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四章 ミートパイ事件
正体不明の後輩
前方から襲いかかって来たのは巨体なトロールだった。狂暴で攻撃力が高いトロールは危険度B級の魔物。
しかし、アルトリウスは頭上に落ちてくる棍棒を軽くかわして、バランスを崩したトロールの巨体を真っ二つに切り裂く。
アルトリウスの攻撃の速さは細剣を使うシアンのスピードとほぼ同じ……否、僅かだがシアンよりも速い。
スピードだけではない。間合いの取り方、防御、威力、技のキレ……どれを見ても学園一の魔剣使いと呼び名が高いシアンを凌駕している。
(彼の実力は間違いなくS組……なのに何故、彼はE組に甘んじているのだろう)
リリアの事件の時、シアンが目星すら付けられなかった事件の真犯人をアルトリウスは暴いた。
そして今回は生徒達を救うために、B級モンスターの巣窟まで足を運んでいる。
(剣の実力だけではない。これまでの判断の速さからして頭脳も明晰なはず。彼は明らかに自分の実力を世間に隠している……敵では無い事は確かだけど……わからない。彼は一体何者なんだ……?)
「……もしかして、俺の事を考えてます?」
「え?」
「先輩の視線が気になったものですから」
「あっ……すみません」
アルトリウスに指摘されて、シアンは初めて自分が彼を穴が開くほど見つめていた事に気付いて謝った。
「いえ……俺の方こそすみません。俺は、シアン先輩の疑問に何一つ答える事が出来ません……その方が、きっとお互いにとって良い事だと思いますので」
それはいつもの彼の声よりもとても低く重たいものだった。
「……思いつめた顔をしていますね」
「……どうして、そう思うのですか? 先輩に俺の顔は見えていないと思いますが」
「フードで隠されていても、貴方が憂いているのはわかります……貴方は何をそんなに思い悩んでいるのですか?」
アルトリウスは答えない。それでもシアンは言葉を続けて言った。
「……貴方が私を目を合わさないのは、自分の身の上を明かしたくないからですか? それとも……他に理由があるのでしょうか? 私も貴方の視線を感じる時があります……その視線は、何故か、そう理由はわからないですけど、何か私に謝りたいことがあるような……贖罪の念を感じるのです」
「っ…………!!」
シアンがずっと感じていたアルトリウスへの違和感。それを口に出すと彼ははっきりと動揺した。それはシアンの勘が当たっていたことを意味していた。
「もしかして、貴方は私を知っているのですか? 学校以外で会ったことがあるのですか?」
「……先輩の疑問には答えられないと言ったはずですが……でも、これだけは言っておきます。先輩と会ったのは正真正銘、稽古をしているのを見られたあの日が最初です」
「そう、ですか……」
アルトリウスが嘘をついているとは思わなかった。けれど、それならばますます疑問が大きくなる。
何故、ほぼ会って間もないはずのシアンに、アルトリウスが贖罪の念を抱くのだろうと。
「……貴方は私の疑問に何も答える気が無く、そしてまたこの一件が終わったら距離を取ってしまうのでしょうね」
アルトリウスは何も言わなかった。それが、答えだった。
「それでも、貴方は私と共にこうして共通の敵と戦ってくれるのですね」
「貴方は、私の味方……そう思って、いいのですよね?」
「はい。学園の平和を守りたい。その気持ちは貴方と一緒です」
「そうですか……なら、今はそれでいいです。全てが終わったら剣を交えてくれるという約束に偽りはないのでしょうから」
結局、この後輩の正体はわからないまま。そして、シアンに向ける謎の視線の理由もわからないまま。
けれども、彼が自分の敵ではないことははっきりしている。ならばこれほど心強いことはない。
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