生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
42 / 1,561

41.危険すぎる幽霊

 今朝も自力で起きられなかった俺は、ハルに目覚まし係をさせてしまった。元々はアラームが鳴る前に起きれるぐらいだったのに、最近気が緩んでるのかな。

 俺はどうせ寝ないんだし、アキトが慣れない冒険で疲れてるからだと思うよなんて、優しくフォローまでさせてしまった。本当に申し訳ない。

 黒鷹亭の朝食は、冒険者のためにかなり早朝から開けてくれているので、依頼を受けに行く前でもちゃんと食べる事ができる。美味しい朝食をいただいた俺は、元気いっぱいでギルドへと向かった。

「好きなのを選んで良いよ」

 ハルにそういわれた俺は、今日の依頼にミーヤの花の納品を選んだ。

 暇つぶしに図鑑を見てた時に、気になっていた花だ。薄暗い洞窟の中にしか咲かない花なんだって。太陽の光が無いのに咲くって全く想像が出来なくて、咲いてるところが見てみたくなったんだ。

「そういえば気になるって言ってたね。じゃあ目的地は洞窟だね」

 ふふと笑ったハルは、ついでに受けるならこれだねと一枚の依頼を指差した。おすすめされたのは、オルン茸というキノコの納品依頼だった。

 二枚分の依頼書を外していると、なんだか視線を感じる気がする。

 何故かさっきから周りの冒険者たちが俺の事をチラチラ見ながら、何か話してるんだよね。精霊とか加護とか聞こえてくるから、異世界人だってバレたわけじゃないと思うんだけど。

 一瞬だけ視線を向けてみると、ハルは何故か満足そうに笑ってるし、一体何なんだろう。ちょっとだけ考えてみたけど、害がないならまあいいかと割り切ることにした。



 ミーヤの花とオルン茸が採れるという洞窟は、前にも訪れたキニーアの森の外れに位置していた。あの巨大黒キノコを採った所よりも、更に奥だった。

「アキト、着いたよ」
「案内ありがと、ハル」

 ではさっそくと、洞窟へと足を踏み入れた。

 中は洞窟と聞いて想像していたような、おどろおどろしい雰囲気では無い。たしかに薄暗いんだけど、壁には光る線が一本ずーっと続いているみたいだ。

「これって何?」

 思わず聞いてみたら、ハルはきちんと説明してくれた。

 これは発光魔法を付与したインクを使って書いたもので、明かりを使わなくても周りの様子が分かるようにと冒険者ギルドが整備した証なんだって。

 逆にこの線が引かれていない大きな洞窟を見つけたら、ギルドに報告すると新しい採取地候補として調査が入るそうだ。有用な採取地だったら、報奨金が貰えるらしいよ。

「もし洞窟内で道が分からなくなったら、これを辿って上っていけば外に出れるからね」
「分かった」

 洞窟の中の通路は、俺とハルが並んで歩くので精一杯くらいの広さだった。緩やかにくだり続けている道には、まだまだ先がありそうだ。

「思ったより深いんだね」
「ああ、初めてくると驚くかもしれないね」

 二人で話しながらゆっくりとくだっていくと、大きめの空間に出た。

 見渡してみるとコケに覆われてる場所や、キノコが生えてる場所、水が湧き出ている場所と見ているだけでもなかなか楽しい。

「ここはこうやって大きな空間を、通路でつないだような形なんだ」
「へーこれはすごいね」
「ミーヤの花もオラン茸も、次の大空洞まで下りたらあるから」
「楽しみだなーミーヤの花ー!」

 光の線を辿りながらゆっくりと通路をくだっていると、突然背筋がぞくりと寒くなった。この感覚はと視線を巡らせれば、目的地でもある大空洞の入口に一体の霊がたたずんでいるのが見えた。

 これだけ距離があっても背筋が寒くなるなんて、一体どれだけの恨みを持っているんだろう。あれは駄目だ。

「あ、あった!」

 近くに転がっていた石を、さもずっと探していたかのように呟いてから、俺は床にしゃがみこんだ。ハルをこのまま進ませないためには、そうするのが一番だと思ったからだ。ああいう奴は自分を認識していると分かると執着してくるから、自然に立ち止まる事が必要だった。

