短編集

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幻想の扉

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「ゆう君、ご飯置いておくね」

私は扉の向こうにいる息子に声をかけながら
、夕食を扉の前に置いた。

私が扉から離れた足音を聞いてから、息子は素早く扉を開け、夕食を取って素早く扉を閉める音が聞こえた。


息子は3年前から引きこもりになった。
きっかけは、当時付き合っていた彼女に振られたという些細なもの。

私は息子が彼女と付き合い始めた当初から、彼女のことが気に入らなかった。

息子に媚を売り、色目を使い、いやらしく言い寄る姿に背筋が寒くなる気がしたけど、息子が喜ぶならと思い、口出しすることは極力避けていた。

数ヶ月が経ち、息子が彼女に振られてから、息子は荒れた。

私の可愛い息子に得体の知れない女が手を出すとが許せなかったけど、息子を振ることも無礼で許せない、最後まで気に食わない女だった。

私は精一杯息子を慰め、あんな酷い女なんて忘れるように言ったけど、息子は私に向かって「うるせぇよ!」と、乱暴ね言葉を浴びせてきた。

変な女のせいで優しかった息子が変わってしまって悲しかったけど、私は、息子が元の優しくて可愛い息子に戻るように尽くした。

でも、息子は自分の部屋に引きこもり、私とは会話もしなくなった。
3年経った今も、息子はトイレやお風呂以外の用事では部屋から出てこない。

私にはどうしていいかわからない。


夕食を食べ、空になった器を部屋の前に置いた音が聞こえたので、私は器を取りに息子の部屋の前に向かった。
今日は息子の好きな豚の生姜焼き。
残さず食べている。

「ゆう君、美味しかった?」
私は息子に声をかけるが返事はない。

「ゆう君、部屋から出てこない?ゲームばかりやってたら身体に毒だし、ママもご近所に顔向けできないわ……」
やっぱり返事はない。


息子は一体どうしてしまったのだろう?
私は息子に尽くしているけど、息子の反応は芳しくない。

私は息子に一体何をしてあげたら、息子は部屋から出てくるのだろう?

私にとって、息子の部屋の扉は、永遠に開くことのない岩戸のように感じられた。
本当に私はどうしたらいいのだろう?
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