過去の思い出が彩る瞬間

リツキ

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3.




「さっきさ、リデル様からどこの高校に通ってたって聞かれたんだよ」

 リデルが帰った後、ポロっと広報の一人だった川野が結希に向かって呟いた。

「え、聞かれたんですか?」
「そう。まず年齢を聞かれて、俺は二十七歳ですって答えたら高校の学校名を教えてくれって聞いてきたから高校名を言ったらがっかりした顔して、そうか、ありがとうって言ってきた。誰かを探してるのかな?」

「そうなんですか……」
「お前は聞かれたのか?」

 問われて結希は少し言葉を濁しつつ答えた。

「はい…俺も聞かれましたけど違うと言われました」

 話の全てを言うわけにはいかないので、上手く川野に合わせて同じことを言った。

「そうか、いったい誰を探してるんだろうな?」

 じゃあまた明日と言って川野は広報課へと向かって行く。結希は黙って手を上げ更に複雑な心境になった。

 リデルは結希を探しているが、結希としてはこれ以上傷つきたくないので真実を伝えるわけにはいかない。

(探すのを諦めてくれないかな)

 そう思いながら総務課へと戻って行った。






 三日目。

 前日は会社の半分ほどのフロアを案内したので、残り半分の各課を案内することになった。
 昨日の憂いな表情はなく、真剣な顔で広報の説明を聞いている。

(あと少しだ)

 結希は気もそぞろで四人を後方から見守っている。仕事をしているリデルの姿を見るのもあと二日となった。

(少し寂しくなるな)

 感傷的な気持ちにもなるが、これで高校の時の思い出の対峙は終わる。
 このまま何事もなく思い出として終わらせたい。そしてもう忘れてしまいたい。

「ということだけど、折原君、どう思う?」
「え?」

 突然話を振られ結希は動揺する。リデルと広報の二人はこちらを見ていた。

「あ、えっと……」

 言葉に困っていると、広報の川野が少し不服そうな目をしていた。

「おい、ちゃんと聞いてろよ?」
「す、すみません」
「いいよ、きっと彼は疲れているんだよ。ごめんね、彼も悪気がないんだ」
「リデル様……」

 川野は困った顔をして結希とリデルを見るが、大きく溜息を吐き言った。

「今総務課の前だけど、折原君の意見を聞きたいってリデル様は尋ねてるんだよ」
「え、そうなんですか?」
「君は総務課なんだよね?だから色々知っていることがあるのかなと思ったんだ」
「あ…はい、そうですね……」

 現実に戻ってきた結希は慌ててリデルの元に行き色々説明を始めると、結希の話に真剣に耳を傾け気になることがあれば彼に尋ねた。
 そんなやり取りを五分程続けていたが、やがて納得したリデルは静かに頷いた。

「ありがとう、了解したよ」
「すみません、集中力散漫で。申し訳ありません」

 深々と頭を下げる結希の肩を慌ててリデルは手を置いた。

「そこまで謝らなくてもいいよ、その代わり……」

 少しいたずらっ子のような目をすると、笑顔でリデルが言った。

「今日、案内は午前中で終わるよね。だから一緒に昼食を取らないか?」







 リデルは秘書にお願いをしてレストランを予約してもらい、結希と二人でそのレストランへと向かった。
 緊張の面持ちで結希はリデルの後ろを付いて行く。それに気がついたリデルは少し歩みを止めて彼の方を見て言った。

「なんで後ろを歩くの?」
「そ、それは何処に行くのかわからないので……」
「もうすぐみたいだよ」

 言ってリデルはある建物に指を示した。
 目の前に白い建物が建ち少しお洒落な佇まいだった。男二人入るような店の雰囲気ではなかったが、

「さ、行こう!」

 爽やかな笑顔で促され、結希は更に緊張しながら店内に入った。
 店内に入り、予約席へと案内されるが席は引き戸で囲まれた半個室だった。
 二人は座りメニューを渡され、内容を見て決めると店員にそれを伝え、料理が来るのを待つことになった。

(き、気まずい……)

 何を話して良いかわからず結希は顔を横に向けるが、なぜかリデルの視線を感じる。
 気になりそちらへと顔を向けると、彼は表情なくじっと見つめていた。

「あ、あのう…どうされましたか?」
「どうもこうもないと思うけど?」

 先ほどとは打って変わって少し怒っているように見えた。何か怒らせただろうかと脳内を廻るが、それより先にリデルが口を開いた。

「昨日、僕に嘘を吐いたよね?」
「え?」

 驚き思わず結希はリデルをみはった。

「君、本当は……村瀬むらせ…結希君だよね?」
「………」
「現在は折原に苗字が変わっていた。両親が四年前に離婚されていたんだね。だからわからなかった」
「……なんで知ってるんだ?」

