生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
61 / 1,561

60.お礼の言葉

 何となくきまずそうなアックスさんと、何故か楽しそうな笑顔のハルと一緒に、ゆっくりと村を目指して歩き出す。じわじわと色を変えていく夕空を眺めながらのんびりと歩いていくと、すぐにバラ―ブ村が見えてきた。

「は?なんだ…これは?」

 村の様子は一変していた。その光景を呆然と見つめているアックスさんの隣に立って、俺もぐるりと視線を巡らせる。

 見渡す限りの村人たちは楽しそうに、でも忙しそうにバタバタと動き回っている。出発する前に見た物悲しい村の様子はまるで夢だったみたいに、今はわいわいと賑やかだ。

 近くの家の中から木製のテーブルを運び出している人や、野菜を抱えて歩いている人、食器を運んでいる人の姿も見える。忙しそうな大人たちの後を追いかける楽しそうなこどもたちの姿まであった。

「あ、帰ってきたー!」
「シーニャ!帰ってきたよー!」

 目ざとくこちらに気づいたこどもの声に、慌てた様子でシーニャさんが駆け寄ってくる。

「おかえり、あんた!アキトも!」
「ただいま、シーニャ」
「ただいまです」
「あんた、怪我は?」
「今日は無傷だ!アキトの魔法がすごくてな!」
「そうなの!?ありがとう、アキト!」
「あ、いえ…」
「心配してたんだよ」

 怪我が無くて良かったと喜ぶシーニャさんと、でれでれしているアックスさんの邪魔をしないようにとそっと離れれば、少し離れた所でベンチに座っていたブラン爺さんが手招きをしてくれた。

「アキト、よく来てくれたね。緊急依頼まで受けてきてくれるとは思わなかったが、本当にありがとう」
「いえ、またお会いできて嬉しいです」
「わしも嬉しいよ」

 嬉しい言葉に、思わず笑顔になってしまう。ブラン爺さんと話していると、まっすぐ近づいてくる人達の姿が目についた。青い髪をした小柄で可愛らしい顔の青年と、長身のがっしりとした強面青年だ。ブラン爺さんに用事なら離れた方が良いかなと考えている間に、二人は目の前に辿り着いた。

「こんばんは」
「あ、こんばんは」

 柔らかい笑みを浮かべて挨拶してくれた小柄な青年は、体の線の分からないゆったりとした服を着ている。隣の強面の青年はぺこりと会釈をしてくれたので、俺も会釈を返した。

「早速来たか」

 ブラン爺さんの言葉に、二人は大きく頷いた。

「アキト、こっちがミウナだ」
「ミウナです。はじめまして」

 小柄な方の青年は、笑顔で名乗ってくれた。ああ、この人が、妊娠中の男性ミウナさんか。ということはと隣の青年に視線を動かすと、ブラン爺さんはすぐに察して紹介してくれた。

「こっちはミウナの伴侶、オーブルだ」
「オーブルだ。よろしく」

 無表情のままではあったけど、強面青年も挨拶をしてくれた。伴侶ってことは、俺にあの服を贈ってくれた人だ。

「アキトです、はじめまして」
「アキトさん、僕、どうしてもお礼を言いたくてっ!以前はジウプの実をありがとうございました!」
「いえ、あの、俺もこの村で買い取って貰えて助かったので」

 対価も受け取ってるからと説明したけれど、ミウナさんはにっこり笑顔を浮かべた。

「でも、支払い前に渡してくれたのは、完全にアキトさんの優しさですよね」

 そう言われると、否定もできない。

「本当にありがとうございました!」
「俺からも感謝する」

 元々ミウナさんもオーブルさんもそこまで魔力が高くないから、二人のこどもも魔力は少ないと思いこんでいた。ミウナさんが急な体調不良で起き上がれなくなって、やっとこどもが高魔力持ちかもと気づいたそうだ。

「あの実があったから、一番危険な時期を無事に超えられました」
「お役に立てて良かったです。あ、そうだ、俺からも。オーブルさんあの服ありがとうございました」

 最近は領都で買った服を着てる事が多いんだけど、オーブルさんにもらったあのチュニックは、今でも一番のお気に入りだ。

「気に入ってくれたなら良かった」
「刺繍も格好良いし、色合いも、着心地も最高です!」

 思わず誉め言葉に気合が入ってしまったけど、オーブルさんもミウナさんも嬉しそうに笑ってくれたから良しとしよう。

「二人ともこれで気が済んだかの?」

 ブラン爺さんの言葉に、二人は大きく頷いた。

「こやつら、お礼を言う前にアキトが村を出たって知って、えらく気にしておったからの」
「別に良かったのに…わざわざありがとうございます」
「アキトさんは、思った通りの人柄ですね」
「え…?」
「この子が産まれたら、抱っこしてあげて欲しいです」
「俺からも頼みたい」

 唐突な申し出に戸惑ってしまう。抱っこして欲しいって何だろうと悩んでいると、静かに俺たちの交流を見守っていたハルがこっそりと教えてくれた。

「赤子のうちに色んな人に抱き上げてもらうと、その人から祝福をもらえるっていう風習があるんだ」

 身内じゃなくても尊敬できる人とか、こういう人になって欲しいって人とかにお願いするんだって。強くなって欲しいからと、衛兵とか騎士に抱っこをお願いする人もいれば、計算が得意になるようにって商人さんに抱っこしてもらう人もいるんだって。抱っこをお願いされるのは光栄な事だから、断る人はほとんどいないし、ハルも何度も抱き上げたことがあるって教えてくれた。

「えーと、俺で良ければ、ぜひ抱っこさせて下さい」
「ありがとうございます!」

 一番気になっていたお礼が言えて良かったと、また後でと言いながら二人は離れていった。

 手を繋いで歩く二人の後ろ姿は、すごく幸せそうだった。本当に同性同士でも結婚できて、こどもまで産めるんだもんな。異世界、すごい。

 そんなことを考えていると、ブラン爺さんはベンチをぽんぽんと叩いて隣に座るようにと促してくる。

「あの、俺手伝いに…」
「魔力を使って討伐をこなしてくれたんじゃ。アキトを働かせたらわしが怒られる。ここでわしの話し相手になっておくれ」

 優しい笑顔でそう言われると、拒否することはできなかった。

 ベンチに並んで座り、のんびりと広場の様子を眺める。

 各家庭から持ち出された木製のテーブルがずらりと並び、そのテーブルにはどんどん料理が並んでいく。広場の中心では大きなかがり火も焚かれはじめて、こどもたちのテンションも上がる一方だ。

 なんだか、村を上げてのお祭りみたいになっている。

「あの…聞いても良いですか?」

 気になる事がひとつだけあった俺は、ブラン爺さんに声をかけた。

「ああ、なんじゃ?」
「討伐完了をどうやって知ったのかなって気になって」
「今回は近かったからの。狩人をやってる目の良い何人かが、村の中から様子を伺ってたんじゃよ」
「ああ、それで!」

 確かにあの距離なら、目の良い人なら見えるかもしれない。

「怪我人もなく拠点は無事に無くなったと報告されたら…これはもう、宴をするしかないじゃろう!」

 ブラン爺さんは悪戯っ子のような笑顔を浮かべている。ハルも面白そうに笑っているし、村人たちもみんな楽しそうで笑顔が溢れている。

 この人たちの笑顔が守れて良かった。俺はしみじみそう思いながら、ブラン爺さんとゆったりと会話を楽しんだ。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。