生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
61 / 1,447

60.お礼の言葉

しおりを挟む
 何となくきまずそうなアックスさんと、何故か楽しそうな笑顔のハルと一緒に、ゆっくりと村を目指して歩き出す。じわじわと色を変えていく夕空を眺めながらのんびりと歩いていくと、すぐにバラ―ブ村が見えてきた。

「は?なんだ…これは?」

 村の様子は一変していた。その光景を呆然と見つめているアックスさんの隣に立って、俺もぐるりと視線を巡らせる。

 見渡す限りの村人たちは楽しそうに、でも忙しそうにバタバタと動き回っている。出発する前に見た物悲しい村の様子はまるで夢だったみたいに、今はわいわいと賑やかだ。

 近くの家の中から木製のテーブルを運び出している人や、野菜を抱えて歩いている人、食器を運んでいる人の姿も見える。忙しそうな大人たちの後を追いかける楽しそうなこどもたちの姿まであった。

「あ、帰ってきたー!」
「シーニャ!帰ってきたよー!」

 目ざとくこちらに気づいたこどもの声に、慌てた様子でシーニャさんが駆け寄ってくる。

「おかえり、あんた!アキトも!」
「ただいま、シーニャ」
「ただいまです」
「あんた、怪我は?」
「今日は無傷だ!アキトの魔法がすごくてな!」
「そうなの!?ありがとう、アキト!」
「あ、いえ…」
「心配してたんだよ」

 怪我が無くて良かったと喜ぶシーニャさんと、でれでれしているアックスさんの邪魔をしないようにとそっと離れれば、少し離れた所でベンチに座っていたブラン爺さんが手招きをしてくれた。

「アキト、よく来てくれたね。緊急依頼まで受けてきてくれるとは思わなかったが、本当にありがとう」
「いえ、またお会いできて嬉しいです」
「わしも嬉しいよ」

 嬉しい言葉に、思わず笑顔になってしまう。ブラン爺さんと話していると、まっすぐ近づいてくる人達の姿が目についた。青い髪をした小柄で可愛らしい顔の青年と、長身のがっしりとした強面青年だ。ブラン爺さんに用事なら離れた方が良いかなと考えている間に、二人は目の前に辿り着いた。

「こんばんは」
「あ、こんばんは」

 柔らかい笑みを浮かべて挨拶してくれた小柄な青年は、体の線の分からないゆったりとした服を着ている。隣の強面の青年はぺこりと会釈をしてくれたので、俺も会釈を返した。

「早速来たか」

 ブラン爺さんの言葉に、二人は大きく頷いた。

「アキト、こっちがミウナだ」
「ミウナです。はじめまして」

 小柄な方の青年は、笑顔で名乗ってくれた。ああ、この人が、妊娠中の男性ミウナさんか。ということはと隣の青年に視線を動かすと、ブラン爺さんはすぐに察して紹介してくれた。

「こっちはミウナの伴侶、オーブルだ」
「オーブルだ。よろしく」

 無表情のままではあったけど、強面青年も挨拶をしてくれた。伴侶ってことは、俺にあの服を贈ってくれた人だ。

「アキトです、はじめまして」
「アキトさん、僕、どうしてもお礼を言いたくてっ!以前はジウプの実をありがとうございました!」
「いえ、あの、俺もこの村で買い取って貰えて助かったので」

 対価も受け取ってるからと説明したけれど、ミウナさんはにっこり笑顔を浮かべた。

「でも、支払い前に渡してくれたのは、完全にアキトさんの優しさですよね」

 そう言われると、否定もできない。

「本当にありがとうございました!」
「俺からも感謝する」

 元々ミウナさんもオーブルさんもそこまで魔力が高くないから、二人のこどもも魔力は少ないと思いこんでいた。ミウナさんが急な体調不良で起き上がれなくなって、やっとこどもが高魔力持ちかもと気づいたそうだ。

「あの実があったから、一番危険な時期を無事に超えられました」
「お役に立てて良かったです。あ、そうだ、俺からも。オーブルさんあの服ありがとうございました」

 最近は領都で買った服を着てる事が多いんだけど、オーブルさんにもらったあのチュニックは、今でも一番のお気に入りだ。

「気に入ってくれたなら良かった」
「刺繍も格好良いし、色合いも、着心地も最高です!」

 思わず誉め言葉に気合が入ってしまったけど、オーブルさんもミウナさんも嬉しそうに笑ってくれたから良しとしよう。

「二人ともこれで気が済んだかの?」

 ブラン爺さんの言葉に、二人は大きく頷いた。

「こやつら、お礼を言う前にアキトが村を出たって知って、えらく気にしておったからの」
「別に良かったのに…わざわざありがとうございます」
「アキトさんは、思った通りの人柄ですね」
「え…?」
「この子が産まれたら、抱っこしてあげて欲しいです」
「俺からも頼みたい」

 唐突な申し出に戸惑ってしまう。抱っこして欲しいって何だろうと悩んでいると、静かに俺たちの交流を見守っていたハルがこっそりと教えてくれた。

「赤子のうちに色んな人に抱き上げてもらうと、その人から祝福をもらえるっていう風習があるんだ」

 身内じゃなくても尊敬できる人とか、こういう人になって欲しいって人とかにお願いするんだって。強くなって欲しいからと、衛兵とか騎士に抱っこをお願いする人もいれば、計算が得意になるようにって商人さんに抱っこしてもらう人もいるんだって。抱っこをお願いされるのは光栄な事だから、断る人はほとんどいないし、ハルも何度も抱き上げたことがあるって教えてくれた。

「えーと、俺で良ければ、ぜひ抱っこさせて下さい」
「ありがとうございます!」

 一番気になっていたお礼が言えて良かったと、また後でと言いながら二人は離れていった。

 手を繋いで歩く二人の後ろ姿は、すごく幸せそうだった。本当に同性同士でも結婚できて、こどもまで産めるんだもんな。異世界、すごい。

 そんなことを考えていると、ブラン爺さんはベンチをぽんぽんと叩いて隣に座るようにと促してくる。

「あの、俺手伝いに…」
「魔力を使って討伐をこなしてくれたんじゃ。アキトを働かせたらわしが怒られる。ここでわしの話し相手になっておくれ」

 優しい笑顔でそう言われると、拒否することはできなかった。

 ベンチに並んで座り、のんびりと広場の様子を眺める。

 各家庭から持ち出された木製のテーブルがずらりと並び、そのテーブルにはどんどん料理が並んでいく。広場の中心では大きなかがり火も焚かれはじめて、こどもたちのテンションも上がる一方だ。

 なんだか、村を上げてのお祭りみたいになっている。

「あの…聞いても良いですか?」

 気になる事がひとつだけあった俺は、ブラン爺さんに声をかけた。

「ああ、なんじゃ?」
「討伐完了をどうやって知ったのかなって気になって」
「今回は近かったからの。狩人をやってる目の良い何人かが、村の中から様子を伺ってたんじゃよ」
「ああ、それで!」

 確かにあの距離なら、目の良い人なら見えるかもしれない。

「怪我人もなく拠点は無事に無くなったと報告されたら…これはもう、宴をするしかないじゃろう!」

 ブラン爺さんは悪戯っ子のような笑顔を浮かべている。ハルも面白そうに笑っているし、村人たちもみんな楽しそうで笑顔が溢れている。

 この人たちの笑顔が守れて良かった。俺はしみじみそう思いながら、ブラン爺さんとゆったりと会話を楽しんだ。
しおりを挟む
感想 375

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...