生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1389.【ハル視点】出発式

 領主である父さんからの親しみと信頼のこもった言葉に、今日一番だろうなと思うような爆発的な歓声が一気に沸き起こった。

 キャーキャーと叫んでいる領民たちの声の圧だけで、建物や大門までがビリビリと振動している。これはすごい大騒ぎだな。

 ちらりと周りを見回してみたんだが、整列している人たちの反応も様々だった。

 相変わらずすごい人気だなと言いたげに、思わず苦笑している人。

 さすが領主様だよなと言いたげに、キラキラと目を輝かせながら見つめている人。

 今日も素晴らしい演説だったなと言いたげに、満足そうに頷いている人。

 これからこの人と一緒に、遠征に参加できるんだなと言いたげに誇らし気に胸を張る人。

 それに、ごく一部ではあるんだが――父さんの言葉なんて全く聞かずに、これからの遠征や戦闘にワクワクしている人もいるな。

 あの辺りには、衛兵と騎士の中でも特に戦闘が大好きなやつらばかりが集まってるんだな。いや、あれはわざと集めているんだろう。

 

 まだ興奮が冷めやらない見送りの人たちへと父さんがゆったりと手を振っている間に、行進に参加していた人たちはひらりとウマから飛び降りて列を作り始めていた。

 騎士たちはそれぞれの乗ってきたウマと一緒に列の一番端に整列し、ファーガス兄さんとマティさんは隣に並んで列の一番前へと移動する。

 既にできている列の端に並ぶだけだから、時間はそれほど掛からない。

 全員がずらりと整列した所で、父さんはくるりとウマの向きを変えてこちらを向いた。背中を向けていたから確実にこちらは見えていなかった筈なんだが、振り向くタイミングが良すぎるな。

 おそらく整列中の騎士の、鎧や剣の触れる音を聞いていたんだろうが――これだけの歓声の中でそれだけを聞き分ける父さんの異常さが際立っているな。

 密かに失礼な事を考えている間に、父さんは騎乗したまま大門をくぐると、ゆっくりとこちらへと近づいてくる。

 整列している騎士や衛兵、使用人からはもちろん、大門の外まで見送りにきている関係者の視線も一気に集まっている。

 普通の人なら緊張してしまうような状況だが、父さんはいつも通りの表情を崩さない。

 普段は伴侶に弱いただの人だから忘れがちなんだが、こういう姿を見るとやっぱり英雄なんだなと納得してしまうな。

 堂々とみんなの前に立った父さんは、その場に並んでいる全員をぐるりと見回した。ただそれだけの動きで、その場の空気がピリッと引き締まる。

 全員が胸を張り微動だにせず見つめ返すなか、動いたのはファーガス兄さんだった。

「これより、本日の出発式を開始する!」
「一同、敬礼!」

 マティさんがそう声を張ると、その場に並んでいる全員が一斉に礼を取った。 

「本日より、我々は遠征へと向かう。その帰還の領主代行にはマチルダ・ウェルマールを、その補佐役にはジル・ウェルマールを任命する」

 父さんがそう宣言すれば、マティさんとジルさんが謹んでお受けしますと声を揃えた。これは領主が遠征等で街を離れる際には必ず行われる、定番のやり取りだ。

「今回の遠征の目的は個々の能力の向上と、組織の枠を超えた連携を取れるようにする事だ」

 どうやら今回の出発式の進行役は、ファーガス兄さんが担うようだ。執事長のボルトがいればボルトが担当する事が多いんだが、今日は領主城に残っていて不在だからな。

 ファーガス兄さんは、落ち着いた声で続けた。

「そのために今回の遠征部隊には、騎士と衛兵、それに領主城の使用人も参加している。現地では、さらに数組の冒険者とも合流する予定だ」

 これは何故これほど大人数を、しかも所属の違う人まで連れていくのかという説明――いや、言い訳だな。
 
「続いて、我らが領主、ケイリー・ウェルマールから一言いただこう」

 その場にいる全員の目が、ぱっと父さんに集まった。 

「急な遠征の要請だったが、こうして集まってくれた事に感謝する。ファーガス騎士団団長も言っていたが、今回の目的はそれそれの能力の向上と、組織の枠を超えた連携の確立だ」

 そう言いながら、父さんは整列している者たちの顔を順番に見つめてから口を開いた。

「我々の剣は、我々の盾は、我々の弓矢は、我々の魔法は――!」

 徐々に大きくなっていく声に、周囲はしんと静まり返った。

「心優しい領民たちを守り!襲い来る魔物たちを狩り!悪意を持つ者どもを倒すためにある!今回の遠征を通じて更に己を鍛え上げ、更なる高みを目指せ!―――我が領の誇るべき精鋭たちよ!」
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