生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1367.混乱する周囲

 もしこの場にいるのが俺とキースくんだけだったら、みんな集まってきてくれて嬉しいなーって手放しで喜べたのかもしれない。

 でも今は、素直に喜べないんだよね。

 俺とキースくんがハルを待っていたのは、行進の参加者を見送りに来た人たちのための場所だ。つまり今俺たちの周囲にいる人たちは、領主一家に対しての免疫があまり無い人たちだって事になるよね。

 いくらケイリーさんがフレンドリーだって言っても、さすがにそこらへんをほいほい歩いてたりはしてないからね。

 狭き門だけど騎士になるか、衛兵になるか、または使用人にでもなれば出逢う機会もあるかもしれない。

 後は貴族になるとか?貴族ってそんなにぽんっとなれるものなのか知らないんだけどね。

 でも多分…ここにいる人達は、そのどれにも当てはまらない人が多いんだと思う。

 さて、そんな場所に、突然領主様一家が近づいてきたらどうなると思う?

「はっ…?」
「いや、これは嘘…だろ…?嘘…だよな?」
「なるほど、夢かー。俺、いったいいつの間に寝たんだろ?」

 驚きすぎて小さく息を飲んで固まる人。嘘だろとひたすら空中に向かってそう尋ね続けている人。あっさりとこれは夢だと断定している人。

 反応はそれぞれだけど、みんな冷静じゃなくて今も混乱中って事だけは一緒だ。

 その気持ちは分かるけどね。

 まさかここまでの至近距離で領主一家が集まってるのを目撃するなんて、見送りに来ると決めた時には、きっと誰一人として想像してなかった事態なんだと思う。

 それでも、領主様だーとか言いながら無造作に駆け寄って来る人が一人もいないんだからすごいと思う。目線は釘付けだし、じーっと見つめてはいるけど、騒いだりはしないんだね。

 周囲の静かな大混乱を、俺は申し訳ない気分で見つめていた。

 だって俺とキースくんがもしここにいなかったら、こんなに混乱はしなかったよね。驚かせてごめんなさいって気持ちになってくるよ。いや、でも近くで見れて嬉しいって気持ちも伝わってくるから、これはこれで良かったのかもしれない。

「ま、まさかこんな日が来るとは…」

 呻くようにそう呟いたきり動かなくなった壮年の男性に、友人らしき衛兵さんは夢が叶って良かったじゃないかと楽しそうに笑っている。

「目に焼き付けておこう」
「そうだな。しっかり見ておかないとな」

 そう言い合いながら、まじまじとこちらを見ているご夫婦もいるなな。孫に話してあげなくちぇと二人ではしゃいでいて可愛らしい。

「ああ、みな様、本当に麗しいわ…素敵…」

 不意にぽつりとそう呟いた女性は、ぽーっと見惚れるような表情でケイリーさんたちを見つめている。

 憧れのこもった視線だなと思いつつ見ていると、隣に立っていた騎士さんが複雑そうな表情で呟いた。

「いや、あのさ…姉ちゃん?俺の見送りに来たはずなのに、ずっとこっちを見ようともしないのはどうかと思うぞ?」

 そう言われると確かにお姉さんの視線は忙しそうに動いてるけど、ケイリーさんから順番に領主一家を一周してから俺に向いて、またケイリーさんへと戻っている。

 隣に立つ弟さんには、かけらも視線を向けていない。

「ごめんね、弟。いまちょっと忙しいのよ」

 あっさりとそう言い放ったお姉さんに、弟と呼ばれた騎士は少しだけ悔しそうな表情を浮かべた。

「姉ちゃんさーいったい誰のおかげでここにいられてるか分かってる?」

 参加者の家族だから入れたんだからねと続けた騎士さんに、お姉さんはにっこりと笑って答えた。

「あんたのおかげって事は、ちゃーんと分かってるわよ。強くなってくれて、そして騎士団に入ってくれてありがとうね。あんたは自慢の弟よ」

 さらりとそう言い放ったお姉さんに、騎士さんはバッとその場でうつむいた。耳が赤いからきっと照れたんだろうな。

 微笑ましい姉弟のそんなやり取りを見守っていると、不意にハルが口を開いた。

「父さん」
「どうしたんだ、ハル」
「渡したい物があるんだ」
「渡したい物?もちろん受け取るが…改まってどうしたんだ?」

 不思議そうなケイリーさんに、ハルはあの屋台の兄妹から託されたお守りをすっと差し出した。
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