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1349.【ハル視点】ウマの最終確認
ウィル兄とジルさんがいなくなると、不意にアキトがぐるりと周りを見渡した。おれも一緒になって周りを見渡してみる。
ああ、二人と喋っている間に、だいぶ人の数が減ったな。
行進よりも後に出発するつもりの集団以外は、既に全員が街へと繋がる森に向かったようだ。ここに残っている人の数は、そう多くは無い。
ウマの周りをぐるぐると見て回っている世話係たちは、おそらくウマの装備や体調、そして機嫌の最終確認中なのだろう。
真面目に仕事を果たしている世話係たちの中でも、一番元気にウマの間を飛び回っているのはギュームだな。ウマが関係すると異様なぐらい元気になる奴だから、特に驚きは無い。
「あ、ギュームさんだ」
「ウマの装備や体調の、最終確認作業中なんだろうな」
「ギュームさんのあの迷いない動きっぷり、すごいね」
「ああ、すごいな」
そんな事をアキトと言い合いながら、ウマと世話係たち、そしてずらりと並んだ騎士たちを何となく眺める。
整然と整列している騎士たちは、全員が今日の行進の参加者だ。綺麗に磨き上げれられた鎧が、太陽の光を反射してキラリと輝いている。
あの装備を身に着けた状態で野外で待機するというのは、決して楽な事では無い。いくら鍛えていても、いくら訓練をしていても、暑さや寒さは耐えるしか無いからな。
だが、誰も文句は言わない。
最終確認であるこの作業が重要な事は、ウマに乗る騎士達ならもちろん分かっているからな。もし世話係たちが今日はこのウマは出せないと言えば、その指示に逆らう騎士はここにはいない。
それだけギュームたちウマの世話係は、信頼されているという事だ。
間違いなく暑いと思うんだが、並んでいる騎士達は揃って誇らし気な表情だ。
行進への参加は、志願したからといって叶うものでは無い。父さんやファーガス兄さん、それにマティさんによって、全ての騎士の中から選抜されるものだ。
だからこそ、新人たちが尊敬と憧れの眼差しを向けるんだ。まあ、あまりにキラキラした目で見られているせいで、恥ずかしそうにしている騎士も何人かいるな。
アキトと一緒に周りの様子を眺めながらしばらく待っていると、静かに待機していた騎士たちが次々とウマに乗り始めた。
「そろそろ出発するみたいだね」
全身の装備を身に着けた父さんも既に騎乗しているようだから、本当にもうすぐ出発する筈だ。
父さんが乗っているウマは、一際華やかな装飾がつけられている。
領主だと分かりやすくするために作られた、様々な細工を散りばめた華やかな飾り物だ。これはこういう時にだけ使われるもので、行進が終われば父さんの手で外される。
アキトはそんな父さんとそのウマを、口を開いたまま見つめている。
うーん、さすがに父さん相手に妬きはしないが、面白くは無いな。
馬に乗ったまま振り返った父さんは、領主城の方へと視線を向けた。
城の前には使用人たちと、今回の遠征には参加しない騎士たちがずらりと並んでいる。
「え、ここで見送る人もいるんだ?」
「ああ、彼らの見送りはここまでなんだ。城を無人にするわけにはいかないからね」
並んでいる全員の顔をゆっくりと見つめてから、父さんは口を開いた。
「では、いってくる。後は頼むぞ」
騎士たちはハッと声をあげながら敬礼をし、使用人たちは無言のまま丁寧に礼を返した。
「みなさまの無事の帰還を、我ら一同、心よりお待ち申し上げております。こちらは我らにおまかせください。どうかご武運を」
待機している全ての使用人と騎士たちを代表して答えたのは、予想通りというべきか執事長のボルトだった。
「ああ、全力を尽くしてくる。そうだ、ボルト、帰還後の宴会の準備も頼んだぞ?」
