生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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66.目が覚めて

「…キト」
「んー」
「アキ…起きて」
「んぅー」
「アキト!起きて!!」

 目が覚めて最初に視界に飛び込んできたのは、心配そうなハルのどアップ顔だった。

 金色の長いまつげと、その向こうにちらりと見える紫色の瞳。寝ぼけたままの俺は、驚くよりも先に綺麗だなと見惚れてしまってた。

「アキト、大丈夫?」
「…っ!!!ごめん、今起きた!」

 ぼんやりと見返すだけの俺を心配したハルの声で、ようやくちゃんと目が覚めた。

 ハルは俺に触れられないから、あまりに起きない時は近づいて大きな声で起こしてくれるんだよね。今までも何度もされていた起こし方なのに、今日の俺には破壊力が抜群だ。

「昨日は飲みすぎたみたいだね」
「うん…ごめん」

 結局あの後、どうしたら良いか分からなくなった俺は酒に逃げた。酒豪と言われる人達の所に乱入して、美味しいお酒をいっぱい飲ませてもらった所までは覚えている。

「気持ち悪くは無い?」
「あ、俺二日酔いなったことないから大丈夫」

 そう答えれば、ハルは不思議そうな顔をしてこっちを見つめてきた。何そのきょとん顔、すっごい可愛い。

「ふつかよいって異世界語かな?」
「え、無いの?飲んだ次の日に具合が悪くなることなんだけど…」
「ああ、そういう時は酒に飲まれたって言うね」
「酒に飲まれたか…分かりやすいね」

 言葉を教えてくれるハルのいつも通りの穏やかな声に、少しだけ肩の力が抜けた。

「あのさ…昨日って、俺、自分で戻ってこれたの?」
「いや、アックスにかつがれて運ばれたよ」

 あ、アックスさんに運んでもらったんだ。後でちゃんとお礼と迷惑かけてすみませんって言っておかないと。そう考えていたら、ふと大事な事に気づいてしまった。

「ねえ、ハル。緊急依頼って報告は急いだほうが良いんだっけ?」

 かなりのんきに寝てたけど、早く報告をしないと後続が来るって言ってたようなと聞いてみれば、ハルは笑顔で首を振ってくれた。

「ああ、それなら、村から報告が出てるから大丈夫だ」
「そうなの?」
「ロットがナスル村に戻る前に、トライプールまで足を延ばしてくれる事になってな」
「え、本当は俺がやるべきなのに、ロットさんに押し付けちゃったってこと?」
「いや、違うよ」

 ハルはすぐにきちんと説明してくれた。緊急依頼の場合、依頼主が個人なら冒険者が報告する事もあるけれど、依頼主が村や街などの場合は村や街が報告をするものらしい。本当ならパルン村長が届け出を出すんだけど、どうせ帰るところだからってロットさんが引き受けてくれたそうだ。

「だから、アキトのせいじゃないよ。安心して」
「そうなんだ。良かったぁ」

 安心したら、盛大にお腹が鳴った。いそいそと鞄の中から、昨日の昼ごはんにするつもりだった軽食を取り出す。薄切りの肉と青色の謎野菜をタレに漬け込んでから焼いて、パンに挟んだものだ。ちょっと甘辛くて醤油っぽい風味がするから、最近のお気に入りの軽食だ。

「いただきます」

 手を合わせてからかぶりつけば、やっぱりハルは俺が食事するのを面白そうに見つめていた。食事の度に気を使わなくて良いから助かるけど、本当にハルは食べたいって思わないのかな。

「おいしい?」
「うん、おいしい」

 素直に答えれば、ハルは嬉しそうに笑ってくれた。

「あ、そういえば、気になってたんだけど…ここまでの舟ってずっと下りだったよね?」
「うん、そうだね」
「帰りって…あの川をこいで上るの?」

 もしそうなら大変だなと思って聞いてみたんだけど、帰りは舟を魔道収納鞄にしまって自分の足で戻るんだって。そのために舟は小さ目に作ってあるって聞いて、俺は驚いてしまった。魔道収納鞄って、そんな使い方も出来るんだな。あの川をこいで上るよりは、楽…なのかな。

「それでアキト、今日はどうする?」
「どうって…あ!俺、今日手伝いできてない!」

 泊めてもらった上に、手伝いもせずに寝てたなんて申し訳なさすぎる。

「ああ、今日はアックスとアキトは、もし来ても手伝わせないようにって村長命令が出てたよ」
「え、そうなの?」
「緊急討伐依頼をこなしたんだから、そこは甘えて良いんだよ」

 ハルがそう言うならと頷いてから、俺は何をしようと考える。

「体調も悪くないから、こどもたちに果物差し入れしたいなーって」
「ああ、ナドナの果実、喜んでもらってたね」
「あ、そうだ。あれってまずかった?」

 いまさらだけど一応聞いてみれば、ハルはすぐに首を振ってくれた。ハル的には大丈夫だったみたいで、安心した。昨日は特別な宴だったからだよと釘は刺されたから、普段だったら止められてたのかな。今度からは、ちゃんとハルに聞いてからにしよう。

「じゃあ、ナルクアの森まで行く?」
「うん!行こう!」

 俺はいそいそと冒険者装備を身に着け始めた。



 森に行く前にアックスさんに声をかけておきたかった俺は、ハルの案内でアックスさんの家を目指して歩いていた。村の人達は忙しそうに働いていたけど、みんな手を止めて笑顔で挨拶してくれる。俺もその度に、満面の笑みで挨拶を返した。

「アックスさーん」
「おう、おはよう、アキト!」
「おはようございます」
「お前、意外と酒に強いんだな」
「運んでくれてありがとうございました!ご迷惑おかけしました!」
「俺は酔っ払い運び担当だから、気にすんな」

 楽しそうに笑ってそう言われたけど、そんな担当があるんだ。俺には絶対無理な担当だ。

「アックスさん、俺ちょっと森に入ってこようと思うんです」
「一人で…か?」

 アックスさんは心配そうな顔で、冒険者装備の俺を見つめてくる。

「深いところまでは行かないのでって言って」
「深いところまでは行かないので」
「そうか…うん。まあ、お前の魔法の腕なら大丈夫だな」

 一緒に依頼をこなしたアックスさんにそう言ってもらえると、すごく嬉しい。俺の魔法の腕を認めてくれたって事だもんな。

「朝めしは食ったか?」
「はい、食べました!」
「じゃあ、これは昼に食ってくれ」

 差し出されたのは、シーニャさんが作ってくれたお弁当だった。朝ごはん用に作ったものをアックスさんが預かってくれてたんだって。ありがたくお昼ご飯にさせてもらおう。

「ありがとうございます!」
「いってらっしゃい」
「いってきます!」
「おう、気をつけてな」

 アックスさんに見送られて、俺はハルと一緒にナルクアの森に向けて出発した。
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