40 / 59
第40話 ストーカー
しおりを挟む
「ストーカー? 岸田さんがストーカーされてるの?」
「そうですけど、信じられませんか? わたしにストーカーなどいるはずがないとでも?」
「あ、いやいや、そういう意味で言ったんじゃなくてっ。誤解しないで」
「そうですか」
表情は相変わらずの能面みたいなそれだが、口調が怒ったような口ぶりだったので、俺は慌てて否定するとともに誤解を解いた。
「えっと、ストーカーは男の人?」
「はい。年は多分木崎さんと同じくらいだと思います」
「ん? ってことは相手の顔とかは知ってるわけ?」
「はい。わたしのあとをこそこそと付け回していた男の人がいたので、わたしの方から近付いていって、なんですか? と話しかけましたから」
「へー、そうなんだ」
無表情の岸田さんがその男に対して冷静に話しかける様子が目に浮かぶ。
その男の方もさぞ驚いただろうな。
「それで、どうなったの?」
「その男の人は何も言わずにびくびくしながらわたしに一本の花を手渡して、そのまま走って去っていきました。でも次の日からまた、気付くとわたしのあとをつけていました」
「ふーん」
どうやら消極的だけど、粘着質な男のようだな。
「岸田さんはその人のこと、嫌いってことでいいんだよね?」
訊ねると、
「嫌いというか、そもそもわたし、男の人を好きになったことがないのでよくわかりません。でもその人と付き合いたいとは思っていません」
という答えが返ってくる。
「あー、そう」
岸田さんはさらに続ける。
「どうにかしてその男の人にわたしのことを諦めてもらいたいんですけど、どうすればいいかわからなくて。それでこの前インターネットでそのことを不特定多数の人に相談してみたところ、恋人がいれば諦めるはずだと言われまして。でもわたしにはお付き合いしている人はいないので、それで木崎さんに恋人のフリを頼めないかと思ったんです」
「そういうことだったんだ」
「はい。理由は今話した通りです。引き受けてもらえますか?」
言いつつ、岸田さんはどこか眠たそうな目を俺に向けてくる。
表情ではわかりにくいが、多分かなり困っているに違いない。
でなければわざわざ俺なんかに恋人のフリなど頼まないだろうからな。
なので、
「……わかった。いいよ」
俺は岸田さんの頼みをこころよく引き受けることにした。
「本当ですか。助かります。わたし、ほかに頼めそうな男の人の知り合いいなかったので。断られたらどうしようかと思っていました」
どんな頼みごとであれ、女性に頼りにされて悪い気はしない。
それに岸田さんはあのいやみったらしい店長ではなく、俺を頼ってくれたという点も素直に嬉しい。
「では早速これからデートをしましょう。多分今日も家の外でわたしのことを見張っていると思いますから」
「デートね。わかったよ」
もちろんデートのフリではあるが、俺にとっては人生初デートだ。
いやが応にもテンションが上がる。
……いやいや、これはあくまでストーカーを諦めさせるためにやることだ。
岸田さんは真剣に悩んでいるのだから、俺も気を引き締めなくてはな。
俺は心の中で自分を戒めるとともに、気合いを入れ直した。
「というわけなので、わたしこれから着替えますから一旦部屋を出ていってもらってもいいですか?」
「え、着替える?」
岸田さんはそんなことを言ったので俺は思わず聞き返す。
「はい。さすがにデートにスウェット姿はどうかと思いますから」
「うん、まあそう言われればそうか」
岸田さんは言葉通り、今現在はスウェット姿だ。
たしかにデートをするなら、もっと華やかな服装に着替えた方がよりデートらしく見えるかもな。
デート未経験の俺としては、岸田さんに言われるまで別になんとも思わなかったがな。
するとしゅるしゅるという布のこすれるような音が聞こえた。
俺は顔を上げ、絶句する。
なぜなら部屋を出ていってと言っていたくせに、岸田さんは俺が部屋にまだいるにもかかわらず服を脱ぎ始めていたからだ。
「うわ、ちょっとっ!?」
俺は慌てて部屋の外へ飛び出し、ドアを閉め、そのドアに背中を預ける。
そして今見た光景を忘れようと、頭を左右にぶんぶんと振った。
「そうですけど、信じられませんか? わたしにストーカーなどいるはずがないとでも?」
「あ、いやいや、そういう意味で言ったんじゃなくてっ。誤解しないで」
「そうですか」
表情は相変わらずの能面みたいなそれだが、口調が怒ったような口ぶりだったので、俺は慌てて否定するとともに誤解を解いた。
「えっと、ストーカーは男の人?」
「はい。年は多分木崎さんと同じくらいだと思います」
「ん? ってことは相手の顔とかは知ってるわけ?」
「はい。わたしのあとをこそこそと付け回していた男の人がいたので、わたしの方から近付いていって、なんですか? と話しかけましたから」
