嗜好以外なにも思い出せなかった。それでも大丈夫という彼女の言葉に甘えている。家の中に彼女には似合わない物を見つけるたび、これは私の物だという感覚がジワジワと芽生えてきて、一種の気持ち悪さを感じた。この家にある、私の存在を感じるたびに頭が締め付けられるような痛みに襲われた。
「私は、何を忘れているの?」
不安が募ってきた。だけど、彼女をこれ以上心配させまいと隠した。
彼女は毎朝、私が起きると紅茶を持ってきて「大丈夫?」と優しく声をかけ部屋から出ていく。そのあとは、作業部屋に籠っていて食事の時以外はほとんど顔を合わせない。彼女と話せば、何か思い出せそうな気もするけど、作業部屋に籠るのは、今の私と会うのが辛いから、そんな気がする。言わずともそれを感じさせるほど、この家は二人で暮らした痕跡が沢山ある。日を重ねるたびに、はっきりと突きつけられた。
このままではいけない気がして、彼女が出かけた隙に家中を何かを求めて探し回った。だけど、特に成果は得られず、残すところ作業部屋だけになった。
「勝手に入ってごめんなさい」
そう誰もいない部屋に言って、扉を開けた。パッとみた感じでは、ただの机と椅子があるだけの作業部屋に見えたが、よくみると全てニ人分あった。机も椅子も、二つ。私は、彼女とここで仕事をしていたのだろうか。部屋の隅にあるクローゼットを開けてみた。すると、私にピッタリのサイズの服が並んでいた。思わず息を呑む。他のところも開けてみようと思い、私の机らしきものの引き出しを引いた。中には彼女と私が笑っている写真がいくつも入っていた。手に取り、眺めていると今までの中で一番大きな頭痛に襲われ、私はそこで意識を失った。
「ゆーちゃん、ゆーちゃん」
誰かが、呼んでいる。
「もう、どこにも行かないで」
泣いているのだろうか。
「ゆーちゃん、私を1人にしないで」
あぁ、これは、そうだ。えっと、彼女は、、、。肝心なところが思い出せない。
「あの日の事、謝るから」
彼女の縋るような声が響いている。違うよ、違うんだよ。なぜだか、そう言いたい気持ちが溢れている。だけど、まだ言葉にならない。私はそのまま、また深い眠りへと誘われた。
「ゆーちゃんのバカ!なんでわかってくれないの?」
夢を見ているのだろうか。私と彼女が喧嘩をしている。
「ノアだって、私の気持ちわかんないでしょ」
あぁ、そうか、彼女はノアだった。
「だからって自分を傷つけてまで、私を守ろうとしないで、もっと自分を大切にしてよ」
私は何をしたのだろう。でも、きっと良くない事をした。だから早く謝れば良いのに。
「もういい、出ていく」
私はそう言って、家を出た。
「なんで、素直に謝れないんだろう」
そう呟きながら、森へ入っていった。森は危険なのに。
森へは、いつもノアが行っていた。ノアは、森に慣れているから。でも、ある日ノアの帰りがいつもより遅い日があって、私はノアを探して森に入った。しばらく歩くと、オオカミとノアを見つけた。どうやらオオカミに追われているようだ。ノア一人だったら、いつも通り、うまく逃げて帰ってくるはずだったのだろう。だけど、目の前にそんな光景が広がっていたら飛び出さずにはいられなかった。
「危ない!」
私が、そう言ってノアに近づくオオカミの前に出た。そして私は足を噛まれ、びっくりしたノアがオオカミを倒した。幸い噛まれただけで済んだが、それでも治るまで歩行が少し難しかった。
喧嘩の原因はこれだった。それなのに私は、森へ入っていった。謝るために、ノアへのプレゼントが欲しかったのだ。確か、前来た時に綺麗な花があったのを覚えている。それを取りたかった。だけど、傷が治っていない私は、花を取った後の帰り道、斜面で足を踏み外し、気を失っててしまったのだ。それをノアが見つけ、最初に戻る。
全部思い出した。まだ、声がする。ノアが呼んでいる。早く目を覚さなきゃ。ノア、ごめんね。でも、もう大丈夫だよ。ノア。
「ノア」
いつの間にか、言葉になっていた。
「ゆーちゃん?ゆーちゃん、思い出したの?」
ノアは相変わらず、涙を流しながら私の名前を呼んでいた。
「ノア、ごめんね」
今度はちゃんと目を見て言った。
「いいよ。大丈夫。私もごめん」
ノアは、泣いてるのに笑っていて、それにつられて私も笑った。
「ノア、ありがとう。これからも一緒にいようね」
そう言って彼女の手を掴んだ。
「おはよ、おきた?」
物音に気がついたのか、扉が開き髪の長い女性が部屋に入ってきた。手にはティーカップを持っている。私の好きな紅茶の匂いがした。
「はい、おはようございます」
よく分からず、とりあえず挨拶を返す。彼女は寂しそうに笑って、ティーカップをベットの隣のテーブルに置いた。彼女の青く透き通った瞳が、私の姿を愛おしそうに映している。なぜだか分からないけど、切ない気持ちになった。この人は誰なのだろう。知ってるような気がするのに、全く分からない。
「ゆーちゃんはさ、今、平気?」
彼女の不器用な言葉は一層私の心を締め付けた。とても心配そうな顔で私を見つめる。それでも、私は彼女の事がわからない。でも、ゆーちゃんと呼んでくる程だ、きっと彼女は私の事を知っているのだろう。
「何も分からないけど、怖くはないです」
