異の中は深く無になる

リツキ

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 朝8時頃、洋逸の家で集合し最寄駅から噂のある村の近くまで電車に乗り換えて、そこからは村までバスで移動する計画をしていた。
 駅のホームで電車を待っていると、すっと修次が洋逸に何かを渡してきた。

「何?」

 渡された物を見るとそれは、何かのお守りにも見えた。

「これ何?」

 驚き洋逸は修次に尋ねると、笑みを作って答えた。

「母さんから。気をつけて行ってらっしゃいって」
「お前、何て説明をしたんだ?まさか心霊スポットでも行くって言ったのか?」
「まさかそんな風に言ってないよ。よくわからないけど二人分くれたんだよ。交通安全じゃないか?」

 渡されたお守りを洋逸は訝し気に見ていたが、とりあえずパンツのポケットに入れる。
 そのうち電車がホームの中へ入って来るのが見えて来た。



 

 幾つかの電車を乗り継ぎし、ようやく最後の電車に二人は乗車していた。
 電車内で縦座席に二人は座りながら、いつものくだらない会話をしている。
 水本のことやクラスメートの話、担任の話。
 車内の乗客は少なく、まばらに人が座っているのが見えた。
 鈍行列車に乗りながら、ゆっくりと車窓から流れる景色は洋逸の心情とはまるで逆だった。
 興奮と緊張が交互に湧き上がってくる。それを誤魔化すように洋逸は少しお喋りになっていた。

「そういえばさ、修次ってどこの大学に行くんだ?」
「あーまだ決めてないけど」
「まだ決めてないのかよ、大丈夫か?」
「まぁなんとか大丈夫じゃないの」
 
 他人事のように言う修次を内心洋逸は心配する。
 時々修次は変な行動をすることがあって、頭が良い男なのに洋逸と同じ高校にしたのだ。
 今の高校よりはるかに偏差値が高い学校に行けたのにわざわざランクを落とし、気になって問い質すとその理由を修次は穏やかな顔で、

「まぁ楽しく過ごしたかったっていうか・・・」

 笑みを作って言いのけたのだ。
 恐らくそれが本当の理由じゃない気がしているのだが、誤魔化して教えてくれないのだ。
 本当に何を考えているかわからない男だが、それでも一緒にいられるってことは洋逸にとって居心地の良い友人なのかもしれない。
 そんなことをぼんやり思いながら洋逸は修次に話し続けていた。





 幾つかの駅を通過して電車を下車し、バスに乗って暫し走ると村に近い町に辿り着いた。
 田舎町と言われていたが、確かに言葉通り田んぼや畑に囲まれた田舎の風景が広がっていた。
 そうとは言っても駅付近は流石に規模の小さいが飲食店や何かのお店はあった。
 大脇は動画内でこの町で情報収集をしたと言っていたので、見かけた人に声をかけて尋ねてみたが、怪しんで話を聞いてくれなかった。
 修次はしばらく後ろから眺めているだけだったが、ふっと遠くにコンビニのような店構えをした建物が見えた。

「洋逸、あそこで聞いてみたら?」
「え?」

 言われるまま洋逸はそちらへと目をやり、その店らしき建物へと向かった。
 着くと確かに、お菓子やパン、カップラーメンあとは洗剤等色んな物が並んでいるのがガラス窓から見える。
 入ろうとしたが引き戸は自動ドアではなく手動だったので驚き、ゆっくりと取っ手に手をかけて引いた。
 ガラガラと引き戸がしなりながら開ける。
 中に入ろうとすると、訝し気に50代ぐらいの女性がいらっしゃいと声をかけた。