「へー、そうなんだ」
無表情の岸田さんがその男に対して冷静に話しかける様子が目に浮かぶ。
その男の方もさぞ驚いただろうな。
「それで、どうなったの?」
「その男の人は何も言わずにびくびくしながらわたしに一本の花を手渡して、そのまま走って去っていきました。でも次の日からまた、気付くとわたしのあとをつけていました」
「ふーん」
どうやら消極的だけど、粘着質な男のようだな。
「岸田さんはその人のこと、嫌いってことでいいんだよね?」
訊ねると、
「嫌いというか、そもそもわたし、男の人を好きになったことがないのでよくわかりません。でもその人と付き合いたいとは思っていません」
という答えが返ってくる。
「あー、そう」
岸田さんはさらに続ける。
「どうにかしてその男の人にわたしのことを諦めてもらいたいんですけど、どうすればいいかわからなくて。それでこの前インターネットでそのことを不特定多数の人に相談してみたところ、恋人がいれば諦めるはずだと言われまして。でもわたしにはお付き合いしている人はいないので、それで木崎さんに恋人のフリを頼めないかと思ったんです」
「そういうことだったんだ」
「はい。理由は今話した通りです。引き受けてもらえますか?」
言いつつ、岸田さんはどこか眠たそうな目を俺に向けてくる。
表情ではわかりにくいが、多分かなり困っているに違いない。
でなければわざわざ俺なんかに恋人のフリなど頼まないだろうからな。
なので、
「……わかった。いいよ」
俺は岸田さんの頼みをこころよく引き受けることにした。
「本当ですか。助かります。わたし、ほかに頼めそうな男の人の知り合いいなかったので。断られたらどうしようかと思っていました」
どんな頼みごとであれ、女性に頼りにされて悪い気はしない。
それに岸田さんはあのいやみったらしい店長ではなく、俺を頼ってくれたという点も素直に嬉しい。
「では早速これからデートをしましょう。多分今日も家の外でわたしのことを見張っていると思いますから」
「デートね。わかったよ」
もちろんデートのフリではあるが、俺にとっては人生初デートだ。
いやが応にもテンションが上がる。
……いやいや、これはあくまでストーカーを諦めさせるためにやることだ。
岸田さんは真剣に悩んでいるのだから、俺も気を引き締めなくてはな。
俺は心の中で自分を戒めるとともに、気合いを入れ直した。
「というわけなので、わたしこれから着替えますから一旦部屋を出ていってもらってもいいですか?」
「え、着替える?」
岸田さんはそんなことを言ったので俺は思わず聞き返す。
「はい。さすがにデートにスウェット姿はどうかと思いますから」
「うん、まあそう言われればそうか」
岸田さんは言葉通り、今現在はスウェット姿だ。
たしかにデートをするなら、もっと華やかな服装に着替えた方がよりデートらしく見えるかもな。
デート未経験の俺としては、岸田さんに言われるまで別になんとも思わなかったがな。
するとしゅるしゅるという布のこすれるような音が聞こえた。
俺は顔を上げ、絶句する。
なぜなら部屋を出ていってと言っていたくせに、岸田さんは俺が部屋にまだいるにもかかわらず服を脱ぎ始めていたからだ。
「うわ、ちょっとっ!?」
俺は慌てて部屋の外へ飛び出し、ドアを閉め、そのドアに背中を預ける。
そして今見た光景を忘れようと、頭を左右にぶんぶんと振った。
120
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】
・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー!
十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。
そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。
その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。
さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。
柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。
しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。
人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。
そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる