1,361 / 1,561
1360.【ハル視点】俺の正体
「それじゃあ、俺達はこれで…」
そろそろ行くかと考えた俺がアキトに視線を向けた瞬間、屋台の店主が口を開いた。
「なあ、兄さん、ちょっとだけ気になる事があるんだが…聞いても良いか?時間はそう長くは取らないからさ」
さっきからほんの少しの間やりとりをしただけだが、俺はこの店主の事をすっかり気に入ってしまった。娘のためなら周りに笑われる服だって堂々と着るし、家族の気持ちに寄り添って考えられる人だ。
それに時間的にも、いくつかの質問に答えるぐらいは問題ないだろう。
一瞬でそう考えた俺は、すぐに店主に視線を戻した。
「ああ、なんだ?」
「兄さんとそっちの兄ちゃんは、今は大門前まで移動中…なんだよな?」
「ああそうだ。よく分かったな」
「大門前で出発式をする予定だと、昨日通達が回ってたからな」
今の時間帯にここにいるなら、そこに向かってるんだと思ったんだ。店主はさらりとそう続けた。
「急いでいるだろうに、何故わざわざこのお守りを領主様に届けるなんて言ってくれたんだ?こどもたちは喜んでいるし、もちろん俺も嬉しい。すごく有難い申し出ではあるんだが、その理由が気になってな」
まあそうだよな。隠れてここにいるのに、何故?と聞きたくなるのは当然だ。
「理由は単純だよ」
そう言って笑った俺を、アキトは少し驚いた顔で見上げている。きっと今の俺はすごく嬉しそうな顔をしてるんだろうな。
「あなたと同じだよ。俺も自分の家族が誉められたり、慕われたりしているのを聞くのは、嬉しいからな。そのお礼に届けたいと思っただけだ」
ウルとネスのやり取りを見て、その気持ちがこもったお守りをできれば届けてあげたいなとは思っていた。でも、その時は俺ならできるなぐらいの気持ちだった。
そんな俺がまかせてくれるならぜひ届けたいとまで思ったのは、目の前の家族があまりにも素直に父さんの事を褒めてくれたからだ。
領主としてすごいとか、英雄とか言う人はまあそれなりにいる。道を歩いていてもそこかしこから、父親の名前や誉め言葉は聞こえてくるからな。
だが一人の人としてとまで言ってくれる人は、実はそう多くは無い。
ああ、そうか。だから俺はこの店主の事をやけに気に入ってしまったんだな。自分で考えているうちに、しみじみと納得できてしまった。
それに、こどもたちのチャノレオを選んでくれたその気持ちも嬉しかったんだ。
少し恥ずかしい理由だったかなとそっと視線を向けてみたアキトは、嬉しそうにうんうんと何度も頷いてくれた。
気持ちは分かるよ。俺もケイリーさんが褒められたら嬉しいから。
そう言いたいんだろうなと伝わってくるような、太陽のように明るい笑顔だった。思わずアキトに笑い返してしまった俺の顔を、店主はぽかんと口を開いたまま数秒間見つめてきた。
いったいどうしたんだ?と俺がゆるりと首を傾げた所で、店主がハッとした様子で口を開いた。
「あなたはっ…ハロ…」
ああ、気づいたのか。
家族を褒められて嬉しかったからと言った時点で、この三人に対して正体を隠すつもりも無かったからな。俺の正体がバレても、特に問題は無い。
無いんだが――さすがにここで大きな声で名前を呼ばれるのはまずいな。俺の名前も、普通に広く知られているからな。
「名前は、言わないでくれ」
先回りして、俺はそう声をかけた。
すぐにさっと周りに視線を巡らせてみたが、今はまばらにしかいない人たちは誰一人としてこっちを気にした様子は無かった。
店主とこどもたちと喋っている、ただの客だと思われているようだ。
「っ…そうだな。すまなかった。そして心からの感謝をあなたに」
店主はぎこちない笑みを浮かべながら、ぽつりとそう口にした。
言葉は一気に固くなってしまったが、ここで騒ぎたてるつもりは無いとはっきりと伝えられた気分だな。
