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第40話 ストーカー
「ストーカー? 岸田さんがストーカーされてるの?」
「そうですけど、信じられませんか? わたしにストーカーなどいるはずがないとでも?」
「あ、いやいや、そういう意味で言ったんじゃなくてっ。誤解しないで」
「そうですか」
表情は相変わらずの能面みたいなそれだが、口調が怒ったような口ぶりだったので、俺は慌てて否定するとともに誤解を解いた。
「えっと、ストーカーは男の人?」
「はい。年は多分木崎さんと同じくらいだと思います」
「ん? ってことは相手の顔とかは知ってるわけ?」
「はい。わたしのあとをこそこそと付け回していた男の人がいたので、わたしの方から近付いていって、なんですか? と話しかけましたから」
「へー、そうなんだ」
無表情の岸田さんがその男に対して冷静に話しかける様子が目に浮かぶ。
その男の方もさぞ驚いただろうな。
「それで、どうなったの?」
「その男の人は何も言わずにびくびくしながらわたしに一本の花を手渡して、そのまま走って去っていきました。でも次の日からまた、気付くとわたしのあとをつけていました」
「ふーん」
どうやら消極的だけど、粘着質な男のようだな。
「岸田さんはその人のこと、嫌いってことでいいんだよね?」
訊ねると、
「嫌いというか、そもそもわたし、男の人を好きになったことがないのでよくわかりません。でもその人と付き合いたいとは思っていません」
という答えが返ってくる。
「あー、そう」
岸田さんはさらに続ける。
「どうにかしてその男の人にわたしのことを諦めてもらいたいんですけど、どうすればいいかわからなくて。それでこの前インターネットでそのことを不特定多数の人に相談してみたところ、恋人がいれば諦めるはずだと言われまして。でもわたしにはお付き合いしている人はいないので、それで木崎さんに恋人のフリを頼めないかと思ったんです」
「そういうことだったんだ」
「はい。理由は今話した通りです。引き受けてもらえますか?」
言いつつ、岸田さんはどこか眠たそうな目を俺に向けてくる。
表情ではわかりにくいが、多分かなり困っているに違いない。
でなければわざわざ俺なんかに恋人のフリなど頼まないだろうからな。
なので、
「……わかった。いいよ」
俺は岸田さんの頼みをこころよく引き受けることにした。
「本当ですか。助かります。わたし、ほかに頼めそうな男の人の知り合いいなかったので。断られたらどうしようかと思っていました」
どんな頼みごとであれ、女性に頼りにされて悪い気はしない。
それに岸田さんはあのいやみったらしい店長ではなく、俺を頼ってくれたという点も素直に嬉しい。
「では早速これからデートをしましょう。多分今日も家の外でわたしのことを見張っていると思いますから」
「デートね。わかったよ」
もちろんデートのフリではあるが、俺にとっては人生初デートだ。
いやが応にもテンションが上がる。
……いやいや、これはあくまでストーカーを諦めさせるためにやることだ。
岸田さんは真剣に悩んでいるのだから、俺も気を引き締めなくてはな。
俺は心の中で自分を戒めるとともに、気合いを入れ直した。
「というわけなので、わたしこれから着替えますから一旦部屋を出ていってもらってもいいですか?」
「え、着替える?」
岸田さんはそんなことを言ったので俺は思わず聞き返す。
「はい。さすがにデートにスウェット姿はどうかと思いますから」
「うん、まあそう言われればそうか」
岸田さんは言葉通り、今現在はスウェット姿だ。
たしかにデートをするなら、もっと華やかな服装に着替えた方がよりデートらしく見えるかもな。
デート未経験の俺としては、岸田さんに言われるまで別になんとも思わなかったがな。
するとしゅるしゅるという布のこすれるような音が聞こえた。
俺は顔を上げ、絶句する。
なぜなら部屋を出ていってと言っていたくせに、岸田さんは俺が部屋にまだいるにもかかわらず服を脱ぎ始めていたからだ。
「うわ、ちょっとっ!?」
俺は慌てて部屋の外へ飛び出し、ドアを閉め、そのドアに背中を預ける。
