生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1340.【ハル視点】会議の場

 何故そうなったのかには納得した様子だった父さんだが、少しだけ考えこんだ後ぽつりと呟いた。

「うーん、領主である身なのに、街でそんな事が起こっている事すら知らなかったとは…申し訳ないな」

 領内で広まっている人気のパンの裏に、まさか異世界がらみのそんな話があるとは普通なら思ってもみないだろう。

 だからそこまで予想できなくても仕方ない事だと思うんだが、父さんは申し訳なさそうに顔を歪めている。 

「いや、それは…詮索されないようにと、その人たちがあえて目立たないように立ち回っていたから――情報が上がって来なかったんじゃないか?」

 ファーガス兄さんの言葉に、それは分かっているがそれでも気付くべきだったと父さんは答えた。アキトはそんな父さんを、眩しそうに見つめている。きっと今の発言が、素直に嬉しかったんだろうな。

「まあ、父さんのその気持ちは分かるんだが」
「もっと色々な対策を考えて、将来的には故郷の情報を無料公開するなんて選択肢を選ばなくても良いようにしたいな」
「ああ、確かにそれは重要だ。アキトと同郷の人たちの権利を、もっとしっかりと守る仕組みが必要になるだろうな」

 父さんとファーガス兄さんは、真剣な表情でそう言い合っている。もはや食事会というよりも、すごく重要な内容の会議室のような雰囲気だ。

 そろそろ止めに入らないといけないかと様子を伺っていると、不意にジルさんが口を開いた。

「ええ、その辺りについては、もう少ししっかりと対策を練っておきたいですね」

 ジルさんも参戦するのか。ジルさんが参戦したからというわけでも無いんだろうが、すぐにウィル兄も続いた。

「それならー異世界人の保護組織に、そういう部署を作るのが良いんじゃないかなー?あの組織の人なら、異世界人もある程度は信頼して相談してくれると思うんだよねー」

 ウィル兄は、順番に指を折りながら続けた。

「あとは、情報を広める事で身を守ろうとする異世界の人たちから、そういう情報を代わりに買い取って広める部署を作るとかー?もしくはこちらの世界の人で、料理の作り方を広めても良いって料理人を探して、褒賞を与えてから俺達が広めるーとかも良くない?」

 なるほど。こちらの世界の料理人からも情報を流していけば、無料で知識を配る事自体が珍しくなくなるという事か。

 みんなのやりとりを黙って見つめていたマティさんも、そっと口を開いた。

「保護組織だけが窓口では、不十分だと私は思う。異世界人である事を私たちにも伝えてくれている友人たちの立場から、気になる事があればすぐに連絡を取れるような対策が必要になるだろう」

 マティさんも参加してしまったか。そう考えつつ話を聞いていると、今度はキースが口を開いた。

「そういえばこんな話が本に乗ってたんだけどね…」

 他国では役に立つ異世界の情報には、はっきりと値段を付けるという話があるんだってとキースが続ける。本当に色んな本を読んでいるんだな。キースはこういう時にも頼りになる弟だ。

「なるほど、それなら…」
「いや、だがそれには問題が…」

 アキトと同じ、異世界出身者の権利を守るために。そう考えているのだろう俺の家族からは、どんどん案が飛び出してくる。普段の会議よりも、よほど白熱しているな。

 このままだとまだまだ時間がかかりそうだ。そう考えながらふとアキトを見てみると、食パンにそっと触れているのが見えた。

 ああ、出来立てのパンは美味しそうだけど、さすがにここで周りを無視して食べ始める事なんてできない――アキトの事だから、きっとそんな事を考えているんだろう。

 無視して食べ始めたとしても、もちろんここにいる誰も責めたりはしないんだがな。だが、アキトのためには俺が会話を止めるべきだろうな。

 俺は苦笑しながら、口を開いた。

「ねえ、それももちろんすごく大事な話だとは思うけど、今は食事を優先しない?」

 控え目に、けれどしっかりと伝わるようにと話しかければ、みんなはハッとした様子で視線を交わした。アキトのしょくパンに触れている手にも、おそらく気づいたんだろう。

「ああ、それもそうだな」
「せっかく料理人たちが気持ちを込めて作ってくれた料理なんだ、堪能しないとな」
「止めてくれて良かったよー、ハル」
「ええ、本隊が出発する今日にする話では無かったですね」
「料理人たちに失礼だよね」

 口々にそう言ったみんなは、そのまま食事に戻る事になった。

 アキトは音は出さずに、口だけを動かして俺にありがとうと告げてきた。うん、愁い思想な笑顔が可愛いな。俺も口だけでどういたしましてと返した。

 ファーガス兄さんはアキトが気にしないようにと考えたのか、慌ててしょくパンを口に運んでいる。マティさんもゆっくりとした動きではあったが、しょくパンをちぎっている所だ。

 アキトは周りの様子をさっと見てから、しょくパンに齧りついた。途端に目を大きく見開いたまま、もぐもぐと口を動かしている。

 この反応は…きっと想像していた以上に美味しかったんだろうな。微笑ましく思っていると、パッとアキトが俺の方を向いた。

「アキト、目がキラキラしてるよ?」
「すっごい美味しい!ハルも食べて!」

 まだ食べてないよね?と勢い込んで尋ねてくるアキトに、俺はうん、まだだねと笑って答えた。じっと見つめるアキトの視線を感じながら、俺はぱくりとしょくパンに齧りついた。

「これは…サイクに貰ったのとはまた違うな?」
「ね、こっちの方がウカのミルクが多い感じがするし…もしかして粉も違うのかも?」
「そうなのか…奥が深いな、しょくぱん」

 それに気付けるアキトもすごいがと感心していると、不意にファーガス兄さんが隣から顔を出した。

「ん?サイクから…しょくぱんを貰って食べたのか?いったいいつ?」
「はい、あの湖が綺麗なダンジョン内で、一緒に食事をした時に…」
「あの魔鳥ルダリオンを倒してきた日だよ」

 俺の説明を聞いたファーガス兄さんは、更に不思議そうな表情に変わった。

「ハルもアキトも…あの時点ではサイクと面識は無かったよな?」
「はい、無かったです」
「ああ、そうだな」
「それなのに…何故食事を共にする事になるんだ?」
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