38 / 59
第38話 帰還
しおりを挟む
気付けば俺は白金の大迷宮がある公園にいた。
「ふぅ~……今のは我ながらナイスな判断だったな」
俺のスキルである緊急脱出を発動したことで、ミノケンタウロスの投げ放ったヤリから間一髪のところで地上へと逃げおおせることが出来たわけだが。
「とはいえ、惜しいことしたなぁ……」
悔やまれるのは入手していたアイテムの数々。
「高く売れそうなアイテムを持ってたのにな……ちっ」
緊急脱出は全MPを消費して地上へと一瞬で帰還するという便利なスキルなのだが、その代償として所持アイテムをすべて没収されてしまうのだった。
なのでせっかくダンジョン内で手に入れていたエリクサーなどのレアアイテムもすべて消え去ってしまっていた。
「特にさっきのエリクサーによく似たアイテムはもったいなかった気がするな」
つい先ほど裏ダンジョンでみつけていたエリクサーと色違いの液体は、見たことのないアイテムだったので、かなり高値で買い取ってもらえると思っていた。
それだけに非常に残念でならない。
「まあ、命があっただけマシか……でも、少しだけ楽しかったな。ははっ」
自分に言い聞かせるようにつぶやいた俺は、ボロボロの身体を引きずるようにして帰路へとつくのだった。
◆ ◆ ◆
ミノケンタウロスから受けた傷は一晩寝て休むと全回復していた。
俺の最大HPが高いことによる恩恵だろう。
「さてと、今日はどうするかな……」
骸骨から譲り受けた黒いホイッスルは俺の部屋の机の中にしまってある。
今の俺の強さではまだ裏ダンジョンは早いのかもしれない。
そう考え、当分は裏ダンジョンへ行くことは控えておこうと思っている。
俺のレベルは現在3500だが、ゴールドメタルスライムを1匹倒せば1レベルくらいは上がるはずだ。
なので裏ダンジョンへ行くとしてもしばらくはまた白金の大迷宮でレベルを上げることになるだろう。
とはいえ最近は戦ってばかりいた。
少しは休暇を取ってもいいのかもしれない。
俺はすでに人が生涯に稼ぐことの出来る額の大半をもう稼いでしまっているのだから。
「たまにはどっか遊びに行くか」
そうひとりごちたところ、
ピリリリリ……ピリリリリ……。
スマホの着信音が鳴った。
誰だろう。
俺はスマホを手に取り、その画面を確認する。
とそこに表示されていた名前にびっくり。
「――き、岸田さん!?」
それは岸田さんからの電話だった。
俺は意味もなくそわそわしつつ、電話に出る。
「あー、もしもし。岸田さん?」
『おはようございます、木崎さん』
相変わらずの平坦な声。
「どうしたの? 珍しいね、俺に電話なんて。っていうか初めてだよね?」
『そうですね』
岸田さんとはバイト時代に、シフト調整のため携帯番号を交換したことがあるのだが、連絡を取り合ったことは今までにただの一度もない。
そのため、突然の岸田さんからの電話に俺はつい構えてしまう。
「えっと、それで用は何かな?」
『……』
俺が訊くとなぜか黙ってしまう岸田さん。
「……岸田さん?」
『……』
返事がなくどうしていいかわからない俺もついつい黙り込む。
「……」
『……』
沈黙の時間が流れる。
とその時だった。
やっと受話器の向こうから岸田さんの声が聞こえてきた。
『……あの、今から変なこと言いますけど勘違いしないでくださいね』
「ん? うん」
『木崎さん。少しの間だけでいいので、わたしの恋人になってもらえませんか?』
「うん…………えぇっ!?」
「ふぅ~……今のは我ながらナイスな判断だったな」
俺のスキルである緊急脱出を発動したことで、ミノケンタウロスの投げ放ったヤリから間一髪のところで地上へと逃げおおせることが出来たわけだが。
「とはいえ、惜しいことしたなぁ……」
悔やまれるのは入手していたアイテムの数々。
「高く売れそうなアイテムを持ってたのにな……ちっ」
緊急脱出は全MPを消費して地上へと一瞬で帰還するという便利なスキルなのだが、その代償として所持アイテムをすべて没収されてしまうのだった。
なのでせっかくダンジョン内で手に入れていたエリクサーなどのレアアイテムもすべて消え去ってしまっていた。
「特にさっきのエリクサーによく似たアイテムはもったいなかった気がするな」
つい先ほど裏ダンジョンでみつけていたエリクサーと色違いの液体は、見たことのないアイテムだったので、かなり高値で買い取ってもらえると思っていた。
それだけに非常に残念でならない。
「まあ、命があっただけマシか……でも、少しだけ楽しかったな。ははっ」
自分に言い聞かせるようにつぶやいた俺は、ボロボロの身体を引きずるようにして帰路へとつくのだった。
◆ ◆ ◆
ミノケンタウロスから受けた傷は一晩寝て休むと全回復していた。
俺の最大HPが高いことによる恩恵だろう。
「さてと、今日はどうするかな……」
骸骨から譲り受けた黒いホイッスルは俺の部屋の机の中にしまってある。
今の俺の強さではまだ裏ダンジョンは早いのかもしれない。
そう考え、当分は裏ダンジョンへ行くことは控えておこうと思っている。
俺のレベルは現在3500だが、ゴールドメタルスライムを1匹倒せば1レベルくらいは上がるはずだ。
なので裏ダンジョンへ行くとしてもしばらくはまた白金の大迷宮でレベルを上げることになるだろう。
とはいえ最近は戦ってばかりいた。
少しは休暇を取ってもいいのかもしれない。
俺はすでに人が生涯に稼ぐことの出来る額の大半をもう稼いでしまっているのだから。
「たまにはどっか遊びに行くか」
そうひとりごちたところ、
ピリリリリ……ピリリリリ……。
スマホの着信音が鳴った。
誰だろう。
俺はスマホを手に取り、その画面を確認する。
とそこに表示されていた名前にびっくり。
「――き、岸田さん!?」
それは岸田さんからの電話だった。
俺は意味もなくそわそわしつつ、電話に出る。
「あー、もしもし。岸田さん?」
『おはようございます、木崎さん』
相変わらずの平坦な声。
「どうしたの? 珍しいね、俺に電話なんて。っていうか初めてだよね?」
『そうですね』
岸田さんとはバイト時代に、シフト調整のため携帯番号を交換したことがあるのだが、連絡を取り合ったことは今までにただの一度もない。
そのため、突然の岸田さんからの電話に俺はつい構えてしまう。
「えっと、それで用は何かな?」
『……』
俺が訊くとなぜか黙ってしまう岸田さん。
「……岸田さん?」
『……』
返事がなくどうしていいかわからない俺もついつい黙り込む。
「……」
『……』
沈黙の時間が流れる。
とその時だった。
やっと受話器の向こうから岸田さんの声が聞こえてきた。
『……あの、今から変なこと言いますけど勘違いしないでくださいね』
「ん? うん」
『木崎さん。少しの間だけでいいので、わたしの恋人になってもらえませんか?』
「うん…………えぇっ!?」
140
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】
・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー!
十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。
そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。
その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。
さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。
柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。
しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。
人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。
そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる