1 / 31
馴れ初め編
前編
しおりを挟む「連さぁ最近、波留斗の事避けてない?」
その会話が聞こえてきたのは幼馴染である白雪 紬の部屋からだった。
自分の名前が出てきたことで、波留斗はその部屋の扉を開ける直前で手を止めて、そっと息を潜めた。
紬が出したその質問は正しく、波留斗も最近気づいていた事だったからだ。
だから、この部屋にいるであろう連の返事を盗み聞きしようと息をするのさえ止めて耳を澄ませる。
「……苛々するんだよ、あいつ見てると」
舌打ちと共に聞こえてきた連の低い声に、波留斗は目の前が真っ暗になったような気分を味わった。
「は?」
「だからっ、あいつ見てるとマジで……苛々して、……暴発しそうになるから最近視界に入れないようにしてる」
恐らくいつものように紬のベッドに寝転がり、忌々しそうにそう語る連の声は低い上に小さかったので、所々聞き取れなかった。対して、比較的扉の近くにいるらしい紬の声ははっきり聞こえた。
「きもいこと言うのやめてくんない? ってか、この後波留斗来るんだけど?」
「はぁ!? 勝手に呼んでんじゃねぇよ! 何のために俺があいつを避けてると思ってんだよ!! 俺が我慢できなくなったらどうすんだ!」
「いや、全力で止めるに決まってんだろ。ここ俺の部屋だぞ? 波留斗に手を出したらマジで許さねぇから」
波留斗がその部屋の会話を聞けたのはそこまでだった。足音を立てないように気を付けながら一階に降りて、そのまま玄関からそっと幼馴染の家を出た。
波留斗の家は隣なので、即座に自分の部屋に帰ることが出来た。両親は仕事に出ていて今の時間はいない。今ほどそのことに感謝したことはない。だって、廊下を駆け込んでいる時の自分の顔色はかなり悪かった自覚がある。
(俺…………連にそこまで嫌われてたんだ……)
薄々そうなんじゃないかって思う時はあった。以前なら朝に波留斗が「おはよう」って声をかければ、笑顔を向けて、或いは機嫌が悪い時でも「おはよう」って返してくれた。それが、ここ最近は「……ああ」と口数少なく返事をするだけだった。
連の家は波留斗の家の隣だ。だから、三人で遊ぶ時は大体真ん中にあって、共働きで両親が留守しがちな波留斗の家に集まることが多かった。
それがいつの間にか集合場所は紬の部屋が多くなり、高校に入ってからは、連が波留斗の部屋に来ることもなくなった。
いつも三人一緒で遊んでいたのに、高校に入ってから連はバイトを始めて一緒に遊ぶ時間がかなり減った。でも、波留斗とは遊ばないのに紬とはしょっちゅう会っているらしいことは、紬の様子からなんとなくわかっていた。何故自分だけが避けられているのか、今日までわからなかったが……。
(俺、連になんかしたっけ? うぜぇくらい話しかけていたから? それとも、俺の気持ちがバレてたんかな……いやそれはないか)
共に成長していく中で、着実に少しずつ大きくなっていた波留斗の中の同性の友達に向けるのは少し異色の想い。紬にすらひた隠しにしていて、一生打ち明けないつもりだったその恋心が、いつの間にか態度や言葉の節々に溢れ出していて、勘の鋭い連はそのことに気づいていたのかもしれない。
(でも、視界に入るのすら嫌だって思うくらい、俺のこと嫌っているとは思わなかったな……ずっと見ていたはずなのに)
段々疎遠になっていく幼馴染の横顔を盗み見していた。こっそりと。本人には決して気づかれないように……そのはずだったのに。
(……もう盗み見ることも出来ない、な)
失恋と共に友情も散ってしまった。嫌われていると知っていて尚、馴れ馴れしくする度胸は波留斗にはなかった。
(……とりあえず、紬に連絡しなきゃ)
『腹壊したから今日は行けない。ごめん』
そう打ち込めば、秒で既読になり、すぐに返事が来た。
『大丈夫?ゆっくり休めよ』
それに、波留斗はスタンプで返事をして自分の布団の中に潜り込んだ。
幼馴染の一人とはもう仲良くなれそうにもないが、会話の内容的に、少なくとももう一人は波留斗のことを心配して気遣ってくれている。
それだけが唯一の慰めであったが、それでも長い片思いに突然打たれたピリオドに涙が止まることはなかった。
384
あなたにおすすめの小説
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした
鳥居之イチ
BL
————————————————————
受:久遠 酵汰《くおん こうた》
攻:金城 桜花《かねしろ おうか》
————————————————————
あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。
その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。
上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。
それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。
お呪いのルールはたったの二つ。
■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。
■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。
つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。
久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、
金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが…
————————————————————
この作品は他サイトでも投稿しております。
人並みに嫉妬くらいします
米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け
高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
陽キャと陰キャの恋の育て方
金色葵
BL
クラスの人気者と朝日陽太とお付き合いを開始した、地味男子白石結月。
溺愛が加速する陽太と、だんだん素直に陽太に甘えられるようになっていく結月の、甘キュンラブストーリー。
文化祭編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる