両片思いの幼馴染

kouta

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馴れ初め編

前編

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「連さぁ最近、波留斗の事避けてない?」


その会話が聞こえてきたのは幼馴染である白雪 紬の部屋からだった。

 自分の名前が出てきたことで、波留斗はその部屋の扉を開ける直前で手を止めて、そっと息を潜めた。
 紬が出したその質問は正しく、波留斗も最近気づいていた事だったからだ。
 だから、この部屋にいるであろう連の返事を盗み聞きしようと息をするのさえ止めて耳を澄ませる。

「……苛々するんだよ、あいつ見てると」

舌打ちと共に聞こえてきた連の低い声に、波留斗は目の前が真っ暗になったような気分を味わった。

「は?」
「だからっ、あいつ見てるとマジで……苛々して、……暴発しそうになるから最近視界に入れないようにしてる」

恐らくいつものように紬のベッドに寝転がり、忌々しそうにそう語る連の声は低い上に小さかったので、所々聞き取れなかった。対して、比較的扉の近くにいるらしい紬の声ははっきり聞こえた。

「きもいこと言うのやめてくんない? ってか、この後波留斗来るんだけど?」
「はぁ!? 勝手に呼んでんじゃねぇよ! 何のために俺があいつを避けてると思ってんだよ!! 俺が我慢できなくなったらどうすんだ!」
「いや、全力で止めるに決まってんだろ。ここ俺の部屋だぞ? 波留斗に手を出したらマジで許さねぇから」

波留斗がその部屋の会話を聞けたのはそこまでだった。足音を立てないように気を付けながら一階に降りて、そのまま玄関からそっと幼馴染の家を出た。

 波留斗の家は隣なので、即座に自分の部屋に帰ることが出来た。両親は仕事に出ていて今の時間はいない。今ほどそのことに感謝したことはない。だって、廊下を駆け込んでいる時の自分の顔色はかなり悪かった自覚がある。

(俺…………連にそこまで嫌われてたんだ……)

薄々そうなんじゃないかって思う時はあった。以前なら朝に波留斗が「おはよう」って声をかければ、笑顔を向けて、或いは機嫌が悪い時でも「おはよう」って返してくれた。それが、ここ最近は「……ああ」と口数少なく返事をするだけだった。

 連の家は波留斗の家の隣だ。だから、三人で遊ぶ時は大体真ん中にあって、共働きで両親が留守しがちな波留斗の家に集まることが多かった。
 それがいつの間にか集合場所は紬の部屋が多くなり、高校に入ってからは、連が波留斗の部屋に来ることもなくなった。

 いつも三人一緒で遊んでいたのに、高校に入ってから連はバイトを始めて一緒に遊ぶ時間がかなり減った。でも、波留斗とは遊ばないのに紬とはしょっちゅう会っているらしいことは、紬の様子からなんとなくわかっていた。何故自分だけが避けられているのか、今日までわからなかったが……。

(俺、連になんかしたっけ? うぜぇくらい話しかけていたから? それとも、俺の気持ちがバレてたんかな……いやそれはないか)

共に成長していく中で、着実に少しずつ大きくなっていた波留斗の中の同性の友達に向けるのは少し異色の想い。紬にすらひた隠しにしていて、一生打ち明けないつもりだったその恋心が、いつの間にか態度や言葉の節々に溢れ出していて、勘の鋭い連はそのことに気づいていたのかもしれない。

(でも、視界に入るのすら嫌だって思うくらい、俺のこと嫌っているとは思わなかったな……ずっと見ていたはずなのに)

段々疎遠になっていく幼馴染の横顔を盗み見していた。こっそりと。本人には決して気づかれないように……そのはずだったのに。

(……もう盗み見ることも出来ない、な)

失恋と共に友情も散ってしまった。嫌われていると知っていて尚、馴れ馴れしくする度胸は波留斗にはなかった。

(……とりあえず、紬に連絡しなきゃ)

『腹壊したから今日は行けない。ごめん』

そう打ち込めば、秒で既読になり、すぐに返事が来た。

『大丈夫?ゆっくり休めよ』

それに、波留斗はスタンプで返事をして自分の布団の中に潜り込んだ。

 幼馴染の一人とはもう仲良くなれそうにもないが、会話の内容的に、少なくとももう一人は波留斗のことを心配して気遣ってくれている。

 それだけが唯一の慰めであったが、それでも長い片思いに突然打たれたピリオドに涙が止まることはなかった。


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