短編集

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新しい都市伝説の誕生

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僕は生まれてから大学生となる今まで、女性にモテたことはない。
確かに僕の容姿はあまり良くない。
少し太っているし、目つきも悪いから。
その分、明るい性格になればモテるかとしれないと思って色々と頑張っていたけど、やっぱりモテない。
今ではすっかり人生を諦めるような、自分に見切りをつけたようになってしまった。

ある日の晩、バイトを終えて家に帰ろうとしていた僕に、髪の長い女性が話しかけてきた。

「ねぇ、私、綺麗……?」
か細く、可愛らしい声だった。
女性はマスクをしていたから、顔はハッキリ見えなかったけど、ぱっちりと開いた二重まぶたの愛らしい瞳が見えたので、僕は美人に違いないと思った。
そして、そんな女性が僕に話しかけてきてくれたのだ。
人生で初めて母親以外の女性から話しかけられた僕は、嬉しさで飛び上がりたくなった。

「ど、ど、と、と……とても綺麗です!」
美人を目の前にする僕にとっての非日常に緊張した僕は思わず吃ってしまいながらも、女性の質問に答えた。

女性は「そう……」と呟いた。
女性は元気がなさそうに、僕には見えた。
そして女性は僕の顔の近くで、マスクを取った。
女性からはとてもいい匂いがした。
けど、そんなことを考える時間はすぐに去った。
女性の口は、顎の根本近くまで裂けていた。
痛々しい見た目だった。
そして女性は、どこから出したかわからないけど、手に持った鎌を振り上げ「この口でも同じことが言えるのか!」と大声で怒鳴ってきた。

僕は叫んだ。
「チクショーーーーーーー!!」と。

女性は、恐怖におののく僕の姿を想定していたらしく、想定外の僕の反応を見てポカンとしていた。

僕はそんな女性の反応に構わず続けた。
「やっぱりそうだ!モテたと思った自分が馬鹿だった!女なんてみんなクソだ!口が避けてる?それがどうした?それでもアンタは美人だ!それに比べて僕はどうだ?ちょっとイケメンじゃないだけで蛇蝎のごとく嫌われる!どうせアンタだって、僕みたいな童貞キモヲタなら簡単に襲えると思っただけなんだろ!?せっかくモテたと思ったのに!せっかくモテたと思ったのに!」

僕は一気にまくし立てると、声をあげて泣き始めた。

そんな僕を見た女性はやる気(殺る気?)を削がれたのか、呆気に取られたようにしながらも、僕を見て「キモッ……」って呟いた。

「キモッ!だってよ!僕の人生で女性から言われた言葉ランキング堂々1位の言葉だよ!ちなみに2位はウザっだけどな!」
僕は女性に、今までの僕の人生の怒りをぶつけた。

「アンタに私の何が判るのよ!この裂けた口を見て何も思わないワケ?私がどんなツラい思いしてるか判る!?」
女性はようやく我に返ったのか、反撃してきた。

でも僕は、そんな女性の剣幕より、目の前の女性から漂うシャンプーだと思う甘い香りと、チラリと見える胸の谷間に意識が向いてしまう。

そんな自分が情けなかったけど、僕は止まらなかった。
「アンタは美人だからいいさ!裂けた口が気になるなら、さっきみたいにマスクして配信でもすればスパチャで稼げるだろうよ!なんなら僕が課金してなやるよ!僕がお前で抜いてやるよ!でも僕はどうだ!?一生童貞だ!女に気持ち悪がられながら寂しく生きるしかないんだ!チクショー!チクショー!」

気が付くと、僕はうずくまって泣いていた。
女性の姿はもうなかった。

後日、僕は口裂け女という都市伝説があることを知った。
ただ、僕が口裂け女と遭遇した夜から、口裂け女の話はパタリとなくなったそうだ。

僕は、あの夜から、口裂け女を探して夜の街を歩き回っている。


そして後世、僕は「徘徊キモヲタ」という都市伝説になるのだけど、その頃の僕はまだそれを知らない。
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