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1話 よろしく
しおりを挟むワイは雪間敬。
目つきが悪く、背は高いがガタイがない。
口調のせいか、年上に見られがちなお兄さんである。
四月の肌寒い空気の中。
ワイには初めての部下が出来た。
ワイは営業の中で割と上位の成績を残してきたと思っとる。
ワイが働くのはほの暗い金融業の事務所である。
給料は高いが、人に恨まれやすい職業であるので社員の入れ替わりはよくあることやった。
入れ替わり立ち替わりの多いこの職場でいつの間にか同僚も先輩も数えるほどとなった。
金はあるが、入ってくる人間に碌なもんがおらんからか、大体長続きせんのもようわかった。
そのためかワイの仕事は増え、仕事が深夜に終わらなくなることもしょっちゅうになってしまった。
そのせいだろう。ワイに部下がついてそのサポートをするようになったのだ。
まあ、使えるワイがつぶれるのは会社の損失なのかもしれないな。
デスクにつくと椅子に深くもたれかかりため息を漏らす。
「はぁ…」
使えるかわからん人間がワイの仕事にかかわるからか腹が痛くなって、薬を飲む。
「片腹痛いなあ」
部下を持つということはワイにとって人一人の責任を負うことと同義であり、気が進まない。
だが、仕事を捌き切れていないこともまあ、少しは?事実であったために何とも言えない。
鼻がむずむずしてきた。
「むう」
嗚呼、忘れていたなとアレルギー等々の薬をピルケースから取り出した。
「相変わらず、すごい薬の量ですな」
同僚の笹野がワイの薬を指しながら笑う。
「薬漬けにならんと普通に暮らしていけんのですわ」
重度の花粉症に悩まされるワイは薬がないと仕事が出来ない程だった。
薬をまとめて口の中に流し込み、マグカップからコーヒーを飲む。
飲み合わせは知らんが、わざわざ水を取ってくることがめんどくさい。
「――にしても、突然ですなあ」
うっそりと笑いながら笹野はワイの肩に手を置いた。
腹が黒いのか、そもそもの癖なのか。胡散臭い。
「部下の件か?」
「ほかにはないですわ」
「ワイにはにがおもいわ」
「そうぬかさんと。初めての部下やろ?」
「そうやな。使えん奴はいらんけーなぁ」
「冷たいお人ですなぁ」
「お前の方こそ」
「ふふ」
なんだかんだ食えない同僚である。
「―――川野!」
部下はデスクの移動をしているようでワイの所へ呼んだがくるまでには時間がかかりそうだった。
「おまえの仕事が長引くようになっただろ?ええとこから人もらってきたから…お前の方で面倒見てくれんか?」
そう言って朝一番に部長に知らされた厄介ごとはワイの胃に穴を開けそうだった。
…使えるやつなんか早々来んやろなア。
「あーあ」
デスクの前でこれ見よがしに天を仰ぐと、近くまで来た男がこちらをじっと見てきた。
なんや?と一瞬思うが初めての部下を呼んでいたことを思い出して姿勢を正す。
たぶんこいつがワイの部下や。
「自己紹介や。お前名前は何ちゅうていうん?」
「川野 葵です。よろしくお願いします」
男は癖のない黒髪に黒い目をしていて、背はワイよりも低かった。
しかしながら180はある細身の体はしっかりとした体つきをしていた。
「川野か。きれいな顔しとるのお」
優し気な顔をしている男は所違えばオンナによおモテそうな面をしていた。
「ありがとうございます」
丁寧な言葉と微笑で武装する姿はああ、なるほど。
上手い狐の様で、営業に向いた笑い方だった。
「ワイの仕事を見て学べや?」
「はい」
デスクのパソコンを確認して、川野に指示を出す。
となりの席に移動した川野はワイの仕事を見ながら手帳に書き込みをしていた。
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