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日曜日。
結希はアメリカへ帰国するリデルを空港まで見送りに来ていた。
前日、リデルの問いかけについに結希は答えてしまった。いや、言いたくなかったわけじゃないが不安で仕方なかったのだ。
それでもリデルの必死な表情を目にしたら本音を言わざるを得ないと思ったのだ。
気持ちを告げた後、リデルは喜びを一気に爆発させ、思いっきり抱き締められ暫く離してはくれなかったほどだ。
でもリデルに抱き締められて彼の温かな体温を感じた瞬間、結希の頑なな気持ちが一気に解けたのも確かだった。
(不安で悩みまくったけど、これで良かったのかもしれない)
そんな単純な気持ちに変わったのだ。
おまけにいつも穏やかな表情でいることが多いリデルが、あんなに戸惑いと不安に満ちた表情へ一変する姿は、ある意味それがリデルの本音が見えたように思えたのだ。
そういうわけで、結希とリデルは晴れて付き合うことになったのだ。
リデルは顔を会わせるや否や、穏やか表情から一気に破顔した。
「おはよう!結希」
「……おはよう」
リデルからテンション高めな声で挨拶をされ、一瞬目を合わせるが気恥ずかしさで結希は思わず顔を背けた。
その姿にリデルは更に嬉しそうに笑った。
「結希は本当にシャイだよね」
「うるさい」
「こっちを見てよ。僕は今日アメリカに帰るっていうのに……」
言いながら笑顔で結希の顔を覗き込んで来た。驚き結希は顔が赤面になるとリデルに向かって愚痴るように言い返した。
「俺を弄んでるんだろ?」
「弄んでなんかいないよ!ごめん、ちょっとはしゃいでるかもしれない」
少し拗ねている結希に気づき、慌ててリデルは謝罪した。
「ごめん、本当に昨日の出来事が嬉しくて、自分の行動が抑えきれていないのかもしれない」
「……そんなに嬉しいのかよ」
しおらしくなったリデルに結希は静かな口調で尋ねると彼は静かに頷いた。
「そりゃあ!ずっと願っていた夢が叶ったからね。正直、ちょっと諦めかけていたのは確かなんだ」
「え?」
「だって結希からすれば突然のことだし、僕が半ば強引で気持ちを聞き出そうとしてたから、流石にやり過ぎかなぁと思ったんだ。僕に気持ちが本当にないなら諦めようかなって」
「……そうだったのか」
俯く結希をじっと見つめながらリデルは更に続けた。
「かなり勇気は使ったんだよ」
「わかってるよ、あの時のリデルの顔は本当に真剣だったから……」
そう言い結希は更に続けた。
「俺がただ迷っていただけなんだ。答えをすぐに出せなくてごめん」
「もういいんだよ。結果オーライってね」
軽くウィンクをするリデルの姿に結希は恥ずかしくて直視できなかったが、彼のユーモラスな態度に苦笑するしかなかった。
あっ、と口にし、何かを思い出したリデルは手帳を取り出し予定を確認し始めると、
「今度は三ヶ月後ぐらいには日本に戻れるかもしれない」
「え?」
「しばらく会えないけど……」
「……うん」
そう言って結希は寂しげな目をした。
「三ヶ月か」
「その間はメールとか電話するから、寂しいかもしれないけどそれで我慢してね」
「……寂しいのはリデルの方だろう?」
「まあ…そうだね」
リデルは少し恥ずかし気に笑うと軽く咳払いをした。
「ちょっといい?」
「え?」
突然結希の手を引き、リデルは人気のいないところへと連れて行く。
何事かと思い驚きながらも、結希は彼を見つめた。
「結希に触れたい」
「え?あ……」
ストレートな物言いに結希は少しだけ戸惑うが、静かに頷いた。
スッとリデルに抱き込まれ、結希はされるがままになっていた。
「好きだよ、結希」
「うん……俺も…」
恥ずかし気に返答する結希に、静かにリデルの顔が近づいて来た。
優しくお互いの唇が触れ合い、結希の心臓は一気に高鳴った。
リデルは結希の唇の感触を忘れないように、何度か角度を変えて唇を重ねているようだった。
「おでこでも嬉しいけどやっぱりキスはね……」
満面な笑みでリデルは結希を見つめる。
「……そうだな」
ぶっきらぼうに返事をした結希だったが、気にせずリデルは結希と手を繋いだ。
「物理的な距離はできても、今度は僕たちの気持ちは一つだよね」
「……うん」
優しく再び結希はリデルの抱き寄せられた。
少しだけ日が陰り始めたのか、寒さが更に身に染みてきて思わず結希は自分を抱き締めた。
結希とリデルが恋人同士になって十二年の時が経ったが、その間色んなことがあった。
リデルが社長になってからも関係を続けようとしたが、リデルの父親がどうしても二人の関係を許されず、それについて悩んでいた二人だったが、リデルは社長業を兄妹である妹に社長を継がせ、日本に子会社を作って家具屋を経営することになったのだ。
最初はリデルの父親と口論になったが、彼らの気持ちが本気であることを理解し、社長の座を妹に譲ることを許された。そして子会社を作って本社を支えることをリデルは誓ったのだ。
リデルは店を持ったが結希は変わらずデザイン会社の総務課に勤めていた。
時間がある時は店の手伝いをしているが、仕事は収入のことも考え共倒れしないように別々にしたのだ。
状況が落ち着くまで二人は関係を終わらせようかと何度も思うことはあったが、結局それはお互いができなかった。
というより、リデルが絶対諦めようとしなかったのだ。
結希は何度も心が折れかかったがいつも彼が色んな案を出し、そして今この形がベストとなって二人の関係は継続することができたのだ。
「ごめんね結希。お客さんの対応がなかなか終わらなくて…」
息を切らしながらリデルが小走りで結希の元へとやって来た。
十二年前より少し顔は老けてはいるが、それでもスタイルの良いイケおじといった雰囲気が醸し出されていた。
「大丈夫だよ。俺もちょっと前に着いたばっかりだから」
結希の様子を伺うように、リデルは昔から変わらない青い綺麗な目が見つめた。
「そっか。少し寒くなって来たね」
「うん。早く予約していたお店、行こう」
そう結希が言うとリデルは優しく微笑んだ。
今日は二人が一緒に生きると決めた日で、毎年そのお祝いに食事に行くことになっていたのだ。
二人が歩き出した瞬間、スッとリデルが結希の指を絡ませ握ってきた。
驚いた結希は慌ててリデルに声を掛けた。
「ちょっ、リデル!」
「いいじゃない。時代は変わったんだから」
笑顔で言うリデルに一瞬結希は戸惑うが、すぐに一息溜息を吐いた。
「そうだな」
同意をすると、二人は仲良く手を繋ぎながら予約していたレストランへと向かった。
掌からお互いの体温を感じ、思わず互いは微笑んだ。
歩く二人の影が寄り添い長く伸びる。
いつまでもその影は離れることはなく、影からも幸せが滲み出ていた。
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