生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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33.俺だけの図鑑

 初依頼のために朝から訪れたのは、領都からほど近いキニーアの森だった。

 ハルと出会ったナルクアの森とは、かなり様子が違っている。

 この森には毒々しい色の果物や木の実は全く存在していないし、薄暗くて不気味だったナルクアとは違って、差し込む木漏れ日が綺麗だ。これぞ森林浴と言いたくなるような美しい森に、自然と俺の足取りも軽くなる。

 ただひとつだけ残念なのは、ちらちらと人の姿が見えることだ。この綺麗な森をハルと喋りながら歩けたら、もっと楽しいのにな。

「ここはEランク以下には、特におすすめの採取先なんだ。薬草も豊富だし、魔物も少ないからね」

 ハルの説明に、確かに冒険者ばっかりだもんなと心の中だけで返した。一人の人もいれば数人でつるんでいるのもいるみたいだ。

 ちらちらと視線が流れてくるのは、多分見ない顔だと思われてるんだろうな。

 見える範囲でも色んな場所に散らばっている冒険者たちは、真剣な顔で植物と本を見比べているようだった。手にもっているのは、初任務の前に無料で渡される低ランク用の図鑑だ。もちろん俺も貰ったので、背中の鞄の中に一冊入っている。

 ハルからは、この図鑑は本当に基本的な情報だけが載っているものだから、自分でどんどん情報を書き込んだ方が良いって言われたんだ。そうすれば、いずれは自分だけの図鑑になるんだって。自分だけの図鑑ってワクワクするよな。

 持ってるボールペンとかシャーペンは書き込みに使えないから、このためだけに魔道具のペンも買ったよ。思ったよりもお高くてびびったけど、インクの補充をしなくて良いって言われたから買ってしまったんだ。今から使うのが楽しみだ。

「今日の依頼はスリーシャ草の納品と、ポルの実の採取だったよね。ここは入口に近いから、採取され尽くしてると思うし、もう少し奥に行こうか」

 周りに見えない程度に頷いてからハルに従って歩き出すと、腰に下げた剣がカチャリと音を立てた。

 今日の俺は、ばっちり冒険者らしい装いだ。

 腰には剣、背中にはマント、皮の胸あてもつけているし、背負った魔道収納鞄の横には採取用の手袋までぶら下がっている。

 剣だけは自分で選んだけど、他は全部ハルの見立てだ。これだけ格好良くて優しくて、センスまで良いとかちょっとずるいと思う。でもハルのおかげで、我ながらなかなか格好良く決まったと思う。

「アキト、だいぶ離れたし、この近くに人の気配は無いよ」

 ハルの気配察知能力には信頼しかない俺は、その言葉を聞くなり口を開いた。

「今日も案内ありがとう。お疲れ様」

 ハルは相変わらずお疲れ様とかありがとうって言われると照れるんだよな。前も恥ずかしいって言われたけど、感謝はちゃんと伝えたいから止めません。

「スリーシャ草はこの近くにあるから、探してみて」

 そう言われた俺は、まず鞄から本を取り出して開いた。

 スリーシャ草の項目を調べれば、図解された葉の形から、採取時の注意事項までがしっかり丁寧に説明されている。周りを見渡して目星を付けると、植物と本を見比べながら慎重に選んでいく。これは葉の先が丸いから違う。これは根本が赤いから違う。こっちの葉は裏が白いから違う。これは葉の先がギザギザで、根本が黄色、葉の裏は緑色。

「これだ!」
「はい、正解」

 俺が選んだ草をみたハルは、まるで先生みたいに答えてくれた。これはハルと一緒に冒険できる事が決まった日に、俺からお願いしたやり方だ。

「ちゃんと見極めれたね」
「これは簡単だったな」

 自分の知識もちゃんと増やしていきたいから、俺が選んだ依頼の分はできるだけ手出しせずに見守って欲しい。そう伝えた俺に、ハルもその考え方には賛成だって言ってくれた。

 その代わり、ハルは常設買い取りの素材や、おすすめ素材を見つけたら教えてくれる事になったんだ。せっかく一緒にいるんだから、それぐらいは手伝わせてって言われたら断りきれなかった。

「スリーシャ草は、今の時期ならこのまま束ねて納品で良いんだけど、毎年秋に流行る病の特効薬に使う場合は、しっかり乾燥させた方が喜ばれるんだ」

 ハルが教えてくれた豆知識は、図鑑にもしっかり書き込んだ。そのまま近くでスリーシャ草を探してみると、納品に必要な分はすぐに見つかった。
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