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1425.【ハル視点】冒険者たち
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前を行く騎士集団の後ろに続いて、俺達はゆっくりとダンジョン内を進んで行く。
進行速度は、それほど速くはないな。周囲の警戒をきっちりしてくれているし、たまに出てくる魔物たちも倒しながらだから、そこは仕方がないんだが。
俺達がわざわざ前に出て戦闘に参加しないといけないような危険な敵も出てこないから、楽といえば楽だし――退屈といえば退屈だな。
ウィル兄は澄ました顔で隣を歩いているが、冒険者たちはもう限界に近そうだ。
「あー私も戦いたいなー」
「分かる」
斧使いのソールと、短剣使いのシタルがそう言い出したのを、リーダーであるエーリカが我慢しなさいと宥めている。
「俺は弓部隊に参加したい」
「そうだよねー俺も盾使いだから、一番前の部隊に混ざっても良いんじゃない?」
弓使いであるエンリケと、盾使いのミルゴもそんな事を言っているな。
「ねールピカ、俺行ってきても良い?」
「いや駄目だな。ミルゴ、お前はマルクさんをしっかり守るんだろ?」
さすがリーダーというべきか、ルピカは優しくそう言い聞かせている。
「あ、そうだった…ごめんな、マルクを守りたくないとかじゃないから!」
「いえ、お気になさらずに」
あわあわと言い訳を始めたルピカに、マルクは笑って応えている。その隣ではエンリケの肩をぽんっと叩いたサイクが、ミルゴも我慢するんだから我儘は言うなよと釘を刺していた。
いくら退屈でも、何も考えずに前へ飛び出して行きそうな奴はいなさそうだな。
そんなやりとりを眺めながらしばらく進んでいると、背後からは父さんとファーガス兄さん、それに後続の参加者たちもぞくぞくと追いついてきた。
「来たねー」
「ああ、来たぞ」
ウィル兄のいつも通りの声かけに、父さんもこくりと頷きながら答えた。
「その改造されているという部屋までは…もう近いのか?」
ファーガス兄さんの質問に、俺とウィル兄は近いなと二人で声を揃えた。
「ここまでの部屋も一応全部なかを調べてはくれてるけど、魔物しかいなかったってー」
いつの間にそんな事を?と視線を向ければ、ウィル兄はいつの間にかノート型の魔道具を覗き込んでいた。片方に書き込めばもう片方にも同じ内容が記載されるという、あの情報伝達用の魔道具だ。
「ちなみに注意してとは言っておいたけど、まだポズナーラは一匹も見つかってないよー」
「やっぱりその時に、一時的にばら撒いていただけなのか…その方が助かるんだが…」
納得顔でうんうんと頷いているファーガス兄さんよりも、俺達の会話を聞いていたリヤンの顔が強張っていることの方が気になるな。表情は妙に迫力のある真顔になっているし、ピリッと張り詰めたような空気が漂っている。
まあギルドに所属する冒険者がポズナーラのせいで命を落としかけたと聞けば、冒険者ギルドのギルマスであるリヤンが怒るのも当然か。
よくもダンジョン内にそんなものを撒いてくれたなとそう思っているんだろう真顔のままのリヤンの肩を、ルピカとエーリカは落ち着けと言いたげに軽く叩いた。
「ギルマス、ちょっと顔が怖いわよ」
「仕返しするなら手伝うから、もう少し落ち着いてくれ」
「そうそう、俺達だってポズナーラを撒いたやつらを、許すつもりなんかねぇからな」
口々にそう声をかける冒険者たちのおかげで、リヤンは少しだけ落ち着いてきたようにみえる。よし、リヤンの事は彼らにまかせておこう。
「そろそろ見えてくると思う」
俺がそう声に出せば、ウィル兄も続けた。
「そこの先の右側だよー」
「あそこか…」
ルピカとエーリカは、自分たちのパーティーが保管している地図をさっと取り出した。すぐに99階層を開いて、俺達にも見えるようにと広げてくれる。
「私たちも見せてもらって良いのか?」
「ええ、もちろんです」
「どうぞご覧ください」
律儀に確認した父さんに、エーリカもルピカも笑顔で頷いている。
今の質問は完全に無意識だったと思うんだが、今の一言で冒険者にとっての地図の重要性をきちんと理解している事が伝わったな。それに、冒険者をきちんと尊重してる事もきっと伝わっただろう。