彼女の視線から目を逸らすように、ティーカップを掴みながら言った。それでも彼女は、安堵の表情を浮かべ「よかった」と言う。私の心配をしている彼女の方が辛そうにみえた。どうして?という言葉を飲み込んで「ありがとうございます」と言った。
彼女が家を案内してくれて、家の中に関してはわかった。けど、なんでここにいるのか、彼女は誰なのか、それは分からないままだ。いや、きっと思い出せないまま、が正しいかも。
私は、自分の名前と趣味嗜好以外なにも思い出せなかった。それでも大丈夫という彼女の言葉に甘えている。家の中に彼女には似合わない物を見つけるたび、これは私の物だという感覚がジワジワと芽生えてきて、一種の気持ち悪さを感じた。この家にある、私の存在を感じるたびに頭が締め付けられるような痛みに襲われた。
「私は、何を忘れているの?」
不安が募ってきた。だけど、彼女をこれ以上心配させまいと隠した。
彼女は毎朝、私が起きると紅茶を持ってきて「大丈夫?」と優しく声をかけ部屋から出ていく。そのあとは、作業部屋に籠っていて食事の時以外はほとんど顔を合わせない。彼女と話せば、何か思い出せそうな気もするけど、作業部屋に籠るのは、今の私と会うのが辛いから、そんな気がする。言わずともそれを感じさせるほど、この家は二人で暮らした痕跡が沢山ある。日を重ねるたびに、はっきりと突きつけられた。
このままではいけない気がして、彼女が出かけた隙に家中を何かを求めて探し回った。だけど、特に成果は得られず、残すところ作業部屋だけになった。
「勝手に入ってごめんなさい」
そう誰もいない部屋に言って、扉を開けた。パッとみた感じでは、ただの机と椅子があるだけの作業部屋に見えたが、よくみると全てニ人分あった。机も椅子も、二つ。私は、彼女とここで仕事をしていたのだろうか。部屋の隅にあるクローゼットを開けてみた。すると、私にピッタリのサイズの服が並んでいた。思わず息を呑む。他のところも開けてみようと思い、私の机らしきものの引き出しを引いた。中には彼女と私が笑っている写真がいくつも入っていた。手に取り、眺めていると今までの中で一番大きな頭痛に襲われ、私はそこで意識を失った。
「ゆーちゃん、ゆーちゃん」
誰かが、呼んでいる。
「もう、どこにも行かないで」
泣いているのだろうか。
「ゆーちゃん、私を1人にしないで」
あぁ、これは、そうだ。えっと、彼女は、、、。肝心なところが思い出せない。
「あの日の事、謝るから」
彼女の縋るような声が響いている。違うよ、違うんだよ。なぜだか、そう言いたい気持ちが溢れている。だけど、まだ言葉にならない。私はそのまま、また深い眠りへと誘われた。
「ゆーちゃんのバカ!なんでわかってくれないの?」
夢を見ているのだろうか。私と彼女が喧嘩をしている。
「ノアだって、私の気持ちわかんないでしょ」
あぁ、そうか、彼女はノアだった。
「だからって自分を傷つけてまで、私を守ろうとしないで、もっと自分を大切にしてよ」
私は何をしたのだろう。でも、きっと良くない事をした。だから早く謝れば良いのに。
「もういい、出ていく」
私はそう言って、家を出た。
「なんで、素直に謝れないんだろう」
そう呟きながら、森へ入っていった。森は危険なのに。
森へは、いつもノアが行っていた。ノアは、森に慣れているから。でも、ある日ノアの帰りがいつもより遅い日があって、私はノアを探して森に入った。しばらく歩くと、オオカミとノアを見つけた。どうやらオオカミに追われているようだ。ノア一人だったら、いつも通り、うまく逃げて帰ってくるはずだったのだろう。だけど、目の前にそんな光景が広がっていたら飛び出さずにはいられなかった。
「危ない!」
私が、そう言ってノアに近づくオオカミの前に出た。そして私は足を噛まれ、びっくりしたノアがオオカミを倒した。幸い噛まれただけで済んだが、それでも治るまで歩行が少し難しかった。
喧嘩の原因はこれだった。それなのに私は、森へ入っていった。謝るために、ノアへのプレゼントが欲しかったのだ。確か、前来た時に綺麗な花があったのを覚えている。それを取りたかった。だけど、傷が治っていない私は、花を取った後の帰り道、斜面で足を踏み外し、気を失っててしまったのだ。それをノアが見つけ、最初に戻る。
全部思い出した。まだ、声がする。ノアが呼んでいる。早く目を覚さなきゃ。ノア、ごめんね。でも、もう大丈夫だよ。ノア。
「ノア」
いつの間にか、言葉になっていた。
「ゆーちゃん?ゆーちゃん、思い出したの?」
ノアは相変わらず、涙を流しながら私の名前を呼んでいた。
「ノア、ごめんね」
今度はちゃんと目を見て言った。
「いいよ。大丈夫。私もごめん」
ノアは、泣いてるのに笑っていて、それにつられて私も笑った。
「ノア、ありがとう。これからも一緒にいようね」
そう言って彼女の手を掴んだ。
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陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
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