「すみません。ちょっとお尋ねしたいんですが・・・」

 洋逸は緊張な面持ちで女性に声をかけた。

「はい、なんですか?」
「あのう・・・ここから離れた村について何か知ってますか?」

 細かく言って尋ねるべきが迷ったが、生贄をしている村とストレートに聞くのは少し憚れたのだ。
 しかし遠巻きに尋ねたのだが、この女性店員には理解できたらしい。

「もしかしていみの村について聞きたいの?」
「え・・・いみの村?」

 初めて名前を知り、洋逸と修次は驚きの表情をする。

「そう、いみの村。あまりいい話は聞かないから行かない方がいいわよ」
「え、いい話を聞かないって何があるんですか?」

 洋逸はようやく知り得た情報を逃すことを恐れ、思わず女性の話に飛びついた。

「何って・・・変な風習があるっていうか」
「風習って?」
 
 前のめりの洋逸に修次は思わず肩に触れた。

「こら、落ち着けよ」
「ごめん」

 焦り過ぎて洋逸は一旦引いて再び女性に向かって顔を向けた。

「ある神様を信仰してるみたいで、何かを生贄にしてるって噂よ。実際それを見た人はいないけど、昔からずっと噂で伝えられてるわ」
「え、本当なんですか」
「ただ噂だから本当のことかどうかはわからないってこと。それだけよ」
「・・・ここからどうやってその村に行けますか?」
「え・・・あなた行くの?止めた方がいいわよ。村の人たちもあまり外部の人と係るのを嫌みたいだし。下手したら怪我をするかもしれない。危ないわ」

 驚いて女性は慌てて洋逸を止めるが、ここまで来て行かないという選択はなかった。
 
「遠くから見るだけなんで・・・ダメですか?」
「そう言われてもね。何かあって私の責任にされても嫌だし」
「そんな、自己責任にするのでお願いします!」

 必死に頼み込む洋逸は、渋る女性にどうやって聞き出せるか悩んでいるところ、女性の背後から70代ぐらいの男性が現れた。
 男性は洋逸、修次二人を見つめ、そして洋逸に向かって口を開いた。

「お前、どうしてあの村に行きたいんだ?遊び半分だろう?」
「そ、それは・・・」

 口籠る洋逸に男性はじろりと睨みながら続けて言った。

「止めておけ、半年前に一人男が行き方を教えてくれってせがまれて教えてしまったが、今は後悔をしているんだ」

 もしかしてその男というのは大脇のことではないだろうかと洋逸は思った。
 何人もこんな奥深い田舎へ来るとは思えなかったからだ。

「その男性は何かをしたんですか?」
「・・・カメラを回していたらしい。それで村が大騒ぎになったらしく、私たちのところへやって来て文句を言われたんだ。あいつらと揉めたくないんだよ」

 苦虫を噛んだような表情の男性を見て、洋逸は思わず修次を見やると、修次は肩を竦める。
 やはり問題になっていたのだ。だからDMで動画を消せとか車を傷をつけられていたのだと思う。
 よくよく考えれば、ここから大脇のいる某県までわざわざ出向いて嫌がらせをするということは、並々ならぬ村人の怒りを感じた。
 そんな空気の中、それでも止ようと思わない洋逸は小さな声で尋ねた。

「・・・遠くから見るだけなんですけど、ダメでしょうか?」
「見るだけでも村の近くに行くんだろう?一緒のことだ」

 ハッキリと言われ洋逸は、そうなんですがと再び口籠る。

「俺が責任を持つので途中までの行き方を教えてもらえませんか?」

 緊張した空気の中、その均衡を破ったのがずっと見守っていた修次だった。

「あんたはこの子の友達か?」
「ええ、そうです。俺も面倒な問題に巻き込まれるのは嫌なんで、彼が踏み込もうとしたら俺が止めますから」
「・・・・」

 暫しじっと、感情が崩れない修次の表情を見つめていた男性だったが、一つ溜息を吐き言った。

「こっちだ。ついてこい」





 洋逸、修次は男性に案内されるまま彼の後ろを付いて行く。
 暑さがピークに達していて、外にいるだけで汗が体中から吹き出ていた。
 住宅集落を抜けて木々が連なる道を通り抜け、少しして目の前につり橋が現れた。
 見た目は年季を感じる木で作られたつり橋で、10m程度の崖下には澄んだ川が流れていて、渡るのも若干恐怖を感じた。
 