ふっと柔らかく笑ってそう答えた父さんに、ピリピリとした緊張感の漂っていたその場の空気が少しだけ緩んだ。緊張感はもちろん必要だが、すこし張り詰めすぎていると判断したんだろう。その辺りの加減が、父さんは上手いんだよな。
「そちらもおまかせください。料理人たちが全力で腕を振るいますからね」
父さんの考えを理解したのだろうボルトは、薄っすらと微笑みを浮かべながらそう答えた。見送りに来ていたラスを始めとした料理人たちも、笑って頷いている。これは帰還後の宴会もすごい事になりそうだな。
楽しみが増えるのは大歓迎だ。
行進の後について歩き出すと、アキトはすこし不思議そうに呟いた。
「思ったよりも…ゆっくりなんだね?」
最後尾を行く馬の揺れる尻尾をじーっと眺めながら、アキトはそう尋ねてきた。
「ああ。領主城前の森を抜けるまでは、ずっとこのぐらいの速度だよ。ちなみに街中を通る時はもっとゆっくりになるんだ」
「え、そうなんだ?」
「見送りに来ている住民たちが、かなり近くまで来るからね。この騎士たちはウマを操る能力を重視して選ばれているはずだよ」
そう、行進に選ばれるのに、個人としての強さは全く無関係だ。
例え何が起きたとしても対処する事ができるぐらい、ウマに乗るのが上手い。それが唯一にして絶対に条件だ。
「例えば子どもが飛び出してくるーとかにも、慌てずに対応できる人ばかりだよ」
「そうなんだ。だから馬たちが嬉しそうに見えるのかな?」
「嬉しそう…か?」
思わず聞き返した俺に、アキトは満面の笑みで嬉しそうだよと教えてくれた。アキトが言うなら当たってるんだろうが、俺には普段通りの堂々としたウマにしか見えないな。
「そういえば、ハルは今回は馬に乗らないの?」
「大門からは乗る予定だよ。昨日のうちに、衛兵詰め所の方に馬を移動させてあるんだ。まあ部隊の規模が大きいから、全員が乗れるってわけじゃないけどね」
今日の俺の相棒はタユだよと教えれば、アキトは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
ああ、二人と喋っている間に、だいぶ人の数が減ったな。
行進よりも後に出発するつもりの集団以外は、既に全員が街へと繋がる森に向かったようだ。ここに残っている人の数は、そう多くは無い。
ウマの周りをぐるぐると見て回っている世話係たちは、おそらくウマの装備や体調、そして機嫌の最終確認中なのだろう。
真面目に仕事を果たしている世話係たちの中でも、一番元気にウマの間を飛び回っているのはギュームだな。ウマが関係すると異様なぐらい元気になる奴だから、特に驚きは無い。
「あ、ギュームさんだ」
「ウマの装備や体調の、最終確認作業中なんだろうな」
「ギュームさんのあの迷いない動きっぷり、すごいね」
「ああ、すごいな」
そんな事をアキトと言い合いながら、ウマと世話係たち、そしてずらりと並んだ騎士たちを何となく眺める。
整然と整列している騎士たちは、全員が今日の行進の参加者だ。綺麗に磨き上げれられた鎧が、太陽の光を反射してキラリと輝いている。
あの装備を身に着けた状態で野外で待機するというのは、決して楽な事では無い。いくら鍛えていても、いくら訓練をしていても、暑さや寒さは耐えるしか無いからな。
だが、誰も文句は言わない。
最終確認であるこの作業が重要な事は、ウマに乗る騎士達ならもちろん分かっているからな。もし世話係たちが今日はこのウマは出せないと言えば、その指示に逆らう騎士はここにはいない。
それだけギュームたちウマの世話係は、信頼されているという事だ。
間違いなく暑いと思うんだが、並んでいる騎士達は揃って誇らし気な表情だ。
行進への参加は、志願したからといって叶うものでは無い。父さんやファーガス兄さん、それにマティさんによって、全ての騎士の中から選抜されるものだ。
だからこそ、新人たちが尊敬と憧れの眼差しを向けるんだ。まあ、あまりにキラキラした目で見られているせいで、恥ずかしそうにしている騎士も何人かいるな。
