生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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47.市場へ行こう!

※前話を飛ばした方向けのあらすじ※

―――――――――――――――――――――――――――――――

 初めての討伐依頼に挑んだアキトは、無事に2件の依頼を達成した。自分の命を狙われているせいか強い罪悪感は感じずに済んだものの、なんとなくもやもやした気分が晴れない。

 ハルは自分が初めて狩りに行ったときは父と一緒だった事、命を奪うのが怖くなって失敗したこと、その日見た夜空を忘れられない事を話してくれた。

 アキトは、ハルの父の「命を奪って何も感じない方が問題がある」という言葉に救われた気分になる。これからも魔物を狩る度にもやもやしたものを抱えるけれど、それで良いんだと思えるようになったアキトは、ハルと一緒に黒鷹亭に帰ることにした。

―――――――――――――――――――――――――――――――

 昨夜は結局、討伐依頼の完了報告と草原ネズミの納品までを済ませ、俺たちはやっと黒鷹亭に戻ってきた。

 明日は冒険者の仕事は休みにしようと言われた俺は、確かに疲れもあるかもしれないとその提案を受け入れた。 

 おかげで朝は、ゆっくり寝させてもらえた。いつも通りハルに起こしてもらった俺は、ぎりぎり間に合った黒鷹亭の美味しい朝食を堪能した。

 朝食も食べ終わり、さて何をするかと考えてみたが、特に何も思い浮かばない。目的地も決めずに散歩するのはこの前もやったし、今日はギルドの酒場でお酒を飲むのも何だか気分じゃない。

 どうしようと食堂で途方にくれていると、レーブンさんがひょこっと食堂に顔を出した。いつも受付からあまり動かないのに、珍しい。何かあったのかなと見つめていると、目が合った。

「アキト、今から宿の買い出しに行くんだが、暇なら一緒に行くか?」
「そういえば市場に行ったことなかったな」

 ハルが思わずといった感じで洩らした言葉に、興味が湧いてきた。市場なんかあったんだ。異世界の市場を見てみたい。俺は即座にレーブンさんの提案に飛びついた。

「こっちだ」
「はい」

 レーブンさんと並んで歩くと、周りの視線が集まってくるのが分かる。屈強な体のせいかと思ったけど、名前とか黒鷹亭って単語がたまに聞こえてくるから、レーブンさん自身が有名人なんだ。

 今日通るのは俺も初めての道だから、きょろきょろと辺りを見回してしまう。レーブンさんは俺の視線があちこちに飛ぶのを見て、歩く速度をゆっくりにしてくれたみたいだ。

「すみません、この道は初めてで」
「いや、いい。冒険者はあまり市場には行かないからな」

 例外は、料理をするのが好きな冒険者ぐらいなんだって。レーブンさんとそんなことを話しながら歩いていると、街中に突然大きな川が現れた。

「わ、川が街の中を通ってるんですか?」

 小走りに川の柵の所まで駆け寄ると、ハルはすぐについてきてくれたけど、レーブンさんは呆れた顔で笑っていた。

「すごい透明!底の石まで見えてる!」
「ここはプール川っていうんだ。アキトがナルクアの森で飲んだ川の水も、ここの支流だよ」

 ハルの補足で思い出したのは、ナルクアの森で最初に飲んだ川の水だ。透明でいてくれてありがとうって感謝しながら飲んだ、あの冷たくておいしい水がここに繋がってたんだ。

「アキト、こっちだ」

 レーブンさんの声に川の水をじっと見ていた顔を上げれば、レーブンさんは橋の入口で待っていた。慌てて駆け寄ると、あたまをぽんぽんされてしまった。良い年なのに、こどもっぽいことしてすみません。

 橋を渡ると、すぐに市場に辿り着いた。ずっと先までずらりと並んでいるのは、色んな種類の露店みたいだ。見える範囲だけでも、果物やパン、魚、肉、野菜、チーズにお菓子まで種類も豊富だった。それぞれの露店には商品が山積みになっていて、TVとかで見た海外の市場っぽくてワクワクする。

