レベリング・マーダー 一週間に一回は人を殺さないと自分が死んでしまう。ならばいっそ勧善懲悪しよう。

シオヤマ琴@『最強最速』発売中

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第76話 電光石火

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その男を見てあきらが口を開く。

「あなたも殺人者感知呪文使ってたんでしょ」
「ああ。つうかお前あの時どこにいたんだ? 確かに殺人者の気配は二人分あったはずなのにお前の姿は見えなかったぜ」
「ふふん、秘密だよ~」
「けっ、生意気なガキだな。それよりお前ら何しに来た? オレを殺りに来たのか?」
男が俺の顔を見据えて言った。

「いや、別件だ。お前のことは今の今まで知らなかった。殺す気もない」
「へー、そうかい。そりゃラッキーだぜ」
(嘘つけ、騙されるかよっ。わざわざ大学まで偵察に来てたくせしやがって……こいつら、ぜってぇオレを殺りに来たに違いねぇぞ)

男は言葉とは裏腹に心の内では俺の言葉を全然信じていない。

(隙をうかがってオレを殺るつもりだな……だったらこっちから仕掛けてやるぜっ)

「おい、待て。ちゃんと俺の話を聞け。俺たちはお前と殺し合いをする気はない」
「ああ、ちゃんと聞いてるぜ」
言うと次の瞬間男は手を俺に向けた。

そして、
「ンダキウク!」
と叫んだ。

直後男の手から見えない何かが飛んできてそれに当たった俺を後方へ吹き飛ばす。

「うおっ……!?」

軽トラックに撥ね飛ばされたような勢いで電信柱にぶつかった俺に、「ヤマトさん、大丈夫っ?」とあきらが声をかけてきた。

「あ、ああ……なんとかな」
全身がきしむように痛いが致命傷ではないはずだ。

すると男はなおも、
「ンダキウク!」
攻撃呪文を唱えてくる。
俺はとっさに横に跳び避けた。ガンッと背後にあった電信柱が音を立てて折れ曲がる。

「ヤマトさん、さっきの教授はヤマトさんに譲ってあげたんだからあの男の人は僕が殺っちゃってもいいよね?」
「ああ、仕方ない。好きにしろっ」
「やったっ」

こんな町中で殺し合いなどしたくなかったが相手は止める気配がないのでやるしかない。

「あきら、人に見られないように素早く頼むぞっ」
「別に見られたらその人も殺せばいいじゃん」
「駄目だ。関係ない人は巻き込むな」
俺はやむを得ない場合を除いては人を殺すつもりはない。

「は~い。じゃあさっさと殺すよ」
そう言うとあきらは男に向き直った。
その間も男は見えない空気の塊を俺に放ってきていたが、俺は男の手の向きを見ながらなんとかこれをかわしていた。

と、
「カッセウコンデ」
あきらがつぶやく。
その刹那、あきらの体が金色に光ったかと思うと一瞬のうちにあきらは男の背後に移動していた。

そして振り向いて俺に「終わったよ」と声を飛ばしてくる。

「終わった? どういうことだ?」俺がそう返そうとした時、
「ぶふぁっ……!」
男が血を吐いて地面に倒れた。

「あきら、お前今何やったんだ?」
「早く殺せって言われたから早く殺しただけだけど」
特別なことは何もしていないと言わんばかりの口調で答えるあきら。
いつも通り平然とした顔をしている。

あきらが何をしたのか速すぎて俺には正直全然見えなかったが男を殺したことは確かだった。
ほどなくして男の死体が俺の目の前から消えていったのだから。

「まあ、いいか。さてと……」
俺は何気なく後ろを振り返った。
するとそこには間の悪いことに一人の女子学生が立っていた。

ヤバ……見られた……?

「ひっ!」
俺と目が合った女子学生が小さく悲鳴を上げる。
やはり男が血を吐き、さらには消えるところを見られていたようだ。

「あ~あ、お姉さん運が悪いね~。ヤマトさん、その人も殺すけどいいよね?」
疑問形ではあったがその時のあきらの顔は有無を言わさぬ圧のようなものを感じた。

「あ、馬鹿待てっ。やめろあきらっ」
「なんで? 見られたんだから殺すしかないでしょ」
あきらはくりくりっとしたビー玉のごとき目で俺を見返してくる。

あきらは女子学生を見定め、
「カッセウ――」
「俺は記憶消去の呪文を覚えてるんだっ。それを使えば殺す必要はないっ」
「…………ふーん。な~んだ、だったら早く言ってよねヤマトさん。もう少しで殺すところだったよ」
俺の言葉を受け女子学生を殺すことをやめた。

体を小刻みに震わせながら立ちすくんでしまっていた女子学生に俺は近付いていくと、
「こ、来ないでっ! お、大声出しますよっ……!」
「ヨキウヨシクオキ」
記憶消去の呪文をかけた。
途端にうつろな表情になる女子学生。

俺はそんな女子学生を見てから、
「さ、あきら。これで大丈夫だ。早いとこ帰るぞ」
あきらに声をかける。

「は~い」
あきらはついさっきまで無関係の女子学生を殺そうとしていたとは思えない子どもらしい可愛い笑みを浮かべると、俺のもとへと駆け寄ってきて俺の手を握った。


この時俺は初めてあきらと会った時にあきらが口にしたセリフを思い返していた。

《僕は快楽主義者タイプかな。気分次第で誰でも殺すんだ》

当時は冗談だと一笑に付したが、あながちあの言葉は冗談ではなかったのかもしれない。
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