 驚きを隠せなかった結希は素直に自分の言葉で尋ねた。苗字が変わったことは唯一リデルを誤魔化せる手段だと思っていたが、なぜかバレていたのだ。

「昨日も言ったけど、君を探していたんだ。自分の力だけじゃ無理だから日本の探偵を雇って探してもらったんだ。だけどなかなか報告が来なくて、日本にいる最中に見つけて欲しいって願っていたんだけど、その願いが昨日叶ったんだ」
「そ、そうだったんだ…」
「まさか自分のすぐ近くにいるなんてね。凄い偶然だと思ったよ」

 口調は感動したように言っているが声色は怒りを含んでいる。リデルからすれば当然だと思うが、こちらにも言わなかった理由があるのだ。

「あんな恥ずかしいことをしておいて、リデルと面と向かって会えるわけないだろう?」
 
 結希も少し怒りを込めた視線でリデルに言い返すと、彼は少し困った顔で返答した。

「だからそれを、誤解を解きたかったんだよ」

 悲しい目をしながらリデルは結希に訴えるが、結希は逆に反論し始めた。
 それは傍に居ながらも黙っていたことの言い訳をするかのようだった。
 
「誤解って…変な風に思っているんじゃないかって話だろう?俺が誤解するような態度をとったことを謝りたかったのか?そんなこと気にする必要ないよ。お前は本当に魅力的で女子に人気があったし男子生徒もカッコいいよなって噂になってたし…」

 ずっと我慢していた気持ちを穿き出すかのように、留めなく結希は気持ちをリデルにぶつけた。
 それに対し、リデルは慌ててそれを止めるかのように答えた。

「待って、そんなこと思ってないよ!誤解するような態度って意味わからないし。俺は結希がその…おでこにキスをして来たことに対して、決して嫌な思いをしてないってことを言いたかったんだ。君はきっとコッソリしたかったんだろうけど俺が気づいてしまったから気まずくて仕方なかったんだろうって」

 図星を突かれ結希は黙り込む。口を閉ざす結希にリデルは更に続けた。

「僕は結希とアメリカに帰ったとしても仲良くしていきたかったんだ。だからその気まずさをどうにかしたかったけど、君は僕を避けまくっていた」
「………」
「ずっとアメリカに戻っても結希のことが気がかりだったんだ」

 結希は何も言えなかった。
 恥ずかしさのあまり、逃げることしか当時はできなかった。おまけに男にするなんて噂の的になる。
 ばらされるかもしれないと過ぎったが、結局リデルは誰にも言っていなかったのだ。

「僕に好意を持ってくれたこと、素直に嬉しかったんだ。それを伝えたかった」
「……リデル、お前いい奴過ぎるよ」

 複雑な感情が結希の胸の中で渦巻き、泣きたい気持ちになる。
 顔を伏せている結希にリデルは優しく言った。

「結希と一緒にいて楽しかったし良い思い出しかない。また関係が復活できたらいいなってずっと思っていて、偶然だったけど結希の会社と提携を組むことになって、現在社長の父に挨拶は自分に行かせてくれって言ったんだ」
「……そうだったんだ」
「本当はもっと早く行きたかったけど大学も忙しかったし、大学行きながら父の仕事を既に手伝っていたから日本に行く暇がなかったんだ。でも高校の時の何人かの友達とはやり取りしていて、その時に君のことを尋ねたんだ」
「………」
「結希とは高校を卒業してからは少しの間だけは連絡していたけど、途中からは連絡を取らなくなったって聞いて、おまけに住んでいた家にはもう結希の家族は住んでいなかったって聞いた」

 結希はリデルの話を聞きながら当時のことを思い出していた。

「そうだよ、途中から俺と母は家を出たし、父も俺が二十歳の時かな。その時に家を出て売ってしまっていた。暫く別居生活をしていたけどその間の俺は近い友達とはあまり話したくなくて離れていたんだよ。そして俺が大学を卒業した後に離婚が成立した」
「……そうだったんだ。大変だったね」

 神妙な面持ちでリデルは結希の話を聞いていた。
 
「まぁ、両親が良く喧嘩ばかりしてたからな。お互い限界だったみたいで俺が大学卒業を期に離婚するつもりだったみたいだよ」

 淡々と語る結希にリデルはどう答えたら良いか決め兼ねているのか、複雑な表情になって見つめていた。

「気にするなよ。もう終わったことだし」
「そうじゃなくて」

 言ってリデルは悲し気な表情になった。

「その時俺が傍にいたら、少しでも力になれたのかなって」
「え……」

 思わぬ発言に結希は言葉が詰まった。
 そんな風に感じていたのかと思うと心が少し躍ってしまったのだ。

「い、いや…それはもういいよ」
「でも……」
「俺がリデルを拒否したんだから、それに対して罪悪感を抱かなくてもいいんだよ」

 困った顔をしながら言う結希にリデルは口を閉ざした。



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