生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1404.【ハル視点】魔物たち

 師匠とロア隊長が互いを褒め合っている間にも、騎士たちにはきちんと指示が通っていたらしい。

 ふと気づけば地面に倒れたケセルの両側には、騎士たちが並んで待機していた。彼らは解体が得意な者たちを集めたチームが、ここに辿り着くまでの間の見張り役だ。

「後続の解体チームへの連絡は終わったよー」

 ウィル兄ののんびりとした、けれど何故か不思議と通る声が周囲に向けてそう告げた。

「分かった」
「連絡ありがとう。助かった」

 父さんとファーガス兄さんの返事に、ウィル兄はにっこりと笑ってひとつ頷いた。

 連絡も終わったようだし、今度は特に近づいてくるような魔物の気配も無い。となれば、移動も再開だな。

 師匠も俺と同じく、そろそろ隊列が動き出すと見たらしい。

「ロア隊長、機会があれば、またお話しましょう」
「ロイ殿、ぜひお願いいたします」

 嬉しそうに頷いたロア隊長を、後ろの隊員たちは驚きを隠せない表情で見つめている。俺もあんなに嬉しそうな師匠に、驚いた顔をしてるのかもしれないな。

 まあ気が合いそうで何よりだ。

 父さんたちのいる方へ向かって目礼をすると、師匠はすぐに駆け出した。目指しているのは当然、さっきまで自分がいた場所だ。

 置いていったウマに詫びるように優しく背を撫でている師匠に、周囲からは一斉に文句が浴びせられている。

「ロイ、お前一人だけ褒められやがって!」
「抜け駆けするとかひでぇよな!」
「俺だって、首を落とすぐらいなら出来るのに!」

 そんな賑やかな声があちこちから聞こえてくるのが、何とも衛兵たちらしい。いや、ベテラン衛兵たちらしい――という方が正しいか。若い衛兵たちは師匠の事を尊敬の目で見つめている。

「お前たち、普段は早い者勝ちだーと言っているだろう。それに領主様は、衛兵の力強さと言ってくれてた。つまりあれは俺じゃなくて、衛兵全体が褒められてるんだよ」
「なるほど、それもそうか…」

 素直というか単純というか。納得した衛兵に他の衛兵が即座に声をかける。

「いや騙されるな!それはロイの話術だぞ!」
「いや、これは話術というほどのものじゃないだろうよ…」

 呆れ顔でそう返した師匠に、周囲の衛兵たちが一斉に笑い出す。ベテラン衛兵たちのあの言い合いは、ただのじゃれ合いみたいなものだからな。しばらくすれば、良くやったと褒め合って終わりだ。

「ご苦労だった。これより移動を再開する!」

 父さんがそう宣言すれば、ソフラ隊長の率いる魔法部隊と、ロア隊長の率いる弓部隊が揃って前へと駆け出した。ひとまず移動中は、遠距離攻撃部隊を前にするようだ。



 これだけの人数とウマが集まっているから戦闘は少ない筈だという俺達の予想は、悪い意味で裏切られる事になった。

 亜種のワイルドボアと盗鳥ケセルに続き、巨大な大木のような魔物であるレックトレント、フォレストウルフの群れ、斧を装備したオークなどが立て続けにやってきた。

 魔法部隊と弓部隊の先制攻撃で怯ませたり弱らせたりした上で、衛兵や騎士の近接攻撃で仕留めているから大きな怪我も無いんだが…少し多すぎるな。

 あまりに度重なる戦闘のせいか、父さんは休憩を取る事に決めたらしい。

 隊列が完全に停止すると、それぞれがウマから下りての休憩時間だ。魔導収納鞄から飲み物を取り出して飲む者、さきほどまでの戦闘で汚れた武器の整備を始める者、近くの同僚と話し込んでいる者と過ごし方はそれぞれだ。

 俺はここまで運んでくれたタユに礼を言いながら、毛並みを整えるようにしてゆっくりと首筋を撫でる。最初はこうして休憩中に触れるのも嫌がられていたんだが、シュリから首の後ろが好きらしいと聞いてからは撫でさせてくれるんだよな。

 気持ちよさそうに目を細められると、俺も嬉しくなってくる。アキトがウマを撫でる時の優しい手の動きを思い出しながらゆっくりと撫でていると、不意にファーガス兄さんが声をかけてきた。

「ハル、ちょっと良いか?」
「ああ、問題無いが、どうした?」

 振り返れば、すぐ真後ろにファーガス兄さんが立っていた。隣にはウィル兄さんと、父さんも一緒だ。

「みんな揃ってどうしたんだ?」
「今日の魔物の数が気になってな。すこし不自然じゃないか?」

 父さんは口にはしなかったが、これがスタンピードの兆候じゃないかと聞きたいんだろう。

「一番魔物に詳しいのはハルでしょ?ハルはどう思うー?やっぱり不自然?」

 おどけたような声で尋ねてくるウィル兄だが、その目はどこまでも真剣だった。
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