レベリング・マーダー 一週間に一回は人を殺さないと自分が死んでしまう。ならばいっそ勧善懲悪しよう。

シオヤマ琴@『最強最速』発売中

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第115話 透視呪文

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俺は愛知県に向かう新幹線の中で覚えたばかりの呪文である透視呪文とやらを試してみることにした。

「シウト」

だが口にしてみても何も目に見えて変化がない。

「あれ? おかしいな……」
てっきり物が透けて見えるようになる呪文だと思っていたのだが、新幹線の座席が透けることもなければ、新幹線の壁が透けて外が見えるようになるというわけでもなかった。

「なんだこれ……?」
とその時、
「お客様、お飲み物はいかがですか?」
斜め後ろから声をかけられた。
販売員さんがカートを押してやってきたのだった。

「あ、結構です」と答えようと振り向いた瞬間、俺は固まってしまう。
というのも女性の販売員さんの服が透けて見えていたからだ。
それだけならばラッキーくらいに思ったかもしれないが、女性の顔は小学校の実験室にあるような人体模型よろしく血管が浮き出て見えていた。

「お客様? どうかいたしましたか?」
「あ、い、いえ、大丈夫です。すいませんっ、なんでもないですっ」
俺は手と首をさささっと振りながらその場をやり過ごす。

「そ、そうですか。それでは失礼いたしますね」
女性の販売員さんはおかしなお客に声をかけてしまったとでも思ったのだろう、そそくさと俺の隣から去っていった。

なんだこの呪文……?
なんの役に立つっていうんだ?

ろくでもない呪文を覚えてしまったと考え込んでいるとスマホがズボンのポケットの中で震える。
俺はスマホを取り出してみるとそこにはあきらからのLINEが届いていた。

[澤田湊って奴、多分今誰かに変身して名古屋辺りにいると思うけど見分けられる方法があるよ。]

[ヤマトさん、透視呪文って覚えてるかな? もし使えるなら変身前の姿が透けて見えるから見破れるよ。覚えてないならまあ、適当に頑張ってよ。じゃあねヤマトさん。]

ずいぶんタイミングのいいLINEだな。
まるで俺の動向を逐一監視しているような文面じゃないか。ええ? あきら。

俺はこの後とりあえず名古屋駅に向かった。
そして名古屋駅の前で通行人をただ透視しながら眺めるという非常に地道な作戦を決行したのだった。


◇ ◇ ◇


もちろん簡単に澤田湊がみつかるはずもなく、俺は約半日を無駄に過ごした。
その中でわかったことといえば透視呪文の持続時間は三時間だということくらいだった。

その次の日からも俺は毎日名古屋駅前で張った。
時折りあきらからのLINEで[今は豊田市にいるよ。]とか、[今すぐみよし市に行ってみて。]とか指示があった場合を除いてはずっと名古屋駅で粘った。

だがその甲斐もなくはや十日が過ぎようとしていた。
俺はこの間に名古屋市で悪人を二人ほどあの世へと送っていたのだが、どちらも俺のターゲットである澤田湊ではなかった。

「はぁ~、これいつまで続くんだろ……」
ぼそっとつぶやきながらそれでも目は通行人から外さない。
とそんなところへ、
「あれ~? 鬼束パイセンじゃないっすか?」
聞き覚えのある声が降ってきた。
俺のことを変な敬称をつけて呼ぶ奴は一人しかいない。振り向かなくても誰だかわかる。

「ちょっと、無視しないでくださいよ鬼束パイセンっ」
「……岡島」
声の主である岡島は俺の目の前に回り込んできた。

「おい邪魔だ、見えない。そこどいてくれ」
「うぃっす」
相変わらず俺を尊敬してるとは思えない言葉遣いで返してくる岡島。
そして相変わらず嫌みなほどイケメンだ。
人体模型のように見えていてもイケメンぶりがわかる。

「こんなとこで何してるんすか?」
「それはこっちのセリフだ。お前群馬でホストやってるんじゃなかったのか」
俺は少しだけ街行く人を見る目を休ませて岡島に向き直った。
すると岡島の両隣にはとんでもなくきれいな女性が二人立っていた。

「ね~翔くん、誰この人~?」
「岡島ってな~に~?」
見た目に反比例して頭の悪そうな喋り方をする女性たち。
類は友を呼ぶということなのか?

「あー、この人は鬼束パイセンつっておれが前働いてたとこですっげ―お世話になった人なの」
「へ~、マジで~」
「ははっ、超ウケる~」

……なんだこいつらは。
顔面偏差値に極振りし過ぎだろ。
岡島がまだマシに思えてくる。

「ちょっち二人ともそこでお茶しててくんない? おれすぐ行くからさっ」
「う~い。わかったよ~」
「行ってくんね~、鬼束パイセンさ~ん」
手をぷらぷらさせながら二人が去っていき、
「……お前、変わらないな」
「そっすか? へへっ、あざっす」
岡島と二人きりになると岡島は俺の隣にすっと座った。

「なんだよ……俺こう見えて暇じゃないんだからな。何もないならさっきの二人のところに行ってくれ」
はたから見たら何時間もただ駅前に座っているだけの変な奴に見えるかもしれないが、俺は殺人者探しに忙しい身なのだ。
馬鹿に付き合っている余裕などない。

だが、
「実は鬼束パイセンに相談があるんすよね」
そう前置きしてから岡島はこう言った。

「おれ、あの二人のどっちかに命狙われてるっぽいっす」
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