アキトと一緒に周りの様子を眺めながらしばらく待っていると、静かに待機していた騎士たちが次々とウマに乗り始めた。
「そろそろ出発するみたいだね」
全身の装備を身に着けた父さんも既に騎乗しているようだから、本当にもうすぐ出発する筈だ。
父さんが乗っているウマは、一際華やかな装飾がつけられている。
領主だと分かりやすくするために作られた、様々な細工を散りばめた華やかな飾り物だ。これはこういう時にだけ使われるもので、行進が終われば父さんの手で外される。
アキトはそんな父さんとそのウマを、口を開いたまま見つめている。
うーん、さすがに父さん相手に妬きはしないが、面白くは無いな。
馬に乗ったまま振り返った父さんは、領主城の方へと視線を向けた。
城の前には使用人たちと、今回の遠征には参加しない騎士たちがずらりと並んでいる。
「え、ここで見送る人もいるんだ?」
「ああ、彼らの見送りはここまでなんだ。城を無人にするわけにはいかないからね」
並んでいる全員の顔をゆっくりと見つめてから、父さんは口を開いた。
「では、いってくる。後は頼むぞ」
騎士たちはハッと声をあげながら敬礼をし、使用人たちは無言のまま丁寧に礼を返した。
「みなさまの無事の帰還を、我ら一同、心よりお待ち申し上げております。こちらは我らにおまかせください。どうかご武運を」
待機している全ての使用人と騎士たちを代表して答えたのは、予想通りというべきか執事長のボルトだった。
「ああ、全力を尽くしてくる。そうだ、ボルト、帰還後の宴会の準備も頼んだぞ?」
ふっと柔らかく笑ってそう答えた父さんに、ピリピリとした緊張感の漂っていたその場の空気が少しだけ緩んだ。緊張感はもちろん必要だが、すこし張り詰めすぎていると判断したんだろう。その辺りの加減が、父さんは上手いんだよな。
「そちらもおまかせください。料理人たちが全力で腕を振るいますからね」
父さんの考えを理解したのだろうボルトは、薄っすらと微笑みを浮かべながらそう答えた。見送りに来ていたラスを始めとした料理人たちも、笑って頷いている。これは帰還後の宴会もすごい事になりそうだな。
楽しみが増えるのは大歓迎だ。
行進の後について歩き出すと、アキトはすこし不思議そうに呟いた。
「思ったよりも…ゆっくりなんだね?」
最後尾を行く馬の揺れる尻尾をじーっと眺めながら、アキトはそう尋ねてきた。
「ああ。領主城前の森を抜けるまでは、ずっとこのぐらいの速度だよ。ちなみに街中を通る時はもっとゆっくりになるんだ」
「え、そうなんだ?」
「見送りに来ている住民たちが、かなり近くまで来るからね。この騎士たちはウマを操る能力を重視して選ばれているはずだよ」
そう、行進に選ばれるのに、個人としての強さは全く無関係だ。
例え何が起きたとしても対処する事ができるぐらい、ウマに乗るのが上手い。それが唯一にして絶対に条件だ。
「例えば子どもが飛び出してくるーとかにも、慌てずに対応できる人ばかりだよ」
「そうなんだ。だから馬たちが嬉しそうに見えるのかな?」
「嬉しそう…か?」
思わず聞き返した俺に、アキトは満面の笑みで嬉しそうだよと教えてくれた。アキトが言うなら当たってるんだろうが、俺には普段通りの堂々としたウマにしか見えないな。
「そういえば、ハルは今回は馬に乗らないの?」
「大門からは乗る予定だよ。昨日のうちに、衛兵詰め所の方に馬を移動させてあるんだ。まあ部隊の規模が大きいから、全員が乗れるってわけじゃないけどね」
今日の俺の相棒はタユだよと教えれば、アキトは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
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