 男性はそれ以上進まず、つり橋へ視線を送りながら言った。

「村はこの橋の向こうだ。俺はここまでしか案内しない」
「え・・・」
「この橋を渡ってずっと真っ直ぐ歩いて行くと家屋が見えてくる。見えてきたらそこら辺が村だ」

 ぶっきらぼうな言い様に洋逸は急に緊張感が増してくる。
 ここから修次と二人で行かなければならないと思うと、好奇心と不安感、恐怖感が複雑な感情として絡まっていた。

「ありがとうございました」

 洋逸は男性にお礼を言うと、ボソッと男性は一言口にする。

「見たら早く引き上げてこい。あの村は独特の風習で生きている人たちだ。俺らとは異質の者たちだから理解はできんぞ」
「・・・はい」

 洋逸、修次は男性に頭を下げ、ゆっくりとした足取りで左右に揺れるつり橋を、なるべく下を見ないように歩き始めた。





 つり橋は思ったより長く、歩くたびに川から引き込まれるような感覚に襲われる。
 ゆらゆらと歩くたびに揺れる橋を5分ほどかかって渡りきると、目の前には深い森林が目の前に覆われていた。
 入ると森林のトンネルのようになっていて舗装した道はなく、背の高い草が周りに生い茂り、それを掻き分けながら獣道らしき道が見えるのでそれに沿って歩き始めるが、人が頻繁に通る道ではないことはわかった。
 ちらりと洋逸は不安気に修次の顔を見ると、冷静な目で見返した。

「帰るのか?」
「帰らないけど・・・」
「帰らないけど・・・なんだよ?」

 意地悪な問いかけに洋逸は苛立った顔で言い返した。

「帰らないけど・・・ちょっと不安になっただけだよ!」
「別に帰っても俺はお前を馬鹿にしないよ」
「なんだよ、お前は村に興味がないから冷静沈着でムカつくわ!」
「そうかよ。別にムカつかれてもいいけど」

 洋逸に怒りをぶつけられても変わらず冷静な返答が来る。
 なぜこんなに修次は冷静なのか信じられなかった。

(まぁ根本的にオカルト系は懐疑的だからな、こいつ)

 不安感から生まれた小競り合いをしつつ、二人はゆっくりと真っ直ぐ前を向いて歩き始めた。

 歩くたびに心臓の高鳴りが止まらない。
 草むらを掻き分ける音やグッと踏みしめる足音、遠くからセミが鳴く声だけが耳に入って来る。
 二人は無言で歩いているので環境音しか聞こえなくなっていた。
 時間を見ると既に3時を回っている。
 2時過ぎくらいに町に着いたので、聞き込みしているうちに時間が経っていたのだ。
 光の入らない影の中は若干涼しさも感じるが、Tシャツに張り付く汗が冷えて、少し寒さも感じた。
 歩き始めて10分くらい経っただろうか、やがて森林が覆い影に包まれていた木々の中から細い光が前方から見えて来た。

「光だ!」
 
 思わず洋逸は喜びのあまり声を漏らす。
 少し元気が出て来た洋逸は、歩く速度が速くなりそして光を抜けた。

 森林を出て視界に入ってきたのは、大脇の動画にあった光景が広がっていた。
 棚田と言われる水田が緩く下降し水を張った田んぼの中には稲が植わって、畑には幾多の野菜が育っていた。
 確かに一旦森林を抜けたが、全体を見渡すとこの村は木々や山々に囲まれた、ある意味自然に隔離された村といってよかった。
 ずっと陰の中にいて暑さが軽減されていたが、抜けた瞬間からいつもの夏の暑さが戻ってくる。
 一歩進もうとした時、洋逸の肩をぐっと後ろから捕まれ止められた。

「なんだよ修次!」
「見るだけなんだろう?これ以上進むのは止めた方がいい。村の人と絡まない方がいいって言われてただろう?」
「だけどさ!」

 言った瞬間、自分が先ほど通ってきた入り口に、地べたに置かれている石で作られた地蔵が目に入った。
 不思議に思った洋逸はその地蔵に近づこうとした時だった。

「誰だ」

 修次ではない声が洋逸の前方から聞こえて来た。
 驚いてしゃがみかけていた体を慌てて起こすと、そこには村人らしき人物がこちらを見て睨んでいた。

(まずい・・・見られた)

 洋逸は必死に言い訳を頭の中で巡らしていると、再び村人の男は再度尋ねて来た。

「何をしてるんだ、お前ら」

 睨んだ視線が二人に突き刺さる。
 なんと言ったものかと洋逸は考えていると、村人の男は洋逸の背後を驚いた目で見つめ、言った。

「どうしたんだ修次君、久しぶり。今年は早かったね」


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