生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1350.【ハル視点】マント

 行進の先頭を行く父さんたちがもうそろそろ森を抜けるかという辺りで、俺は鞄から濃い緑色のマントを取り出した。

「…それって、マント?」

 俺の手元をじっと見つめながら、アキトは不思議そうにそう尋ねた。

「ああ、そうだよ」
「…ここからはマントを着るの?」
「そうなんだ。街中で軍服を着ているとどうしても目立ってしまうからな」

 苦笑しながら答えれば、アキトはなるほどと小さく頷いてくれた。

「人に囲まれても良いならそのままでもいいんだが…マントを着ていた方が移動が楽になるんだ。ほら、俺以外にも同じ考えの奴がいるみたいだよ」

 周囲をぐるりと見回してみれば、俺と同じように用意していたマントを着ようとしている人や、軍服の上から違う服を重ねて着ようとしている人たちの姿がある。

 まあ軍服姿のままでいる騎士も普通にいるんだがな。

 あいつらは囲まれるのを楽しいと思うタイプなんだろうか。いや、もしかしたらあえて人混みに挑戦しようとしているやつという可能性もあるか。

 最後まで隠れずに人混みを突っ切って間に合わせる事が出来るか。そんな賭けを密かにしている奴らもいるようだからな。

 密かにとは言っても、ウィル兄とジルさん経由で情報が回っているから、もちろん父さんも把握しているんだがな。賭けの内容が秘蔵の菓子や自前の酒程度なので、見逃されているだけだ。

 これはアキトには説明しなくて良いか。騎士への憧れが消える所は、できれば見たくないからな。

 そんな事を考えながら、俺はさっとマントを身に着けた。

 腰ぐらいまでの丈のマントだが、一見したぐらいでは下に軍服を着ているとは気付けないだろう。

「どう?」

 変じゃないかな?と尋ねてみれば、アキトは小さな声でそのマントも似合ってると返してくれた。

 周囲に人がいるから、変じゃないよぐらいの返事だと思っていた。予想外の答えに一瞬だけ不意を突かれてしまった。

「一応、アキトの分も用意はしてあるけど、どうする?アキトが着ているのは正装であって軍服では無いからね。判断はまかせるよ」

 そう言いながら俺はもう一枚のマントを取り出すと、そっと広げてアキトに見せた。

 街中を歩くには少し改まった格好ではあるが、アキトの服はそのままでも問題は無い。正装したアキトに見惚れる奴は、間違いなくいるだろうけどな。

 それでも俺が嫉妬するから着ていてくれとは、さすがに言い難い。

 だから判断はアキトにまかせる事に決めた。

「せっかくだし着てみようかな」

 ハルとお揃いみたいだしねと笑って受け入れてくれるアキトの可愛さに、ついうっかり抱き着きそうになった。

 ぎりぎりで我慢ができたのは、奇跡かもしれない。俺は何でも無いような顔を作って、アキトにそっとマントを差し出した。

 アキトはマントを受け取るなり、驚いた様子でまじまじと手の中のマントを見つめた。

 うん、その気持ちはよく分かるよ。このマントは、手触りがとにかく良いからな。素材ももちろん良い物を使っているんだろうが、加工した職人の腕が良かったんだろう。

 すごく軽いんだねと嬉しそうに笑ってから、アキトはパッとマントを広げて羽織ってみせた。

「すごいね、このマント。軽いし着心地も良い!」
「気に入ったなら良かった。性能はいつものよりは落ちるから依頼とかには使えないけど、街中ではこれを使うのも良いかもね」

 そう防具としての性能だけなら、普段から使っているあのマントの方が上等だと言える。そもそも目的が違うから仕方がない事だがな。これは街中はもちろん貴族の食事会に向かう時などに羽織るもので、あちらは冒険者が使う防具だ。

「うん、確かに街中で着るには良さそうだよね」
「アキトとお揃いになるのも良い」

 ふふっと悪戯っぽく笑って告げれば、アキトは俺も同じ事を考えてたよと嬉しい言葉を返してくれた。

 俺はそっと手を伸ばすと、アキトのフードを浅めにかぶせた。移動中の視界は遮らないし、近づけば顔は見える程度だ。そうしてから、自分もフードを被る。

「これで準備は終わったね」

 そう告げた次の瞬間、前方から大歓声が聞こえてきた。アキトはビクッと体を揺らした。

「ああ、先頭が街中に入ったんだね」

 男女問わずの歓声にまぎれるようにして、叫んでいる人たちの声も聞こえてくる。

「うぉぉぉ、先頭はケイリー様だ!」
「領主様が自ら率いていらっしゃるとは!」
「キャァァァ、騎士様たち格好良い!」
「ファーガス様ー!」
「マチルダ様ー今日もお美しいですー!」

 こっち向いてとか、手を振ってもらったぞとか、ものすごい大騒ぎだ。

「…すごい人気だね」
「あー…うん。巻き込まれたくないって…思うのも仕方ないだろ?」

 苦笑しながらそう言えば、アキトは何も言わずにこくりと頷いてくれた。
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