そして今見た光景を忘れようと、頭を左右にぶんぶんと振った。
「そうですけど、信じられませんか? わたしにストーカーなどいるはずがないとでも?」
「あ、いやいや、そういう意味で言ったんじゃなくてっ。誤解しないで」
「そうですか」
表情は相変わらずの能面みたいなそれだが、口調が怒ったような口ぶりだったので、俺は慌てて否定するとともに誤解を解いた。
「えっと、ストーカーは男の人?」
「はい。年は多分木崎さんと同じくらいだと思います」
「ん? ってことは相手の顔とかは知ってるわけ?」
「はい。わたしのあとをこそこそと付け回していた男の人がいたので、わたしの方から近付いていって、なんですか? と話しかけましたから」
「へー、そうなんだ」
無表情の岸田さんがその男に対して冷静に話しかける様子が目に浮かぶ。
その男の方もさぞ驚いただろうな。
「それで、どうなったの?」
「その男の人は何も言わずにびくびくしながらわたしに一本の花を手渡して、そのまま走って去っていきました。でも次の日からまた、気付くとわたしのあとをつけていました」
「ふーん」
どうやら消極的だけど、粘着質な男のようだな。
「岸田さんはその人のこと、嫌いってことでいいんだよね?」
訊ねると、
「嫌いというか、そもそもわたし、男の人を好きになったことがないのでよくわかりません。でもその人と付き合いたいとは思っていません」
という答えが返ってくる。
「あー、そう」
岸田さんはさらに続ける。
「どうにかしてその男の人にわたしのことを諦めてもらいたいんですけど、どうすればいいかわからなくて。それでこの前インターネットでそのことを不特定多数の人に相談してみたところ、恋人がいれば諦めるはずだと言われまして。でもわたしにはお付き合いしている人はいないので、それで木崎さんに恋人のフリを頼めないかと思ったんです」
「そういうことだったんだ」
「はい。理由は今話した通りです。引き受けてもらえますか?」
言いつつ、岸田さんはどこか眠たそうな目を俺に向けてくる。
表情ではわかりにくいが、多分かなり困っているに違いない。
でなければわざわざ俺なんかに恋人のフリなど頼まないだろうからな。
なので、
「……わかった。いいよ」
俺は岸田さんの頼みをこころよく引き受けることにした。
「本当ですか。助かります。わたし、ほかに頼めそうな男の人の知り合いいなかったので。断られたらどうしようかと思っていました」
どんな頼みごとであれ、女性に頼りにされて悪い気はしない。
それに岸田さんはあのいやみったらしい店長ではなく、俺を頼ってくれたという点も素直に嬉しい。
「では早速これからデートをしましょう。多分今日も家の外でわたしのことを見張っていると思いますから」
「デートね。わかったよ」
もちろんデートのフリではあるが、俺にとっては人生初デートだ。
いやが応にもテンションが上がる。
……いやいや、これはあくまでストーカーを諦めさせるためにやることだ。
岸田さんは真剣に悩んでいるのだから、俺も気を引き締めなくてはな。
俺は心の中で自分を戒めるとともに、気合いを入れ直した。
「というわけなので、わたしこれから着替えますから一旦部屋を出ていってもらってもいいですか?」
「え、着替える?」
岸田さんはそんなことを言ったので俺は思わず聞き返す。
「はい。さすがにデートにスウェット姿はどうかと思いますから」
「うん、まあそう言われればそうか」
岸田さんは言葉通り、今現在はスウェット姿だ。
たしかにデートをするなら、もっと華やかな服装に着替えた方がよりデートらしく見えるかもな。
デート未経験の俺としては、岸田さんに言われるまで別になんとも思わなかったがな。
するとしゅるしゅるという布のこすれるような音が聞こえた。
俺は顔を上げ、絶句する。
なぜなら部屋を出ていってと言っていたくせに、岸田さんは俺が部屋にまだいるにもかかわらず服を脱ぎ始めていたからだ。
「うわ、ちょっとっ!?」
俺は慌てて部屋の外へ飛び出し、ドアを閉め、そのドアに背中を預ける。
そして今見た光景を忘れようと、頭を左右にぶんぶんと振った。
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