生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
52 / 1,561

51.理論なんて知らなくても

 授業は、理論の説明から始まった。魔法の成り立ち、魔力とは何かなどといった説明が次々と出てくる。駆け足で進んでいく興味深い内容をまじめに聞いていた俺に、ドロシーさんは悪戯っぽく笑ってみせた。

「と、普通の授業なら、こんな感じなの」
「普通の授業」
「ええ、でもね、理論なんて知らなくても魔法は使えるものなのよ」
「ドロシーさん、そのやり方は難易度が上がるから良くないと、以前にもお伝えしましたよね?」

 教室の隅で書類をめくっていたメロウさんから、鋭い注意が飛んでくる。

「でも、このやり方がアキトには合うかもしれないでしょう?」
「それはまあ確かに」
「もし駄目なら、ちゃんと授業方式に戻すわよ」

 そう言い切ったドロシーさんに、メロウさんはしぶしぶといった感じで引き下がった。

「アキト、浄化魔法は使える話をしてみたら?」
「あの、俺…浄化魔法は使えるんです」
「あら、そうなの?」
「そうなんですか?」
「じゃあ、これに使ってみて」

 ドロシーさんがポケットから取り出したのは、土汚れのついたハンカチだった。視線が集中するなか、俺は魔力を練り始める。洗濯機を思い描きながら浄化すれば、すぐに綺麗なハンカチに戻った。

「まあ、綺麗におちたわね」
「それよりも、今無詠唱でしたよね?」
「この授業をお願いした理由が、これなんです」

 他の人が使った魔法を見て、自分の魔法はおかしいと思った事を伝えると、二人は安心させるように優しく笑ってくれた。

「きっとアキトには魔法の才能があるのよ」
「私の鑑定魔法も、最初からずっと無詠唱ですよ」
「その浄化魔法は、どこで教わったの?」

 カルツさんに教わったんだけれど、幽霊に教えてもらいましたとは言えないよな。さてどうしようと考えていると、すぐにハルが答えをくれた。

「商人の自慢げな声が聞こえたとでも言えば良いよ」
「領都を目指してる時に、一番重宝する魔法は浄化魔法だって商人さんが自慢してたのを聞いたんです」
「たしかに浄化魔法は役に立つわね」
「それでやってみたら、できてしまって」

 メロウさんは驚いているみたいだけど、ドロシーさんはうんうんと頷いていた。

「分かるわー!私もね、畑に水やりしてた祖父の水魔法を真似したのが、最初の魔法だったわ」
「え、ドロシーさんも?」
「ええ!真似をしようとしてできるようになるのは、才能があればそう珍しいことじゃないわよ!」

 断言してくれるドロシーさんの隣で、ハルもこくこくと頷いていた。良かった、これが原因で異世界人バレすることは無さそうだ。

「でもそれなら、本当に私のやり方で良さそうよね。メロウ、訓練場ひとつ借りれるかしら?」
「ええ、今の時間なら空きがあります」
「じゃあ、いきましょ!」

 

 メロウさんが案内してくれた訓練場はバスケットコート程の広さで、壁際には的がいくつも並んでいた。魔法をいくら放っても破壊できないように結界が張られているらしく、その点は心配しなくて大丈夫だと最初に教えてくれた。やっぱりメロウさんは、できる人だな。

 俺がメロウさんの説明を聞き終わると、ドロシーさんは笑顔でこちらを振り返った。

「魔法には四大属性というものがあるわ、見てて」

 そういうなり、ドロシーさんの前に手のひらほどの大きさの火の玉が浮かび上がった。そのまま前方に置いてある的に向かって素早く飛んでいき、的の中心にぶつかってから消えた。

「これが火魔法よ。さあ、やってみて」

 ドロシーさんの無茶ぶりとも言える言葉に、メロウさんはもの言いたげだったけど、ハルは隣で楽しそうに笑っていた。

「大丈夫、アキトならきっとできるよ」

 そこまで言われたら、良い所見せたくなるよな。ふんと気合を入れてから、俺は的に向き直った。

 火魔法は、ライターの火を想像したらすぐに火が付いた。これを大きくするために、何が必要かなと考えてみる。BBQで使う着火剤とかどうかな。丸い着火剤に火が付くイメージだ。

 思った通りの火の玉ができたので、今度はそれを的に向けて投げるところを想像してみる。火の玉は的にかすって背後の壁にぶつかって消えた。当たらなかったけど、もう1回やるべきなのかなと振り返ってみる。

「ふふ…思った通りね!次行くわよ!」

 魔法は出せたから、とりあえず次にいくみたいだ。宣言したドロシーさんの前に、今度はつむじ風のような風の塊が現れそのまま的めがけて飛んでいった。的の中心をしっかり捕らえてから消えていく。

「これが風魔法ね」

 やってみてと言われた俺は、自分の前の的を見つめて立ち尽くす。火とか水、土ならまだ想像はできるけど、風って何となく想像しにくいんだよな。風、風…扇風機で良いかな。超強力な扇風機の風が集まってるイメージ。

 できあがった風の玉は、ドロシーさんのものとは全く違っていた。ドロシーさんのが切り裂くつむじ風なら、俺のはただの風の塊って感じだ。それでも、とりあえず風で玉はできたからと投げてみる。風だからかものすごいスピードで飛んでいったけど、的の後ろの壁に派手にぶつかって消えていった。

 良いわねと言ってくれたドロシーさんの前に、続いて浮かび上がったのは手のひらほどの大きさの水の玉だ。素早く飛んでいったその水の玉は、これも的の中心を寸分たがわずに捉えていた。

「これは水魔法」

 的に向かって立ちながら、最初に浮かんだ疑問は水魔法の水って飲めるのかな?だった。もし飲めるなら森で迷子になっても、水の確保には困らないよな。今回思い浮かべたのは、お祭りなんかでよくある水の入ったヨーヨーだ。中心ではなかったけど、これはちゃんと的の端っこには当たった。

「アキト、これが最後よ」

 今度は空中に土が浮かび上がり、そのまま先のとがったつぶてのようになった。ドロシーさんの放ったつぶてはすごいスピードで的へと飛んでいき、これもまた中心を貫いた。全部ど真ん中とか、すごすぎる。

「これが土魔法ね」

 土はすぐに浮かび上がってきたけど、それをつぶてのような形にするのが難しい。形を作ろうとすると、パラパラと崩れてしまう。土だと難しいなら、粘土ならどうだろうと考えてみると、すぐに先のとがったつぶてができた。今回はきちんと狙ってから投げてみたけど、的の中心から少しずれた位置に命中した。

「本当にドロシーさんのやり方で、四大属性を使えるなんて…」

 メロウさんは呆然と呟いていたけど、ドロシーさんとハルには褒めちぎられてしまった。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。