やっぱり良い人だ。
ウルは唐突に言葉と表情を固くした父親を、不思議そうに見つめている。
隣のネスは顔を真っ赤にして固まっているから、たぶん父親と同じく俺の正体に気づいたんだろうな。
「?あの、ありがとう、おにいちゃんたち」
よく分かっていないだろうに、ウルは自分から俺達にそう声をかけてくれた。お礼を言わないとと思ってくれたようだ。
「どういたしまして」
「大丈夫、ハルが届けてくれるからね」
「うん、またきてね」
ニッコリと笑って包みを差し出してくれるウルは、間違いなくここの屋台の看板娘だな。
そろそろ行くかと考えた俺がアキトに視線を向けた瞬間、屋台の店主が口を開いた。
「なあ、兄さん、ちょっとだけ気になる事があるんだが…聞いても良いか?時間はそう長くは取らないからさ」
さっきからほんの少しの間やりとりをしただけだが、俺はこの店主の事をすっかり気に入ってしまった。娘のためなら周りに笑われる服だって堂々と着るし、家族の気持ちに寄り添って考えられる人だ。
それに時間的にも、いくつかの質問に答えるぐらいは問題ないだろう。
一瞬でそう考えた俺は、すぐに店主に視線を戻した。
「ああ、なんだ?」
「兄さんとそっちの兄ちゃんは、今は大門前まで移動中…なんだよな?」
「ああそうだ。よく分かったな」
「大門前で出発式をする予定だと、昨日通達が回ってたからな」
今の時間帯にここにいるなら、そこに向かってるんだと思ったんだ。店主はさらりとそう続けた。
「急いでいるだろうに、何故わざわざこのお守りを領主様に届けるなんて言ってくれたんだ?こどもたちは喜んでいるし、もちろん俺も嬉しい。すごく有難い申し出ではあるんだが、その理由が気になってな」
まあそうだよな。隠れてここにいるのに、何故?と聞きたくなるのは当然だ。
「理由は単純だよ」
そう言って笑った俺を、アキトは少し驚いた顔で見上げている。きっと今の俺はすごく嬉しそうな顔をしてるんだろうな。
「あなたと同じだよ。俺も自分の家族が誉められたり、慕われたりしているのを聞くのは、嬉しいからな。そのお礼に届けたいと思っただけだ」
ウルとネスのやり取りを見て、その気持ちがこもったお守りをできれば届けてあげたいなとは思っていた。でも、その時は俺ならできるなぐらいの気持ちだった。
そんな俺がまかせてくれるならぜひ届けたいとまで思ったのは、目の前の家族があまりにも素直に父さんの事を褒めてくれたからだ。
領主としてすごいとか、英雄とか言う人はまあそれなりにいる。道を歩いていてもそこかしこから、父親の名前や誉め言葉は聞こえてくるからな。
だが一人の人としてとまで言ってくれる人は、実はそう多くは無い。
ああ、そうか。だから俺はこの店主の事をやけに気に入ってしまったんだな。自分で考えているうちに、しみじみと納得できてしまった。
それに、こどもたちのチャノレオを選んでくれたその気持ちも嬉しかったんだ。
少し恥ずかしい理由だったかなとそっと視線を向けてみたアキトは、嬉しそうにうんうんと何度も頷いてくれた。
気持ちは分かるよ。俺もケイリーさんが褒められたら嬉しいから。
そう言いたいんだろうなと伝わってくるような、太陽のように明るい笑顔だった。思わずアキトに笑い返してしまった俺の顔を、店主はぽかんと口を開いたまま数秒間見つめてきた。
いったいどうしたんだ?と俺がゆるりと首を傾げた所で、店主がハッとした様子で口を開いた。
「あなたはっ…ハロ…」
ああ、気づいたのか。
家族を褒められて嬉しかったからと言った時点で、この三人に対して正体を隠すつもりも無かったからな。俺の正体がバレても、特に問題は無い。
無いんだが――さすがにここで大きな声で名前を呼ばれるのはまずいな。俺の名前も、普通に広く知られているからな。
「名前は、言わないでくれ」
先回りして、俺はそう声をかけた。
