生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
1,379 / 1,447

1378.到着

しおりを挟む
 マチルダさんとジルさん、キースくんと話していると、時間なんて本当にあっという間に過ぎていく。

 馬車の中での話題にあがったのは、最近読んだ本についてや、最近食べて美味しかったもの、騎士さんたちの中で最近流行してるお店、それに昔のハルと家族の思い出話なんかもあった。

 マチルダさんは明るく面白く話すのがすごく上手だし、ジルさんは勉強になるような事を簡単にかみ砕いてさらりと話してくれる。キースくんはその知識量を活かして、俺に色んな事を教えてくれる。

 三人の会話力に驚いたり感心したりしているうちに、どんどん時間が過ぎていくんだよね。



 そうしてあれこれと四人で話し込んでいると、不意に馬車の揺れがぴたりと止まった。

「お、着いたかな?」

 マチルダさんがそう言った時には、正直に言ってかなり驚いた。

 俺の体感ではまだ領主城に着くほど時間は経ってなくて、もしかして何かあったのかなー?って思った瞬間だったから余計にね。

「え、もう?」

 あ、良かった俺だけじゃなかった。どうやらキースくんも、同じ気持ちみたいだ。

「ああ、ちょっと待ってくれ」

 そう言うなり、マチルダさんは御者さんのいる方向に隠すように設置されていた小窓を薄く開いた。同系色でまとめられているから、そこに小窓があると言われなければ気付けないような作りだ。

 こんな所にまで、こだわってるんだ。

 それにしても、こういうのっていったいどこまでをクリスさんが作ってるんだろうね?魔導収納の魔道具の部分だけかな?それともこのお洒落な馬車の中も、全部クリスさんが作ってる?

 そんな事を考えていると、御者さんが小窓の向こうからマチルダさんに声をかけた。

「マチルダ様、ただいま領主城前に到着いたしました」
「ああ、ありがとう」
「すぐに扉を開きますので、もうしばらくだけお待ちください」
「分かった。急がなくて良いからな」

 答えを待ってから、御者さんは御者席からぴょんっと飛び降りたみたいだ。軽い揺れを感じながら、俺はキースくんに声をかける。

「楽しかったからあっという間だったね?」
「うんっ!楽しかったねー」

 ニコニコ笑顔で答えるキースくんの可愛らしさに、馬車の中にいる全員が自然と笑顔になった。

「ええ、本当に楽しかったです」

 嬉しそうなジルさんの言葉に、マチルダさんもふわりと笑って答えた。

「私も心からそう思うよ。周りの目を気にせずに自然体で話せる場所があるというのは…嬉しい事だな」

 しみじみとそう呟いたマチルダさんは、不意にこちらを見ると俺に向かって笑みを見せた。艶やかな美しい笑顔だ。

「アキト、そのストファー魔道具店の友人たちに、私からの礼を伝えて貰う事はできるかな?」
「もちろんです!」
「移動中なのに外面を取り繕わずにこうして話せるというのは、本当にありがたい。きっと王都に行っているグレースも、この馬車を知れば大喜びすると思う」
「はい、伝えおきますね」

 クリスさんとカーディが褒められるのは、もしかしたら自分が褒められるよりも嬉しいかもしれない。友人だから…かな。

「みなさま、お待たせいたしました」

 そんな声かけと共に、馬車のドアが開いた。

「では、お先に失礼しますね」

 そう声をかけたジルさんが、真っ先に馬車から降りていく。

「こういう時のジルは、驚くほど素早いんだよな」

 今日も先を越されたなと苦笑しながら、マチルダさんも立ち上がった。

 ん?どういう意味だろう?

 思わず首を傾げた俺に、隣に座っていたキースくんがあのねと教えてくれた。

 なんでもこういう時は、一番偉い人が最初に降りるのは本当は駄目なんだって。これは貴族のルールというよりも、安全面に配慮したものらしい。

 そっか、だからジルさんは率先して馬車から降りていって、マチルダさんは素早いと苦笑してたのか。

 マチルダさんは次期領主夫婦で、今は領主代理だからって事だよね。

「アキトくん、僕たちも行こう?」

 そう言いながらそっと控え目に差し出された手を、俺はすぐにきゅっと握り返した。
しおりを挟む
感想 375

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

処理中です...