嬉しそうな冒険者たちに見守られながら、俺達は地図を覗き込んだ。
進行速度は、それほど速くはないな。周囲の警戒をきっちりしてくれているし、たまに出てくる魔物たちも倒しながらだから、そこは仕方がないんだが。
俺達がわざわざ前に出て戦闘に参加しないといけないような危険な敵も出てこないから、楽といえば楽だし――退屈といえば退屈だな。
ウィル兄は澄ました顔で隣を歩いているが、冒険者たちはもう限界に近そうだ。
「あー私も戦いたいなー」
「分かる」
斧使いのソールと、短剣使いのシタルがそう言い出したのを、リーダーであるエーリカが我慢しなさいと宥めている。
「俺は弓部隊に参加したい」
「そうだよねー俺も盾使いだから、一番前の部隊に混ざっても良いんじゃない?」
弓使いであるエンリケと、盾使いのミルゴもそんな事を言っているな。
「ねールピカ、俺行ってきても良い?」
「いや駄目だな。ミルゴ、お前はマルクさんをしっかり守るんだろ?」
さすがリーダーというべきか、ルピカは優しくそう言い聞かせている。
「あ、そうだった…ごめんな、マルクを守りたくないとかじゃないから!」
「いえ、お気になさらずに」
あわあわと言い訳を始めたルピカに、マルクは笑って応えている。その隣ではエンリケの肩をぽんっと叩いたサイクが、ミルゴも我慢するんだから我儘は言うなよと釘を刺していた。
いくら退屈でも、何も考えずに前へ飛び出して行きそうな奴はいなさそうだな。
そんなやりとりを眺めながらしばらく進んでいると、背後からは父さんとファーガス兄さん、それに後続の参加者たちもぞくぞくと追いついてきた。
「来たねー」
「ああ、来たぞ」
ウィル兄のいつも通りの声かけに、父さんもこくりと頷きながら答えた。
「その改造されているという部屋までは…もう近いのか?」
ファーガス兄さんの質問に、俺とウィル兄は近いなと二人で声を揃えた。
「ここまでの部屋も一応全部なかを調べてはくれてるけど、魔物しかいなかったってー」
いつの間にそんな事を?と視線を向ければ、ウィル兄はいつの間にかノート型の魔道具を覗き込んでいた。片方に書き込めばもう片方にも同じ内容が記載されるという、あの情報伝達用の魔道具だ。
「ちなみに注意してとは言っておいたけど、まだポズナーラは一匹も見つかってないよー」
「やっぱりその時に、一時的にばら撒いていただけなのか…その方が助かるんだが…」
納得顔でうんうんと頷いているファーガス兄さんよりも、俺達の会話を聞いていたリヤンの顔が強張っていることの方が気になるな。表情は妙に迫力のある真顔になっているし、ピリッと張り詰めたような空気が漂っている。
まあギルドに所属する冒険者がポズナーラのせいで命を落としかけたと聞けば、冒険者ギルドのギルマスであるリヤンが怒るのも当然か。
よくもダンジョン内にそんなものを撒いてくれたなとそう思っているんだろう真顔のままのリヤンの肩を、ルピカとエーリカは落ち着けと言いたげに軽く叩いた。
「ギルマス、ちょっと顔が怖いわよ」
「仕返しするなら手伝うから、もう少し落ち着いてくれ」
「そうそう、俺達だってポズナーラを撒いたやつらを、許すつもりなんかねぇからな」
口々にそう声をかける冒険者たちのおかげで、リヤンは少しだけ落ち着いてきたようにみえる。よし、リヤンの事は彼らにまかせておこう。
「そろそろ見えてくると思う」
俺がそう声に出せば、ウィル兄も続けた。
「そこの先の右側だよー」
「あそこか…」
ルピカとエーリカは、自分たちのパーティーが保管している地図をさっと取り出した。すぐに99階層を開いて、俺達にも見えるようにと広げてくれる。
「私たちも見せてもらって良いのか?」
「ええ、もちろんです」
「どうぞご覧ください」
律儀に確認した父さんに、エーリカもルピカも笑顔で頷いている。
今の質問は完全に無意識だったと思うんだが、今の一言で冒険者にとっての地図の重要性をきちんと理解している事が伝わったな。それに、冒険者をきちんと尊重してる事もきっと伝わっただろう。
嬉しそうな冒険者たちに見守られながら、俺達は地図を覗き込んだ。
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