生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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48.美味しい食材を求めて

 珍しく依頼は何も受けずに、今日はハルとふたりでキニーアの森に来ている。

 綺麗な木漏れ日を堪能しながら、冒険者の中を抜けてのんびりと奥へと向かう。今日も周りからはバシバシ視線が飛んできているから、まだハルと話すことはできない。それでも、あの洞窟とは違う方向へ何も言わなくても進んでくれるハルは、やっぱり頼れる男だ。

 今日の目的は、レーブンさんが喜ぶような美味しい食材を見つけることだ。

 普段からお世話になっているレーブンさんに、昨日は市場にまで連れていってもらった。その上温かい言葉までかけてもらったから、せめて何かお返ししたいと思ったんだ。でも、お金をかけて何かを買って渡しても、レーブンさんは気にすると思うってハルから止められた。

「あ、でも自分の手で採取した物なら、喜んで受け取ってくれると思うよ」

 ハルの提案に、以前差し入れしたオルン茸を思い出した。確かにあの時も、すっごく喜んでくれたもんな。今日は依頼を受けていないから、ひたすらに美味しいものを探すことになる。そう思うとワクワクしてきた。

「よし、近くに人の気配はないよ」
「ありがとう、ハル」
「どういたしまして」

 近くにあった切り株に座り込んだ俺は、いそいそと図鑑を取り出した。ぱらぱらとページをめくれば、ハルも一緒になって覗き込んでくる。

「何が良いかな?」
「今の時期だと…これとかこれはどうかな」

 ハルが指差したのは、ルル草という緑の植物のページと、ネムシュという果物のページだった。

 ルル草はハート形の葉をした植物で、料理に香りづけをするために使うものみたいだ。つまりスパイスみたいなものかな。爽やかな香りがして、特にお肉や魚料理によく合うらしい。レーブンさんならばっちり使いこなしてくれそうだ。

 ネムシュは綺麗な薄紫の果物で、皮を剥くと硬い黄色の実がつまっているらしい。なんとこの実はそのままでは食べられず、炒め物などに使われるらしい。果物なのに野菜なのか、野菜なのに果物なのか。よく分からないけど、シャキシャキして美味しいんだと言われたら、探すしかない。

「じゃあとりあえずそれを目指して探しつつ、他にも気になるものがあったら採っていこうかな?」
「うん、良いと思うよ」

 周囲を丁寧に調べていくと、先に見つかったのはネムシュの方だった。綺麗な薄紫の皮は、緑が多い森の中だと意外に目立つみたいだ。

「ハル、これって何個ぐらいなら喜んでくれると思う?」
「そうだねー10個までかな」

 きっと数が多かったら、もったいないから納品してこいって言われると思うんだよね。俺はハルの言葉に従ってきっちり10個のネムシュをもぎ取ると、鞄の中にしまい込んだ。

 さて、次はルル草だと植物の多い場所へと近づくと、図鑑を片手にハート型の葉を探しだす。

 これが今度はなかなか見つからない。何度も何度も移動しながら探していると、不意に爽やかな香りがした気がして俺は足を止めた。

「あ、これ!」

 香りに惹かれるように目を向けた場所に、ハート型の葉のルル草がいくつか並んで生えていた。

「アキト、すごいね」
「俺もびっくりした!」

 ハルは見つけにくいのにと素直に誉めてくれているけど、香りで辿り着いたとなんか恥ずかしくて言えないよな。俺は曖昧に頷いてごまかした。

「目標は達成しちゃったけど、もう少しだけ探索しようかな?」
「うん、良いと思うよ」

 ハルと一緒に喋りながら歩いていると、一際大きな木がちらりと見えた。樹齢何百年だろうと考えてしまう程の立派な大木に、興味が湧いてきた。

「あの木、おっきいね」
「あれはこの森の中でもかなりの大木だな。見に行こうか?」
「うん、近くで見てみたい」

 今日は依頼を受けてないから、こういう急なルート変更もできるんだよな。もし依頼を受けていたら、急いで帰っているぐらいの時間だし。俺たちは大木を目指して、ゆっくりと歩き出した。

 どっしりと地面に根を下ろした大木は、周りの木々を従えて立っているようにさえ見えた。間近で見ると、その不思議な存在感に圧倒されてしまう。

「はーすっごいなー」
「本当にすごいね…何百年も前からここにあるんだろうね」
「うん」

 返す言葉も思いつかなくて、俺はただ迫力のある大木を見上げた。この景色を見られて良かったなと満足するまで眺めてから、俺はハルの方を振り返った。そして、振り返ったことを後悔した。
 
 ハルの後ろの木の根元にね、なんだか見覚えのある黒いキノコが見えた気がするんだよね。いや、きっと気のせいだよな。そんなレアな黒キノコがぽんぽん採れる筈が無いし。

 目をそらしながら現実逃避する俺をじっとみていたハルが、ぶはっと思いっきり噴き出した。

「黒曜キノコを見つけてこんな顔するの、きっとアキトだけだと思うよ」

 あははと楽し気に笑い出したハルに、俺は観念して答える。

「やっぱりハルにも見えてるんだ、あれ」
「うん、ばっちり見えてるよ。で、どうする?」

 確かにちょっと現実逃避はしてしまったけど、冒険者たるものレアな素材を見つけたら採取するしかないよな。

「採るよ」
「あれ、採らないと思ってたよ」
「冒険者なら珍しい素材は持ち帰るもんだろ」

 そう言えば、ハルは笑って頷いてくれた。

「あ、でも!今回は受付で出さずに、メロウさんにこっそり納品するからな!」
「ああ、それで良いと思うよ」

 ハルはあっさりと俺の言葉を受け入れてくれた。



 夕方にはギルドに辿り着けたから、メロウさんにこっそりと話を通したんだけど、やっぱり俺たちはギルマス室へと連れて行かれた。すぐに駆け付けた鍛冶組合会長のベルガーさんは、鑑定を終わらせると、また嬉しそうに肩に黒キノコをかついで帰っていった。

 当然、周りの冒険者の視線は黒曜キノコへと釘付けになるよね。そこに俺がメロウさんに付き添われて戻っていくよね。

 つまりバレバレでした。

 またお前かって顔で見られるし、精霊がどうとか周りが騒がしいしで、何だか大変だったよ。ハル?ずっと楽しそうに笑ってたよ。
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