 ハルは怪訝そうな顔をしたまま、俺の方へと近づいてきてくれた。

「アキト?」
「ハル、このまま進んじゃ駄目だ」

 出来る限り声をひそめてそう伝える。ハルもすぐに声をひそめてくれた。

「一体どうしたんだ?」
「あそこにいる奴、これだけ離れていても分かる。気配からして危険すぎる」

 ハルは俺の方に体を向けたまま、器用に視線だけでその霊を確認したようだ。

「そうか…今日の依頼は明日までの期日だったな?」
「うん。両方明日まで」
「採取できる場所は他にもあるから、ここは諦めて帰ろう」
「分かった。ただ、もし動ける幽霊だったら追いかけてくるかもしれないんだ」

 俺が元の世界で追いかけられた厄介な奴らも、今と同じくらい背筋が寒くなった。父も危険な奴に出会った時にはそうなるって言ってたから、これは俺たち見える人の危機回避能力とかなんだろうか。

「そうなったら全力で逃げるから、ハルもちゃんとついてきてね」
「ああ、分かった。気を付けて」

 ハルは心配そうな顔で、俺の耳元にそう囁いた。

「よっし!採取完了!」

 あえて独り言をつぶやいてみる。

 視界の端に見えている男の霊は、こちらを見てはいないみたいだ。もし気づかれても採取が終わったから帰るんだと思ってくれるように、俺はゆっくりと元来た道を戻り始めた。

 あいつに聞かれる可能性があるから、ハルと話すこともできない。背後を気にしながら無言で戻る道は、来た時の何倍も長く感じた。

 ひとつ手前の大空洞まで辿り着くと、ハルは無言のまま指だけでこのまま出口に向かおうと指示をくれた。こくんと頷いた俺は、そのまま光る線を追いかけて狭い通路を上り続けた。

 洞窟から出て明るい太陽の日差しを浴びると、はーっと思わず息が漏れた。

 そっと背後を伺ってみても、どうやら追って来てはいないようだ。追ってこれない種類なのか、それともこちらに気づかなかったのか。それは分からないけれど、逃げられたことだけは確かだ。

「ハル、大丈夫みたい」
「そうだね、アキト、お疲れ様」
「ハルもお疲れ様ー。今日はもう帰ろうか?」
「うん、そうだね」

 俺は喋りながらじっとハルを見つめた。まっすぐに俺を見つめ返してくれたハルには、なんの異常も無さそうだ。あれほどの恨みを持つ霊は、周りの霊の感情にまで影響を及ぼす事がある。

 本当に無事で良かった。しみじみそう思っていると、ハルが恐る恐る口を開いた。

「危険と言っていたが、一体どう危険なんだ?」
「あー…えっとねあれだけ恨みを貯めてると、人じゃなくて霊に影響するんだ」
「霊に?」
「うん。考え方が暗くなったり、憎しみやつらい思い出を思い出したりするんだ」
「じゃあ…俺のために慌ててたのか?」
「だってハルがつらい思いするの嫌だったから」

 素直にそう言うと、ハルはびっくり顔で固まってしまった。何かおかしなこと言ったかな。そう考えていると、ハルは紫の綺麗な瞳を細めてふわりと微笑んだ。イケメンの笑顔の破壊力すごい。

「それにしてもアキトは、いつもあんなのに追いかけられてたのかい?」
「あーまあたまに?」
「そうか…大変な目にあっていたんだな…」

 心なしかいつもよりしょんぼりとしたハルに、俺はにっと笑ってみせる。

「カルツさんの遺品を取る時、俺、木に登ってただろ?」
「ああ、得意というだけあって上手かったな」
「あれはああいうのから逃げるために身につけた技術なんだ」
「そうなのか?」
「友達だった霊たちが、あっちから来てるから、その木なら見つからないとか教えてくれてさー。町中使った追いかけっこだったよ」

 助けてくれる奴だっていたし、ある程度大きくなってからは鬼ごっこと割り切って楽しんでたくらいなんだよな。結局捕まったことは一度しか無かったし、俺の逃げ足もなかなかだと思うんだ。

 そう伝えると、ハルはクスクスと笑いだした。

「アキトらしいな」
「どういう意味だよー」

 軽口を叩きながら歩く森の中は、やっぱり楽しくてあっという間に時間が過ぎていった。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。