生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1390.【ハル視点】出発式終了

 周囲を鼓舞するためのこういう言葉というのは、発言をする人によってその威力が大幅に変わってくる。

 例えば普段から騎士たちとは一切交流していないような領主が言っても、表面上はありがたそうに聞きながらも、実際には何とも思わないだろう。何なら内心では早く終われと思っている騎士だって、絶対にいると思う。

 それなら逆に普段から騎士たちとの距離が近く、何なら共に訓練を積む事もあり、最前線にまで出て共に戦うような伝説の英雄なら?

 当然だがその威力はものすごいものとなる。何らかの強化魔法でもこっそりかけたんじゃないかと思うぐらいの威力だ。

 今回は騎士だけでなく衛兵や使用人まで混ざった混合遠征隊だ。

 気を引き締めて遠征に挑んでもらうためにも、出発式ではきっと士気を高めるような事を言うんだろうな――あらかじめそう予想していた俺でも、自然とやる気が出てくるんだから不思議だ。

 整列していた遠征の参加者たちは、一斉に姿勢を正すと声を揃えて答える。俺ももちろんお決まりの言葉を口にした。

「「「ハッ!我ら全力を尽くします!」」」

 返答の言葉はおそらくどこの領でもだいたい同じだと思うんだが、そこに込められた気持ちが段違いだ。

 俺たちがそう答えた次の瞬間、門のこちら柄にいる見送りの人たちと大門の向こう側の領民たちから、大地を揺るがすような大歓声が沸き起こった。

 少なくとも出発式の間はできるだけ叫ばないように我慢してくれていたようだから、もしかしたらその反動もあるのかもしれない。

 ファーガス兄さんはそんな周囲を見回してから、ほんの少しだけ唇の端を持ち上げた。珍しく嬉しそうな笑顔だな。まあ見慣れた人なら分かる程度の変化なんだが。

 おそらく一気に引き締まった空気とやる気に満ちた遠征参加者たちの反応が、嬉しかったんだろうな。
 
「以上で本日の出発式を終了する」

 ファーガス兄さんがそう宣言をすれば、本日の出発式は終了だ。

 基本的にこういう式典というのは、各領によって全く長さが違っている。その辺りは領主の裁量に一任されているからな。

 遠征の目的に脚色を加えて長々と語り、遠征費用を用意した自分の功績を長々と語り、更に遠征参加者たちに日頃からの訓練の大事さを語る。聞いた話ではそんな領主がいる領も、残念ながらあるらしい。

 幸いにもウェルマール領もトライプール領も、こういう式典はかなり短い方だ。

 効率を重視する領主が上に立っている事に、感謝したくなるな。

「遠征部隊の出発時刻は20分後となる。その間に装備や持ち物の最終確認をし、見送りの方たちとの挨拶もきちんとすませておいてくれ」
「「「ハッ!」」」
「では、解散!」

 解散と言われた瞬間、それぞれがバラバラに動き出す。

 どうしても時間は限られているからな。

 装備や持ち物の確認が済んでいない者は慌てて駆けていくし、見送りの人と話したい者は既に足早に歩き出している。

 俺もアキトとキースの所へ急ごうとした瞬間、がしりと肩を掴まれた。あー油断していたなと思いながら振り返れば、そこにはニコニコと笑顔を浮かべるウィル兄と、申し訳なさそうなジルさんの姿があった。

「ハル、どこ行くんだー?」
「ウィル兄、どこってアキトとキースの所に決まってるだろ」
「まあそうだよねー。ね、俺とジルも一緒に行って良い?」
「ああ、二人も喜ぶから良いんじゃないか」

 ウィル兄とジルさんなら、それほど目立たないしな。そう思って頷いた瞬間、真後ろから声がかけられた。

「それはもちろん、俺たちも良いんだよな?」
「私もぜひご一緒したいですね」

 声をかけてきたのはファーガス兄さんと、丁寧な話し方のマティさんだ。

「えっと…ウィル兄とマティさんは、すこし目立つので…」

 実際に今も、色々な人からの視線を感じる。周囲にいるのは遠征部隊の参加者ばかりの今の状況でこれなんだから、見送りの人たちの場所に連れていくともっと大騒ぎになるだろう。

「そんな悲しい事を言うなよ」
「そうですわ、家族ですのに…」

 寂しそうな表情を浮かべているマティさんだが、目だけはあなただけずるいと訴えてくる。

「マティさん…良いんですか?見送りの人たちが集まる場所なんですが…」
「あら、見られるのには慣れてますわ」
「…分かりました」

 これはもう仕方ないな。時間も無くなるし。

 四人を連れて歩こうとした瞬間、今度は前方から声が聞こえてきた。

「では、行こうか」

 ため息を吐いてから視線をあげると、そこにはニッコリと笑顔の父ケイリーの姿があった。

「…父さんまで来るんですか?」
「ひどいな、私も当然行くとも」

 ああ、すまない。アキト、キース。ここで時間を使って揉めるよりも、俺は連れていくのを選ぶよ。

「分かりました、ちゃんと着いてきてください」



 領主一家が全員揃って移動すれば、当然だがすごく目立つ。周囲の痛いほどの視線も、声をかけたいと言いたげな表情も全部無視だ。

 全力で早歩きをして、俺は一直線に二人の待つ場所を目指して歩き続けた。

「アキト、キース、お待たせ」

 そう声をかければ、アキトとキースは慌てて声のする方に向きなおった。そうして大きく目を見開いて固まってしまった。そうだよな、驚くよな。本当にすまない。

 全員が挨拶を交わすのを待ってから、俺は二人に声をかけた。

「みんなアキトとキースに挨拶するんだって言って、全く引いてくれなくてね。時間が無くなりそうだから、全員連れてきちゃったよ」
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