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7章 リサイア大会 ペア戦予選編
知る必要のないことだ
夕陽を背後にコウの前に立っていたのは、意外な人物だった。
生徒会所属、二年S組リヒト。理事長の甥であり、成績優秀で水魔法が得意。普段は無口で、会長レイ以外の人間には関心を示さない事で有名だった。
一年の頃からずっと同じクラスだが、挨拶程度にしか言葉を交わした事が無い―――そのリヒトが自分からコウに話しかけて来たのは、これが初めての事だった。
いつもは眠たそうに細めている目は今、コウの身体を貫く刃のように鋭かった。
「そこで、何をしているの?」
驚きのあまり言葉を忘れて立ち尽くしていたコウに、リヒトが痺れを切らしたようにもう一度訊ねた。
「リヒトこそ……なんでここにいるの?」
コウは事情を説明せずに疑問をぶつけると、リヒトの視線はコウから後ろにある扉へと移った。
そして、リヒトは口を開き再びコウに何かを訊ねた。しかし、コウにはなんて言っているのか、さっぱりわからなかった。
「何を、言っているんだ? それ、どこの国の言葉だよ?」
「……知らないのなら、知る必要はない」
コウがそう訊ねると、リヒトは緊張を解いていつもの眠たそうな顔に戻った。そして、本棚を元に戻して壁を閉じようとする。
「待ってくれ!! これは知恵の門かもしれないんだ!」
「……それで?」
「おれはどうしてもここを開けたくて……」
「どうして?」
「それは……悪い、言えないけど……リヒトはもしかしてこの門の事、何か知っているのか?」
リヒトはコウの質問に答えなかった。制止を待たずに本棚を元の位置に戻し、そのまま帰ろうとするリヒトの腕をコウが掴む。
「待って! とても重要な事なんだ!! この学校の秘密がどうしても知りたい!」
「おれにとって大切な事は、レイと……」
「会長と?」
「……もう一度だけ言う。お前が、門について知る必要はない」
「でも!」
「しつこい」
「っ―――!」
尚を食い下がろうとするコウの腕を振り払う。その腕が偶々左腕だったため、コウは痛みを感じて顔を顰めた。
コウの異変に気付いたリヒトが、立ち去ろうとしていた足を止めて訊ねる。
「怪我……しているの?」
「あ……いや、これはなんでもな―――」
「ちょっと、みせて」
「あ! おいっ……!」
リヒトはコウの制止を聞かずに袖を捲り上げる。そして、左腕に残る生々しい傷跡に険しい表情を浮かべた。
「リヒト……?」
「こんな怪我してるのに……無理に動かしたでしょ? だから痛むんだよ」
リヒトはそう言うとコウの手首を掴んだまま転送魔法で怪しげな薬と包帯を取りだすと、患部にその薬を塗って慣れた手つきで包帯を巻き始めた。
「……慣れてるな」
「子どもの頃、レイもよく無茶をして、怪我いっぱいしてたから」
リヒトは包帯を巻き終えるとコウの手を放した。腕をぐるぐると廻してみると確かに痛みがとれている。
「凄いな……なんていう薬だ、それ」
「ただの痛み止め……おれが調合した」
「へぇ。流石、学年一の秀才」
「コウだっておれと同じクラスでしょ? それに魔法薬学の成績は、いつも二位だし」
「そうなの?」
「うん……いつもエルマンに、負けてるから」
『次のテストでは絶対に勝つけど』と闘志を燃やしている事から、結構な負けず嫌いのようだ。二位でも充分凄い成績だと思うのだが。
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