生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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29.ギルドマスター

「ギルドマスター、本日冒険者登録をしたアキトさんです」

 部屋のど真ん中にある大きな椅子に座っていたのは、これまた大きな体の筋肉質な男性だった。宿のレーブンさんとどっちが大きいだろうと悩んでしまうぐらいのマッチョだ。頬に傷まであって、見た目だけで言ったら、レーブンさんよりも怖いかもしれない。

 しかもその顔が、何故か満面の笑みなのが、余計に恐怖心を煽ってくる。

「お前がアキトか、俺はここのギルマスをやってるフェリクスだ、よろしくな」
「ア、アキトです。よろしくお願いします」

 俺には珍しくどもってしまった。満面の笑みの意味が分からなさすぎて、正直に言って怖すぎるんだよ。

 促されるままソファに移動して腰を下ろすと、ギルマスも俺の向かいに座った。メロウさんはギルマスの後ろに立ち、俺の隣にはハルが立っている。

「で、持ってきたもん、見せてくれるか?」
「これです」

 鞄から取り出したリスリーロの花は、メロウさんが丁寧に受け取ってくれて、ギルマスの前にそっと置いた。

「鑑定済みですので間違いありません。本物です」

 ギルマスはメロウさんの説明を聞くと、俺に向き直った。

「お前なんでこれの事知ってたんだ?」

 直球の質問を投げてくる顔は、相変わらずの笑顔だ。

「アキト、森で迷った時に出会った冒険者に聞かれたんだって言って」
「森で迷った時に出会った冒険者に聞かれたんです」
「聞かれた?」
「こんな花を見なかったかって聞かれたって」
「こんな花を見なかったかって」
「なるほど、情報収集で聞かれたのか」

 さすがハル。とりあえずギルマスもメロウさんも、この説明に納得してくれたみたいだ。ギルマスはようやく笑顔じゃなくなったから、おかげで怖さも減った。

「そいつの名前は分かるか?」
「名前は聞いてないって言って」
「名前は聞いてないんですけど…」
「特徴は?」

 ギルマスからどんどん投げられる質問に、一人だったら間違いなく対処しきれなくなって黙り込んでいたと思う。でも頼れるハルは、その質問を予想していたらしい。

「よし!俺よりも背が拳3つ分くらい高くて」
「俺よりも背が拳3つ分ぐらい高くて」
「黒髪に髭の」
「黒髪に髭の…」
「ああ、なるほどケビンか!」

 名前が出てきたけど、誰の事だろう。

「大きな剣を背中に背負ってましたって言って」
「大きな剣を背中に背負ってました」
「うん、間違いなくケビンだな」

 納得した様子でギルマスとメロウさんは頷きあっている。

「特徴と名前だけを聞いていて、使い道も分からないけどせっかく見つけたので」
「特徴と名前だけは聞いていて、使い道も分からないですけどせっかく見つけたので持ってきたんです」

 ハルの考えた説明は説得力抜群だったらしい。お礼を言いたいけどここでは言えないしと我慢していると、ハルからはうまく説明出来ていたと誉められてしまった。照れちゃうからやめてくれ。

「なるほど」
「では、これは買い取りさせて頂いて良いですね?」
「はい」

 これでハルが消えちゃったら嫌だけど、だからって俺のわがままでやっぱり売らないなんて言えないもんな。

「では、リスリーロの花を1つ。確かにお預かりしますね」

 大切そうに持ち上げられたリスリーロの花は、そのままギルマスの後ろにあった箱の中に収納される。ハルは何も言わずに、ただその様子をじっと見つめていた。

「計算しますので、すこしお待ちくださいね」

 部屋の隅にある机に腰かけたメロウさんは、そのまま書類を作り始めたようだ。

 ギルマスはふうと肩の力を抜いてから、俺に向かって口を開いた。

「すまんな、どこまで情報を知っているか知る必要があったんだ」
「いえ」
「依頼者に許可を得るまでは使い道の詳細は伝えられないんだが、リスリーロの花の納品は間違いなく多くの人の命を救う事になる」

 少し申し訳なさそうな顔をしたギルマスは、そう言うとがばっと頭を下げた。

「アキト、ありがとう」

 詳細をハルが俺に説明しなかった時点で、そうそう簡単に話せる内容じゃないんだろうと分かってはいた。

 それでも詳細は話せないと前置きをした上で、感謝の言葉を伝えてくれたフェリクスさんは、誠実な人なんだと思う。しかも冒険者に成りたての俺に、ギルマスなのに頭まで下げてくれるんだ。

「いえ、頭をあげてください」

 言いながら、ちらりとハルを見る。

 この言葉はハルにこそ相応しい言葉だ。あの花をどうしても欲しいと探し続けていたハルがいなかったら、俺は絶対に綺麗な花だなと見るだけで終わらせていたから。

 ハルは俺の視線の意図に気づいたのか、照れくさそうに笑ってくれたから、俺まで思わず笑ってしまった。

「本当にありがとう。この花については他言無用で頼めるか?」
「はい、わかりました」
「お待たせしました。こちらをご確認下さい」

 手渡されたのは、素材の名前と個数、値段が書かれた紙だった。

・セラームの木の実 5個 5万グル
・依頼 ランク不問 ジジの花びら納品 10枚 2万5000グル
・リスリーロの花 1つ 100万グル

「え?」

 思わず出た声に、メロウさんは笑顔で説明してくれた。

「ああ。ジジの花びらは通常なら1枚1000グル程なんですが、美品であれば1.5倍額買い取り。更に今回は依頼として1枚につき追加報酬1000グルなんですよ」

 丁寧な説明ありがとうございます。そっちじゃないです。

「リ、リスリーロの花…」
「いや、指定依頼の報酬はつけられんから、これでも安いくらいだぞ」

 ギルマスはまた申し訳なさそうな顔をしているし、メロウさんもこれぐらいは当然だと頷いてるから間違いってわけでは無いのかな。

「アキト、届けたのは間違いなくきみなんだから、もらっておくべきだよ」

 ハルは俺の反応に面白そうな顔をしながらも、そう伝えてくる。その反応はさてはこのぐらいの価格だって知ってたな。知ってたなら、ちゃんと高いものだって言ってよ。

 あ、でも、こんなに高いものだって分かってたら、怖すぎて運ぶなんて絶対に申し出られなかったな。あんなに無造作にリュックの中に突っ込んで運んでたのが、100万グルもする花だなんて誰も思わないだろう。

 今までの道中を思い浮かべいた俺は、そこで笑顔のハルに気づいてハッとした。

 ハルが消えてない。それどころか、消えそうな素振りすらない。

 ということは、リスリーロの花がハルの心残りじゃなかったって事だ!嬉しい気持ちがぶわっと湧いてきて、思わず思いっきり叫びたくなった。いや、なんとか我慢して叫ばなかったけど、心の中ではそれはもう大騒ぎだった。

 リスリーロの花の納品が終わっても、ハルはまだ俺と一緒に冒険してくれるのかな。

 もし行きたい場所とか会いたい人がいるなら無理は言えないけど、それでも俺はこれからもハルと一緒にいたい。ちゃんとそれは伝えたいなと考えながら、俺は目の前のすごい額の書類にサラサラと署名した。
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