生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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38.【ハル視点】通り名を持たせるために

 冒険者ギルドの騒々しさにもそろそろ慣れてきたのか、アキトはすぐに受付に向かって歩き出した。ギルド内には、新人からベテランまでたくさんの冒険者の姿があった。

「あいつ、今日キニーアの森にいたよな」
「ああ、採取もせずに奥にいったやつだろ?」
「あの場所が一番らくに採取できる場所なのになー」
「誰か教えてやればいいのに」

 そう馬鹿にしたように口にしたのは、キニーアの森でじろじろとアキトを見ていた新人冒険者達だ。全員が要注意リスト入りした奴らだ。こいつらに見えないのは分かっているが、苛立ちから思わずじろりと睨みつけてしまった。

「アキトさん、おかえりなさい」

 朗らかに笑っているメロウだが、視線はちらりとさっきの新人冒険者たちの顔を確認していた。これでメロウの要注意リストにも入っただろうな。

「ただいま帰りました、メロウさん」
「お疲れ様でした。さて、今回は何を納品されますか?」

 メロウの反応に、少しだけ気分が落ち着いてきた。アキトはいそいそと採取してきたものを取り出している。

「スリーシャ草が3束。これは品質が良いですね」
「あ、そっちはポルの実なので、気を付けてください」

 きちんと毒があるものだと伝えるアキトの優しさに、メロウが浮かべたのは心からの笑みだ。珍しいものを見たなと思いながら、周りの様子を探った。

「はい、ありがとうございます。ポルの実が8こ、確かに」
「おい、あいつあの短時間でスリーシャ草とポルの実だと?」
「俺たちのスリーシャ草は発育不足って言われたのに…」

 人が納品したものにまで勝手に聞き耳を立てて文句を言うのか。これはきちんと矯正しないと厄介ごとを起こす部類の奴らだな。

「あ、あと…もう一つあるんですけど」
「はい、こちらに出していただいたら」
「えっと、重いんですけど良いですか?」
「え?ええ、ここは頑丈ですから大丈夫ですよ」

 一体何を取り出す気かと戸惑ったメロウの前で、アキトは魔道収納鞄へと手を入れる。取り出し方が分からずに少し悩んでいるようだったので助言をすれば、受付の台の上にどかんと巨大な黒曜キノコが飛び出した。受付ブースを占拠する黒キノコの図は、ちょっと面白い。

「これは……黒曜キノコ…ですね」

 さすがにこれだけ大きければ、離れた所で情報収集していたベテラン冒険者達にも見えるだろうという俺の予想は大当たりだった。

「黒曜キノコだ」
「あいつ新人だろ?見たこと無いよな?」
「何日か前に冒険者登録しに来た奴だ」
「えー新人の森にもあったのかよー!採りにいけば良かったー!」

 純粋に感心した様子のベテラン冒険者達の声に、酒場にいた客もちらほらとこちらを注視し始めている。良い感じにアキトに注目が集まってきていた。

 ギルドマスター室へと連行されたアキトは慌てていたが、俺にとってはこれは想定内だった。黒曜キノコが納品されたとなれば、鍛冶組合の会長ベルガーが絶対に出張ってくるからだ。

 黒曜キノコで作った武器の強度は、鉱石で作ったものにはさすがに敵わない。けれど美しい漆黒の刃に魅入られた者も多く、近年では美術品としての価値まで生まれてきている。

 どうやら、もちこんだ黒曜キノコは、鉱石の鑑定に特化したベルガーの目で見ても文句なしに良質だったようだ。普段なら30万グル程の素材だが、今回は50万グルもの報酬になった。メロウはやはりと言いたげな顔をしていたから、精霊が見える人という疑いは更に深められたみたいだ。

 計画通りに進んで気を緩めていた俺は、黒曜キノコを肩に担いで出て行ったベルガーの姿を呆然と見送るアキトの姿がツボにはまってしまった。笑い続ける俺を、アキトの視線がじろりと睨んだ。

 ギルドから出たアキトは、俺の道案内に初めて逆らった。ギルドの横にある小さな脇道へと入っていく。ここで俺と話すつもりなんだろう。でもアキト、そこのギルドの裏に冒険者が何人かいるみたいだぞ。分かっているけれど、今回は教えるつもりは無い。

 メロウは噂は流さないだろうから、こいつらに広めてもらった方が早い。

 アキトはじとっと上目遣いで俺を睨みつけた。きっと覗いているあいつらには、何もいない虚空を睨んでいるように見えるだろう。

「あのキノコが高くなるって知ってたんだろ?」
「うん、知ってたよ」
「なんで教えてくれなかったんだよ!」
「ごめん」
「う…謝ってほしいわけじゃないんだけど」
「うん、でもごめんね、アキト」

 通り名を持たせる事は、俺が勝手に計画した。申し訳ない気持ちはあるけれど、アキトの身の安全のためには止められない。

「せめてさ、ちゃんと心の準備がしたいって言ってるんだ」
「うん、分かった、これからは出来るだけ気を付けるね」
「うん、そうしてくれたら助かる」

 『出来るだけ』だから毎回そうとは限らないけれど、素直なアキトは俺が分かってくれたと思ったみたいだ。ずるい大人ですまない。

 歩き出したアキトを見送って、すこし耳をすませてみる。

「あいつ何と話してたんだ?」
「虚空を見てたよな」
「なあ、あいつ、もしかして…精霊が見える人…なのか」
「さすがに精霊はないだろう」
「でもさーそもそも低ランクの図鑑には載ってない黒曜キノコを、どうやって知ったんだって話だろー?」
「あれは中ランク以上の図鑑にしか載ってないし、儲かるからってわざわざ低レベルに教える奴はいないもんな」
「まさか…精霊に教えてもらったって事か?」
「もしかして、本当に精霊の加護持ちなのか」

 うん、これで順調に噂は広まってくれそうだ。俺は上機嫌でアキトの後を追った。
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