すぐにさっと周りに視線を巡らせてみたが、今はまばらにしかいない人たちは誰一人としてこっちを気にした様子は無かった。
店主とこどもたちと喋っている、ただの客だと思われているようだ。
「っ…そうだな。すまなかった。そして心からの感謝をあなたに」
店主はぎこちない笑みを浮かべながら、ぽつりとそう口にした。
言葉は一気に固くなってしまったが、ここで騒ぎたてるつもりは無いとはっきりと伝えられた気分だな。
やっぱり良い人だ。
ウルは唐突に言葉と表情を固くした父親を、不思議そうに見つめている。
隣のネスは顔を真っ赤にして固まっているから、たぶん父親と同じく俺の正体に気づいたんだろうな。
「?あの、ありがとう、おにいちゃんたち」
よく分かっていないだろうに、ウルは自分から俺達にそう声をかけてくれた。お礼を言わないとと思ってくれたようだ。
「どういたしまして」
「大丈夫、ハルが届けてくれるからね」
「うん、またきてね」
ニッコリと笑って包みを差し出してくれるウルは、間違いなくここの屋台の看板娘だな。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
劣化スキルで追放された俺ですが、不純物だけを「選んで」壊せるので実質最強でした〜毒草も泥水も分解して、辺境の孤児たちと豊かな開拓ライフ〜
チャビューヘ
ファンタジー
「お前のスキルは物を壊すだけだ」
王都の宮廷錬金術師団を追放された青年クロード。彼の持つスキル劣化は、触れたものの品質を下げるだけの「外れスキル」と見なされていた。
辺境へと追いやられた彼は、打ち捨てられた廃村で、飢えと魔物の脅威に怯えながら生きる5人の孤児たちと出会う。生きるために毒草をかじる彼らを見たクロードは、自身のスキルの「真の力」を行使する。
劣化の精密制御――それは、毒草から「毒素だけ」を分離し、泥水から「不純物だけ」を取り除く、万能の錬金術だった。 腹を空かせた子どもたちに安全な食事を与え、井戸を浄化し、迫り来る大狼の群れから村を守るクロード。抜け目のない行商人の少女メルヴィも加わり、彼らは廃村を少しずつ豊かな拠点へと作り変えていく。
しかし、村の地下にはクロードのスキルと同じ紋章が刻まれた古代遺跡と、謎の「根」が眠っていて……。
これは、すべてを失った錬金術師が辺境の地で子どもたちと生き抜き、やがて世界の秘密に触れるまでの村づくり開拓ファンタジー!
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
過労死転生、辺境で農業スローライフのはずが、不愛想な元騎士団長を餌付けして溺愛されてます
水凪しおん
BL
「もう、あくせく働くのは絶対に嫌だ!」
ブラック企業で過労死した俺、ユキナリが神様から授かったのは、どんな作物も育てられ、どんな道具にもなるチートスキル【万能農具】。念願のスローライフを送るため、辺境の荒れ地でのんびり農業を始めたはずが……出会ってしまったのは、心を閉ざした無愛想な元騎士団長・レオンハルト。俺の作るあったか料理に胃袋を掴まれ、凍てついた心が徐々に溶けていく彼。もふもふの番犬(黒狼)も加わって、穏やかな日々は加速していく。――収穫祭の夜、酔った勢いのキスをきっかけに、彼の独占欲に火をつけてしまった!?
「お前は、俺だけのものだ」
不器用で、でもどこまでも優しい彼の激しい愛情に、身も心も蕩かされていく。
辺境の地でのんびり農業をしていただけなのに、いつの間にか不愛想な元騎士団長の胃袋と心を射止めて、国まで動かすことになっちゃいました!? 甘々で時々ほろ苦い、異世界農業スローライフBL、ここに開幕!
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。