生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1356.【ハル視点】屋台の店主

 俺とアキトは、改めて目の前の男性に視線を向けた。気にせずに普通に会話を続けるなんてできなかったからな。

 心優しい屋台の男性が身にまとっているのは、真っ白で何とも可愛らしいフリルがたくさんついたエプロンだ。

 別に好きなものを着れば良いとは思うんだが、筋肉質な男が見につけているのはかなり珍しいエプロンだ。

 思わずまじまじと見つめる俺たちの視線に気づいた男性は、パッと自分の服に視線を向けた。

「あー…そうだった。今日はこれを着てたんだったな…びっくりさせてすまなかった」
「いえ…びっくりしてすみません」

 律儀なアキトが謝罪すれば、男性はいやいやと笑って口を開いた。

「びっくりして当然だ。常連客の中には、そのまま死んじまうんじゃないかってぐらい笑い転げた奴もいたからな」

 明るくそう答えた店員は、言っておくけどこれは別に俺の趣味ってわけじゃないからなと苦笑しながら続けた。

「あ、そうなんですか?」
「ああ、理由があるんだよ。ちょっと二人ともこっちに来てくれるか?」

 店員に呼ばれたアキトは、ちらりと一瞬だけ俺に視線を向けた。行っても良いかな?と尋ねてくるる視線に、良いよと同じく視線だけで答える。

 良い人だと油断せずに、きちんと警戒してくれている事に少しだけホッとした。出逢ってすぐの頃のアキトなら、なんだろうって普通に近づいていただろうからな。警戒心が育ってきたのは良い事だ。

 二人揃って屋台へと近づいてみれば、男性の後ろ側の屋台の影になるあたりに置かれている木箱の上に幼い少女が座っていた。手には果実水を持っているから、ちょうど休憩中なのだろう。

 その少女の身に着けている服は、目の前にいる店員と全く同じ作りのものだ。サイズだけを小さくしたようなその白いフリルのついたエプロンが、小柄な少女には驚くほど似合っている。

 道行く人から二度見されている店員とは違い、誰が見ても可愛いと思うような愛らしさだ。

「なるほど、理由が分かりました」
「分かってくれたか?いやぁ、娘から父さんとお揃いの服を着たいーなんて言われたら、どれだけ似合わないって分かってても着るしかなくてな…」

 ああ、なるほどそういう事か。

「そういう理由なら、納得だ。家族のために…なんだな」
「ああ。それに、意外と売上も上がってるんだよな。みんな二度見するから屋台に興味を持つし、笑ったからって買っていくやつもいる。もちろんうちの娘が可愛いってのもあるんだけどなー」

 わっはっはと笑う明るい男の屋台には、乾燥させた果物や干し肉などが山のように積み上げられている。

「ハル…」

 アキトは、じっともの言いたげに俺を見上げてきた。そういえば、アキトは今は財布を持っていないんだったな。

 欲しい物は自分で買ってしまうアキトが、珍しく頼るような視線を向けてくれるのが素直に嬉しい。

「店主、俺も買っていこう」
「良いのかい?別に押し売りするつもりはねぇぞ?」
「いや、質も良さそうだし、美味そうだからな」
「そうか?ありがとな」

 どれにしようかと相談を始める俺達に気づいたのか、少女はパッとこちらを振り返った。

「おきゃくさん?いらっしゃいませー」

 ニパッと笑いながらそう声をかけてくれた女の子は、確かに立派な看板娘だな。

「じゃあ、これとこれを貰おう」
「ありがとよ。すぐ包む」

 そう言いながら、店主は乾燥果物の山から二つを手に取って俺達の前に差し出した。

「これでも食って待っててくれ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」

 遠慮せずに受け取って齧ってみれば、濃縮された甘みがすごく美味しかった。

「すごく美味しいです!」
「そうかそうか」
「うちのくだものはね、かんそうさせてもすっごくおいしいんだよ」
「ね、本当に美味しいね」

 自慢げな女の子の声に、アキトは笑顔でうんうんと頷いている。

 可愛らしいやりとりを見守りつつ品物が包み終わるのを待っていると、不意にバタバタと遠くから駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。

 一直線にこちらを目指して来ているのは、まだ幼い少年だ。

「ウル!」
「あ、おにいちゃん!」

 ウルと呼ばれたフリルエプロンの女の子は、パッと表情を明るくした。

「どうだった?」
「…ごめん。ウルの作ったお守り、騎士様に渡せなかった」

 悔しそうに顔を歪めた少年の言葉に、少女はすこし寂しそうにしながらも笑顔で答えた。

「だいじょーぶ。むりかもっておもってたから」
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