生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
1,355 / 1,561

1354.【ハル視点】屋台街から

 普段から大勢の人で賑わっているウェルマ市場だが、今日はその普段と比べても明らかに人が多い。

 今は朝食には遅く、昼食には早いという一番微妙な時間帯だ。ここまで混むような時間帯では無いんだが――理由はもちろん父さんたちの行進だ。

「なんか、混んでるね…?」

 不思議そうなアキトに、俺はああと頷いた。

「ここからなら行進が見やすいから、知ってる人が集まってるんだ」

 ほらと言いながら指差した方向に、アキトは素直に視線を向けた。

 俺とアキトの視線の先には、たくさんの人が今まさに集まっている大通りが見えている。あそこにいるのは、行進が通るのをずっと待っている人たちだ。

 たくさんの小型の屋台が並んでいるこの辺りには、周囲に大きな建物が存在していない。特に規則があるわけでも無いんだが、暗黙の了解というかどこも建てようとしないんだよな。
 
 大通りからこの辺りの屋台街に向けて続いている道は、緩やかな登り坂になっているのも良い。傾斜のおかげで見通しが良いから、想像以上に大通りがよく見える。

 穴場であるここに立ち止まっているのは、もちろん俺達だけじゃない。他の人たちも屋台や通行の邪魔にならない場所を選んでは、大通りの方を気にしている。

「何とか間に合ったみたいで良かったよ」

 思わずそう呟けば、アキトはえっと驚いた顔をして俺を見上げてきた。

「最初からここが目的地だったの?」
「そうだよ。ここは意外にも見やすいからね」
「行進、ちゃんと見れるかな?」
「ああ。まだ通ってないみたいだから絶対に見れるよ」

 間に合って良かったねと二人で笑い合いながら話していると、不意に大通りの方から領主様が来たぞーと叫ぶ大きな声が聞こえてきた。

 その場にいた全員の視線がパッと大通りに向いた所で、数人向こうにいた女性が力強い声で叫び返した。かなり質の良い使い込んだ鎧を身に着けているから、おそらくは冒険者だろう。

「教えてくれたのは助かるよ!ありがとう!でも、来たぞじゃなくて来られたと言いなっ!領主様に失礼だろう!」

 きちんとお礼の言葉を混ぜつつの文句に、周りのみんなが思わずといった様子で笑みを浮かべる。

 そうだそうだと叫ぶ声、領主様はそんな事気にしねぇぞと笑う声、気にしなくても敬意を示せと叫ぶ声で一気に辺りは賑やかになった。

 そんな事を気にしないという意見に、俺も同意だな。

「そうだな!俺が悪かった!領主様が来られたぞー!…これで良いかー?」

 かなり距離はあるはずなんだが、最初に叫んだ男は大きな声でそう叫び返した。

「ああ、それで良いよー!」

 さらにそう返した女性は、満足そうにうんうんと頷いた。

 いきなり叫ぶから驚いたと周りから声をかけられたその女性は、ごめんねー知った声だったからさと笑って応えている。

 なるほど。男の姿までは見えなかったが、おそらくあちらも冒険者で顔見知りだったりするんだろうな。

 女性の周りの人たちも納得顔で笑っていて、雰囲気は悪くない。

 あちこちから楽し気な会話や笑い声が聞こえてきていて、本当にみんなが行進を楽しみにしているのが伝わってくる。

 そっと様子を伺ってみれば、アキトもワクワクした様子でじーっと大通りを見つめている。

 無事に辿り着いて良かったなと噛み締めていると、次第に歓声が近づいてくる。大通りの辺りで待機している人たちが、口々に何かを叫ぶ声だ。

 一番最初に見えたのは、行進の先頭を行く父さんの姿だった。

 領主様だと叫ぶ声やぶんぶんと手を振る人たちに、父さんは薄っすらと笑みを浮かべて手を振り返している。領民たちが相手なら、父さんもあのぐらいの笑顔は見せられるんだよな。

 そんな事を考えながら見守っているだけの俺とは違い、アキトは嬉しそうにぶんぶんと手を振っていた。

 一瞬だけだが、父さんがこちらを見た気がした。いや、ばっちり視線が合っていたから、おそらくただの気のせいでは無いな。

 おそらくだが、俺がどこからアキトに行進を見せるかと考えて、この辺りにいるかもと予想していたんだろう。

 アキトが嬉しそうだったから文句は無いんだが。

 父さんの姿が見えなくなると、今度は並んで馬を歩かせているファーガス兄さんとマティさんの姿が見えてくる。

 ファーガス兄さんは表情こそあまり変わっていないが、歓声に優しく手を振り返している。その隣を行くマティさんは、美しい笑顔を浮かべて声かけに応えている。

「ファーガス様、格好良い!」

 ファーガス兄さんにそう叫ぶ声は男女問わずなんだが、マティさんに対して美人だとか綺麗だとかそういう誉め言葉を叫ぶのは女性の声ばかりだ。

 これもまあいつもの光景だな。

 ファーガス兄さんの前で男性がマティさんを褒めると、思いっきり睨まれるからな。

 女性から褒められるのは、マティさん本人が嬉しそうだからと邪魔しないだけで、きっちり嫉妬はしているらしいが。

 それほど妬かれて面倒じゃないのかと思った事もあったが、マティさん本人はファーガス兄さんのそういう所も好きらしい。

 何というか…お似合いの二人だな。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。