過去の思い出が彩る瞬間

リツキ

文字の大きさ
6 / 6

6.




 日曜日。

 結希はアメリカへ帰国するリデルを空港まで見送りに来ていた。
 前日、リデルの問いかけについに結希は答えてしまった。いや、言いたくなかったわけじゃないが不安で仕方なかったのだ。
 それでもリデルの必死な表情を目にしたら本音を言わざるを得ないと思ったのだ。
 気持ちを告げた後、リデルは喜びを一気に爆発させ、思いっきり抱き締められ暫く離してはくれなかったほどだ。
 でもリデルに抱き締められて彼の温かな体温を感じた瞬間、結希の頑なな気持ちが一気に解けたのも確かだった。
 
(不安で悩みまくったけど、これで良かったのかもしれない)

 そんな単純な気持ちに変わったのだ。
 おまけにいつも穏やかな表情でいることが多いリデルが、あんなに戸惑いと不安に満ちた表情へ一変する姿は、ある意味それがリデルの本音が見えたように思えたのだ。
 そういうわけで、結希とリデルは晴れて付き合うことになったのだ。
 リデルは顔を会わせるや否や、穏やか表情から一気に破顔した。

「おはよう!結希」
「……おはよう」

 リデルからテンション高めな声で挨拶をされ、一瞬目を合わせるが気恥ずかしさで結希は思わず顔を背けた。
 その姿にリデルは更に嬉しそうに笑った。

「結希は本当にシャイだよね」
「うるさい」
「こっちを見てよ。僕は今日アメリカに帰るっていうのに……」

 言いながら笑顔で結希の顔を覗き込んで来た。驚き結希は顔が赤面になるとリデルに向かって愚痴るように言い返した。

「俺を弄んでるんだろ?」
「弄んでなんかいないよ!ごめん、ちょっとはしゃいでるかもしれない」

 少し拗ねている結希に気づき、慌ててリデルは謝罪した。

「ごめん、本当に昨日の出来事が嬉しくて、自分の行動が抑えきれていないのかもしれない」
「……そんなに嬉しいのかよ」

 しおらしくなったリデルに結希は静かな口調で尋ねると彼は静かに頷いた。

「そりゃあ!ずっと願っていた夢が叶ったからね。正直、ちょっと諦めかけていたのは確かなんだ」
「え?」
「だって結希からすれば突然のことだし、僕が半ば強引で気持ちを聞き出そうとしてたから、流石にやり過ぎかなぁと思ったんだ。僕に気持ちが本当にないなら諦めようかなって」
「……そうだったのか」

 俯く結希をじっと見つめながらリデルは更に続けた。

「かなり勇気は使ったんだよ」
「わかってるよ、あの時のリデルの顔は本当に真剣だったから……」

 そう言い結希は更に続けた。

「俺がただ迷っていただけなんだ。答えをすぐに出せなくてごめん」
「もういいんだよ。結果オーライってね」

 軽くウィンクをするリデルの姿に結希は恥ずかしくて直視できなかったが、彼のユーモラスな態度に苦笑するしかなかった。
 あっ、と口にし、何かを思い出したリデルは手帳を取り出し予定を確認し始めると、

「今度は三ヶ月後ぐらいには日本に戻れるかもしれない」
「え?」
「しばらく会えないけど……」
「……うん」

 そう言って結希は寂しげな目をした。

「三ヶ月か」
「その間はメールとか電話するから、寂しいかもしれないけどそれで我慢してね」
「……寂しいのはリデルの方だろう?」
「まあ…そうだね」

 リデルは少し恥ずかし気に笑うと軽く咳払いをした。

「ちょっといい?」
「え?」


 突然結希の手を引き、リデルは人気のいないところへと連れて行く。
 何事かと思い驚きながらも、結希は彼を見つめた。

「結希に触れたい」
「え?あ……」

 ストレートな物言いに結希は少しだけ戸惑うが、静かに頷いた。
 スッとリデルに抱き込まれ、結希はされるがままになっていた。

「好きだよ、結希」
「うん……俺も…」

 恥ずかし気に返答する結希に、静かにリデルの顔が近づいて来た。
 優しくお互いの唇が触れ合い、結希の心臓は一気に高鳴った。
 リデルは結希の唇の感触を忘れないように、何度か角度を変えて唇を重ねているようだった。

「おでこでも嬉しいけどやっぱりキスはね……」

 満面な笑みでリデルは結希を見つめる。

「……そうだな」

 ぶっきらぼうに返事をした結希だったが、気にせずリデルは結希と手を繋いだ。

「物理的な距離はできても、今度は僕たちの気持ちは一つだよね」
「……うん」

 優しく再び結希はリデルの抱き寄せられた。







 少しだけ日が陰り始めたのか、寒さが更に身に染みてきて思わず結希は自分を抱き締めた。

 結希とリデルが恋人同士になって十二年の時が経ったが、その間色んなことがあった。
 リデルが社長になってからも関係を続けようとしたが、リデルの父親がどうしても二人の関係を許されず、それについて悩んでいた二人だったが、リデルは社長業を兄妹である妹に社長を継がせ、日本に子会社を作って家具屋を経営することになったのだ。
 最初はリデルの父親と口論になったが、彼らの気持ちが本気であることを理解し、社長の座を妹に譲ることを許された。そして子会社を作って本社を支えることをリデルは誓ったのだ。
 リデルは店を持ったが結希は変わらずデザイン会社の総務課に勤めていた。
 時間がある時は店の手伝いをしているが、仕事は収入のことも考え共倒れしないように別々にしたのだ。

 状況が落ち着くまで二人は関係を終わらせようかと何度も思うことはあったが、結局それはお互いができなかった。
 というより、リデルが絶対諦めようとしなかったのだ。
 結希は何度も心が折れかかったがいつも彼が色んな案を出し、そして今この形がベストとなって二人の関係は継続することができたのだ。

「ごめんね結希。お客さんの対応がなかなか終わらなくて…」

 息を切らしながらリデルが小走りで結希の元へとやって来た。
 十二年前より少し顔は老けてはいるが、それでもスタイルの良いイケおじといった雰囲気が醸し出されていた。
 
「大丈夫だよ。俺もちょっと前に着いたばっかりだから」

 結希の様子を伺うように、リデルは昔から変わらない青い綺麗な目が見つめた。

「そっか。少し寒くなって来たね」
「うん。早く予約していたお店、行こう」

 そう結希が言うとリデルは優しく微笑んだ。
 今日は二人が一緒に生きると決めた日で、毎年そのお祝いに食事に行くことになっていたのだ。
 
 二人が歩き出した瞬間、スッとリデルが結希の指を絡ませ握ってきた。
 驚いた結希は慌ててリデルに声を掛けた。

「ちょっ、リデル!」
「いいじゃない。時代は変わったんだから」

 笑顔で言うリデルに一瞬結希は戸惑うが、すぐに一息溜息を吐いた。

「そうだな」

 同意をすると、二人は仲良く手を繋ぎながら予約していたレストランへと向かった。
 掌からお互いの体温を感じ、思わず互いは微笑んだ。
 歩く二人の影が寄り添い長く伸びる。
 いつまでもその影は離れることはなく、影からも幸せが滲み出ていた。



感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

届かない「ただいま」

AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。 「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。 これは「優しさが奪った日常」の物語。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

偽りの聖者と泥の国

篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」 自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。 しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。 壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。 二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。 裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。 これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。 ----------------------------------------- 『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。 本編に救いはありません。 セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。 本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。