生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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4.第一異世界幽霊のありがたいお話

 男の話によれば、ここはマールクロア王国のすみっこ、国境に接したトライプール領だそうだ。国境とは言っても隣国は同盟国ばかりで、今のところこの周辺に戦争の気配は無いようだ。ずっと小競り合いしてる国もあるらしいから、転移先がこの国で助かったかもしれない。

 トライプール領は王国の中では比較的魔物が多い土地ではあるが、その資源を活かそうとする王家の意向もあり、衛兵団と騎士団の育成や冒険者の招致が徹底されているので、街中の治安は良いんだって。

 うん、これもちょっとだけ安心だな。

 あ、あとさっきの言い方でうっすら分かってはいたけど、やっぱりこっちの世界にも幽霊が見える人はあまりいないみたいだ。異世界の人はみんな幽霊が見えるのかって聞かれたから、俺も見える人は父以外知らないって答えといた。

「あと知っておくべきなのは異世界人の扱い、だね」
「はい、やっぱり珍しいんですか?」
「珍しいけど全くいないってわけじゃないよ。知り合いにもいたしね」
「へーそうなんですか」
「そうだな…知識を求める者に大事に守られて保護されるか、隠し通して自由に生きているかのどちらかだね」
「絶対!隠し通します!!」

 思わず力いっぱい断言したら笑われてしまった。だって利用されるのは嫌だ。

「他に何か聞きたい事はあるかな?」
「あの、俺身分証無いんですよね、あと金もこっちのはなくて」
「ああ、さっき話しに出てた冒険者に登録をするのがおすすめかな」
「冒険者登録?」
「冒険者ギルドという組合があってね。魔物の退治とか解体、素材の調達なんかもあれば、採取やちょっとした仕事のお手伝いなんてのもあるよ」
「それは…身分証無くても大丈夫なんですか?」
「うん、大丈夫だよ。犯罪歴がなければ登録はできる」

 戸籍に載ってないのに?と思わず念を押したら、逆に戸籍の説明をさせられた。

 この世界は生まれた子どものうち、何人が大人になれるか分からないからと、生まれてすぐには戸籍を作らないそうだ。この世界のどこにいても、魔物の脅威は常にある。薬草類や回復薬なんかは普通に販売されてるけど、かつては存在していた治癒魔法も、今は物語の中に出てくるだけなんだって。生きて大人になるのが難しい世界なんだな。

 戸籍が無いなら税金はどうなるのって興味本位で聞いてみたら、住んでる所に税がかかるみたい。宿は免除だけど、賃貸にしろ持ち家にしろ、定住したら税をとられる。

 あとは仕事の給料から自動的に差し引かれる分もあるそうだ。冒険者はランクによって年に一度ギルドで支払う事になるけど、その辺は冒険者ギルドに登録した時に希望すれば教えてくれるらしい。希望すればっていうのが面白いよな。難しい事は分からんって丸投げしちゃう脳筋の人も結構いるんだって。

 もっと詳しい説明もしてくれようとしたんだけど、とりあえずそれだけ分かれば良いからとお断りした。どうせそんなに一度に覚えられないだろうし。

「いっぱい説明させてすみません、ありがとうございました」
「どういたしまして」

 正直ここまで丁寧に教えてくれる人は、そうはいないだろう。良い人――あ、違った。良い幽霊に出会えてよかったな。

「それでその、街までの道って教えてもらえます?」
「もちろん教えるけど、俺もついていっても良いかな?」
「あれ?移動できるんですか?」
「うん。あの花、リスリーロが欲しくて来てみたんだけど、やっぱり持てないから諦めて帰るとこなんだ」
「あ、さっき見てたあの花ですか?リスリーロって言うんだ…じゃあ俺が持って行きますよ」
「そうか、君なら持てる!ありがとう!」

 せめて何かお返しがしたかったからちょうど良いと立候補すれば、男は満面の笑みを浮かべてみせた。

 さっきまでの笑顔より、更に数段はまぶしい笑顔だ。映画俳優ばりのイケメンの笑顔って、すごい破壊力だ。目がちかちかする。とりあえずどこに届ければ良いのかを聞いてみると、イケメンはうーんと悩みだした。

「これも普通にギルドに納品してくれたら良いんだけど…あ…」
「どうしました?」
「大事な事を聞き忘れていたんだ!」
「大事な事?」
「名前だよ!」

 そういえばまだお互いに名乗ってすらいなかった。俺たちは顔を見合わせてから、思わずぶはっと噴き出した。

「こ、こんなにっ…たくさん話したのにっ!」
「お互いにうっかりしすぎだったね!」
「あ、俺は暁人です」
「アキ?」
「あきとです」
「アキト!」
「そう、アキトです。あなたの名前は?」
「俺はハロルド。みんなにはハルって呼ばれてた」
「俺もハルって呼んでも良いですか?」
「もちろん!あと、敬語はなしの方が良いな」

 困ったように眉を下げつつおねだりされたら、拒否もできないよね。俺はにっこりと笑って応じる。

「分かった、街までよろしくね、ハル」
「ああ、こちらこそよろしく、アキト!」

 こうして俺は、一緒に森を歩いてくれる同行者をゲットしたのだった。
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