生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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2.鬼ネズミ(仮)と断末魔

 なんだって俺はこんな森の中で、缶入りのコーンポタージュ片手に立ち尽くしているんだろう。

 バイト先を出たのは、俺の体感ではついさっきだ。冷え切った手をこすりながら、帰り道を歩いていた。

 コートや手袋にはまだ早いかと思っていたが、朝晩の冷え込みにはもう耐えられそうに無い。そろそろ用意しとかないと、夜道を歩くだけで風邪を引きそうだ。薄手のマフラーをぐるぐると首に巻き付けてはみたが、それでもまだ寒い。

 寒さに耐えかねて、帰宅途中で自販機に立ち寄った。

 自宅まではあと5分とかからない距離だけど、こういう時の温かい飲み物代は出し惜しんだら駄目だ。かじかむ手で何とか硬貨を投入して、悩みに悩んでからコーンポタージュを買った。冷えた手には火傷しそうなほど熱く感じる缶をしゃがんで取り出し、急に吹いた突風に目を閉じた…はずだ。

 そうして今目の前にあるのは、昼の明るさにも関わらずどことなく不気味な森だ。

 しかもこの森、どうもおかしい。

 まず見える範囲にあった手のひらほどの大きさの木の実が、蛍光ピンクだ。こんな木の実見たことも無い。いや待て、俺が知らないだけで世界のどこかにはあるんじゃないか、蛍光ピンクの木の実。

 視線を転じれば今度は紫と黒のマーブル模様の果物がぶら下がっている。これももしかしたら俺が知らないだけかもな。食べてみたら意外に美味しかったりして。

 目線だけをうろうろと彷徨わせながら立ち尽くしていると、ガサガサと茂みが揺れた。身構える俺の前に現れたのは、鬼のような二本の角を額に生やした、スイカ大の大きさのネズミだった。こ、これは突然変異のネズミかもしれないよな、うん。

 見た目からは想像できないほど身軽なネズミは、するすると木によじ登って行くと、蛍光ピンクの木の実をもぎ取った。

「あ、それ食べるのか?」

 そのまま木の枝に座り込んだ鬼ネズミ(仮)に思わず声を掛ける。

「ギャァァアァァァァァァァァァァ!!!!!」
「ひっ」

 おもむろに鬼ネズミ(仮)が木の実を齧った瞬間、木の実から断末魔の叫びが上がった。突然の奇声にびっくりして思わず漏れた声に鬼ネズミ(仮)はこちらをちらりと見たが、そのまま木の実をかじり続ける。滴り落ちる赤い果汁が、更に恐怖心を煽ってくる。

 ちょっと待ってくれ。叫ぶ木の実はきっと、地球上どこにいっても無いだろう。もしあったら、日本の男子大学生でも知っているくらいには有名だろう。

 そう思うと、むりやり続けていた現実逃避もできなくなった。

 そもそも夜から昼になっただけでもありえない事だって分かってはいるけど、ちょっとぐらい現実逃避させてくれよ。

「異世界転生…あ、転生は生まれ変わりだから、異世界転移かな?」

 トラックにぶつかってもいなければ、魔法陣も踏んでないし、空間の裂け目に吸い込まれてもいないけど、これは異世界転移だろう。思わず漏れた言葉にもちろん返事は返ってこない。視線の先にいた食事を終えた鬼ネズミ(仮)は、心なしか呆れた顔をしてから、ガサガサと茂みに消えていった。

 しばらくは呆然と立ち尽くしていたけど、ここにいてもどうしようも無い。元の世界に帰る方法を探すにしても、この世界を満喫するにしても、まずは生き抜くのが第一目標だ。とりあえずの目標が決まれば、頭の中も落ち着いてくる。こちとら肝だけは座ってるんだ。

 とりあえず一番大事なのは水の確保だろう。あとはこの世界について知らないと駄目だ。人がいる町に出られたら、俺にできることを見つけて何とか金を稼ぎたい。

 最終目標は元の世界に戻る事だけど、これは落ち着いてから考えよう。

「それにしても…暑いな」

 思わず出た自分の言葉に笑いながら、ぐるぐる巻きだったマフラーを外す。さっきまで凍えてたのにな。この世界は今は夏みたいだ。冬の気候からいきなり夏になったから、とにかく暑くて仕方がない。

 マフラーを取って厚手のニットを脱げば、だいぶ涼しくなった。

 ちゃんとニットの下に重ね着用の白シャツを着ていた自分を、誉めてやりたい。えらいぞ、今朝の自分。袖を捲りたい所だけど、これから森の中を行くなら、暑くても長袖の方が腕を守れるだろう。ぐっと我慢して、首元のボタンをいくつかあける。脱いだ服はむりやりリュックの中に押し込んだ。

 コーンポタージュよりも、水を買えばよかったな。とはいえ、異世界に飛ばされるなんて想像もしてなかったんだから仕方ない。今は飲む気の無くなったまだ温かいコーンポタージュもリュックに放り込んだ。

「よし、行くか」

 気合を入れなおしてリュックを背負うと、俺は勘に頼って適当に歩き出した。 
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