生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1407.【ハル視点】リヤンの暴挙

 冒険者の母を追って冒険者登録をしていた時期もある父さんと、普段からルピカやサイクのチームとの付き合いがあるファーガス兄さんは納得顔でなるほどと頷いている。

 あまり冒険者と触れ合っていないウィル兄さんは、目をキラキラと輝かせている。表情からして面白がっているな、あれは。きっと後で色々と冒険者に話しを聞こうと考えているんだろう。

「待ち疲れていないなら、良かったよ」
「いえ、むしろ待ち時間で稼がせてもらったって感じですな。みんな楽しんでましたよ」

 ニカッと笑ったリヤンは、少し離れた場所にいる冒険者たちに向かっておーいと声を張り上げた。

「お前ら!解体はそこまでで終了にしてくれ!後は冒険者ギルドに持ち込んでやれば良いから、残りはこれにでも入れとけーっ!」

 そう言いながら取り出した魔導収納鞄を無造作にくるくると丸めると、リヤンは思いっきり振りかぶった。

「えっ…!」
「ちょっと…!」
「は?」
「待て待て!」
「おい、ギルマス!止まれって」

 そんな冒険者たちからの叫び声を特に気にした様子もなく、リヤンは魔導収納鞄を空めがけてぽいっと放り投げた。

 リヤンの投げ方が上手いのかそれともその剛腕のせいか、そのあたりははっきりとはしないが魔導収納鞄は弧を描いて飛んでいく。

 冒険者たちからは、一斉に押し殺したような悲鳴があがった。

 いったい何事だと身構えた遠征参加者たちが見つめる中、冒険者の中にいた一人の女性が弾かれたように駆け出した。服装からして、おそらく身軽な前衛職なのだろう。

 驚くほどのスピードで一気に近づいていくと、まさに落下中のその鞄を空中で見事に掴み取った。見守っていた遠征参加者たちからはおおーという歓声が、冒険者たちからはホッとしたような息が漏れた。

 そうしてその女性はそのまま速度を落とす事なく、一直線にリヤンの前まで駆け寄ってきた。

「お?どうした?遠慮せずに使ってくれて良いんだぞ?」

 何故こっちに来たんだ?と不思議そうにそう尋ねるリヤンの前で、うつむいている女性はフルフルと震えながら口を開く。

「バ、バ…」
「バ?」

 不思議そうにそう問い返したギルマスの姿を見て、俺は直感的にさっと両手を使って耳を塞いだ。

 父さんも、ファーガス兄さんも、ウィル兄も、ベテランの衛兵たちも、それに俺達の行動に気づいた参加者たちも咄嗟に両手で耳を塞いだ。

 次の瞬間、女性は思いっきり全力で叫んだ。

「こっのっ!バカマスターっ!」

 耳を塞いでいなかった参加者たちは、あまりの大声に体を震わせている。耳を押さえて苦しんでいる者もいるな。

 叫ばれたリヤンは耳こそ塞いでいなかったが、ある程度予想はしていたのか笑って何だと答えている。

 自分の所属するギルドのギルマスを捕まえてバカマスターと言えるのは、なかなかに良い度胸だな。

「あ、の、ね、バカマスター!何度も何度も、しつこいぐらい何度も言ってるけど、完全時間停止付きの魔導収納鞄をぽんっと放り投げるとか、普通に考えたらあり得ないんだよっ!このバカっ!」
「あーすまんすまん」
「気持ちがこもってないっ!もっとちゃんと本当に反省しろっ!このバカマスター!」

 へぇ完全時間停止はすごいな。

 普通はほんの少しずつとはいえ、やっぱり劣化はしていくからな。しかもあれだけの魔物が入る容量ともなれば、放り投げた事に対して文句を言いたくなる気持ちも分かるな。

 魔道具技師のマルクさんですら、驚きの顔でその魔導収納鞄を見つめているから、かなり珍しいものなのだろう。

「分かった。分かったから、今はそれぐらいにしてくれよ。ほらみんなが見てるぞー?」

 悪戯っぽく笑いながらそう言ったギルマスに、斥候の女性はハッと周囲を見ると一瞬で真っ赤になった。

 あまりに急な行動に、遠征部隊が到着しているとは思っていなかったんだろう。

 女性は俺達全員に向けてペコリと頭を下げると、失礼しましたと叫んでからささっと離れて行った。行先はあの魔物の山の方のようだ。

「バカマスター。後で絶対、サブギルマスと一緒になって説教するからね…」

 ぼそりとそう呟いた女性に、心なしかギルマスの顔色が悪くなった気がした。
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