「行くか」
「はい」

 買い物に来ている人もすっごく多いんだけど、レーブンさんは身長が高いから見失う心配はなさそうだ。少し安心しながら、俺はレーブンさんの後を追いかけた。



 最初に立ち寄ったのは、色とりどりの野菜が並んだお店だった。バラーブ村で食べたのを思い出すカラフルな野菜たちだ。

「おやじ、来たぞ」
「おや、レーブン…と、なんだ綺麗なの連れて」

 今のって多分俺のことだよな。綺麗って言われたのは、生まれて初めてかもしれない。え、どう反応すれば良いんだと戸惑っていると、レーブンさんは店主を睨みつけた。

「ああ、悪い悪い…おまえさん、名前は?」
「こんな失礼な奴には名乗らなくて良い」
「だから悪かったって!」

 まだレーブンさんが文句を言いそうだったので、慌てて口を挟んだ。

「あの、俺、冒険者のアキトです」
「…………兄ちゃん、良い奴だな!俺は野菜の商人ジタルだ」
「あ、よろしくお願いします」
「よろしくもしなくて良いぞ」

 レーブンさんはまだお怒りです。ちらりと視線を向けてみれば、ハルは苦笑していた。よし、今回はハルは怒ってないみたいだ。

「お詫びにこれやるよ、野菜だけど生でも甘くてうまいぞ」

 そう言って渡されたのは、灰色のジャガイモみたいな野菜だ。この世界の野菜はだいたいカラフルなんだけど、突然のモノクロに驚いてしまった。

「珍しいけど良い物だよ」
「それは本当に上手いから、もらっとけ」

 ハルとレーブンさんがそう言うならと、お礼を言ってから鞄に放り込んだ。

 

 レーブンさんは顔なじみも多いみたいで、市場を歩いているだけでも店主とお客さんを問わずどんどん声をかけられる。しかも、そのどの店でも驚くほどの量を購入している。買い出し用の魔道収納鞄を使っているからと、荷物持ちはさせてもらえないんだけど、見ているだけでも楽しくなってくる買いっぷりだ。

「アキト、ここに座れ。休憩しよう」

 そう言ってくれたレーブンさんの言葉に、近くにあったベンチにいそいそと腰を下ろす。実を言うとちょっと疲れてきてたんだよね。こんなにたくさんの人をこの世界で見たのは初めてだったから、きっと人ごみに酔ったんだと思う。レーブンさんが収納鞄から取り出したのは、綺麗な赤色のジュースだった。渡してくれたそれを礼を言って受け取った。

「折角来たけど、こんなのみてもつまらなくはないか?」
「いえ、初めてみるものが多くて、すごく楽しいです!」
「そうか」

 レーブンさんは珍しく、少し柔らかく笑ってくれた。促されて口をつけたジュースは爽やかな果実の風味にちょっと酸味もあって、疲れた体にぴったりだと思った。

「……昨日、初めての討伐依頼だったんだろう?」
「え、なんで分かったんですか?」

 レーブンさんはハルから聞けないんだから、知ってる筈が無いのに。

「あれだけ緊張した様子で準備してて、帰ってきた時の顔をみれば分かる」
「暗い顔してましたか?」
「暗いというか…そうだな…覚悟を決めた顔だな」

 そんな風に言ってもらえるとは思わなかった俺は、レーブンさんをじっと見上げた。

「初討伐依頼ってのは大なり小なり記憶に残るもんだ」
「はい」
「それを忘れないのが良い冒険者だと、俺は思う」
「…はい」
「もし困ったり悩んだら、いつでも俺を頼れよ、分かったな」

 今日ここに誘ってくれたのは、この言葉を伝えるためだったのかもしれない。

 本当に、俺は周りの人に恵まれている。涙が滲んできそうな目をぱちぱちと瞬きしてごまかして、俺はレーブンさんに心からの感謝を伝えた。
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