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67.ナルクアの森、再び
久しぶりに入ったナルクアの森は、やっぱり異様な雰囲気が漂っていた。
冒険者として色んな森に行ったけど、この森の雰囲気はかなり独特だ。どんよりとしていて木漏れ日もろくに入って来ない森なのに、何故かカラフルな果物や木の実がたくさんなっているのも不気味に見える。
「アキト、行こうか」
かけられた声に視線を向ければ、ハルが俺をじっと見つめていた。正直に言うと、一人だったら絶対に入りたくない場所だけど、隣には頼れるハルがいてくれる。
「うん、よろしくね、ハル」
俺の言葉に、ハルは柔らかく目を細めて笑ってくれた。
ナルクアの森の中を二人で話しながら歩いていると、どうしても出会ったあの日のことを思い出す。
もし水を求めて川に行っていなかったら、俺はハルに出会えなかった。それどころか、生きて森から出られたかどうかもわからない。
あの時はただ親切で優しい幽霊だと思っていたけれど、今ではもうかけがえのない俺の好きな人だ。
あの日の俺に、その王子様系イケメン霊の事を好きになるんだよって言っても、絶対に信じないだろうな。そんなくだらない事を考えながら歩いていると、不意にハルが声を上げた。
「あ、あれは」
「ん?どうしたの?」
「あそこにポルパの実があるんだ。これは常設で買取されてる食材なんだけどね」
そう言ってハルが指差したのは、手のひらサイズの鮮やかな黄色の実だった。
「綺麗な色だけど…これって食べれるの?」
「うん、美味しいよ。ちょっと食べてみる?」
いつも美味しいものを教えてくれるハルだけど、その場で食べてみる?って言われたのは初めてだ。好奇心に負けた俺は、即座に頷いた。
まず初めに水魔法を発動して、水球を目の前に浮かべる。そのまま念入りに手も浄化した。
「準備よし」
「柔らかいから、そっとね」
こんなに硬そうに見えるのに、柔らかいんだ。恐る恐るポルパの実に触れてみると、ふにゃりとした触感が指先から伝わってきた。
「うわっ…柔らかっ!」
注意してもらってなかったら、指が埋まっていたかもしれない。それぐらいの柔らかさだった。そっと小型のナイフで切り取った実は、目の前に浮かぶ水球の中に慎重に入れて丸洗いだ。
「下の方の皮を指でめくって、かじってみて」
「わかった。いただきまーす」
そっと黄色の皮をめくれば、中にあったのは意外にもシンプルな白色の果肉だ。この世界の食べ物は何でもカラフルだと思ってたけど、こんなにシンプルなのもあるんだな。感心しながら口をつけた俺は、その味に大きく目を見開いた。
「生クリーム!」
「なまく…何だって?」
「砂糖まで入った生クリームの味だ!!」
甘いものも大好きな俺が、ケーキの中で一番好きなのはショートケーキだ。こどもの頃から、誕生日にはショートケーキが良いって言い続けてきた俺に、不意打ちで与えらえた生クリーム味の実。それはもう、大興奮するしかない。
「アキト、落ち着いて」
「あ、ごめん…えーと…俺の世界のお菓子であった味なんだ」
正確にいえばお菓子というか、お菓子の一部なんだけど。上手く説明が出来そうにないから、この説明で許して欲しい。
「アキトの好みには合ったみたいだね?」
「うん、すごく好きな味」
「そうだな8つぐらいは納品して、あとはアキトが欲しい分採っていくと良いよ」
鈴なりになっているポルパの実を指差したハルに、俺は考え込んだ。
「ハル…これって、バラーブ村に差し入れしたら、もらってくれると思う?」
「うーん…これは受け取って貰えないだろうね…結構高価だから」
「え…そうなの?」
「普通の果物にした方が気楽に受け取ってくれると思うよ」
ナドナの果実は特別な宴だったから受け取ってくれたけど、あまり高級な果物にこどもたちを慣れさせるのも良くないからと言われてしまった。そうか、そうだよな。頻繁に食べられるものじゃないんだもんな。
「それは後で探すとして…。これは痛みやすいから、枝に繋がってた方を下にした方が長持ちするんだ」
俺はハルに色々教えてもらいながら、いそいそとポルパの実を採取した。
もちろん自分用もしっかり確保した。
これと苺っぽい果物を合わせて柔らかめのパンに挟んだら、フルーツサンドみたいなのができたりしないかな。既にある焼き菓子にこれと果物でケーキみたいなのもできるかもしれないし、パフェみたいなのも作れるかもしれない。
やりたいことがたくさん浮かんできて、俺は鼻歌を歌いながら歩き出した。
気配を探りながら前を歩いてくれていたハルは、見た事のある薬草の前で不意に立ち止まった。
「そろそろ時期かな」
「ん?これってスリーシャ草?前に納品したことあったよね?」
「そうそう、よく覚えてたね」
こういうちょっとしたことでも、はっきりと言葉にして誉めてくれるんだよな。俺はハルの優しい声での誉め言葉に、かなり弱いみたいだ。
熱くなった頬をごまかすために、俺は取り出した図鑑を開いた。下を向いて図鑑を見ていれば、頬の赤さには気づかれないだろうから。
スリーシャ草の項目を見てみれば『毎年秋に流行る病の特効薬に使う場合は、しっかり乾燥させる事』と書き足してあった。
「あ、そろそろ流行り病の薬を作り出す時期ってこと?」
「うん、正解」
「じゃあ乾燥させた方が良いって事だね」
「うん、それも正解」
よくできましたと柔らかく笑ってくれるハルの笑顔を、俺はドキドキしながら見返した。
冒険者として色んな森に行ったけど、この森の雰囲気はかなり独特だ。どんよりとしていて木漏れ日もろくに入って来ない森なのに、何故かカラフルな果物や木の実がたくさんなっているのも不気味に見える。
「アキト、行こうか」
かけられた声に視線を向ければ、ハルが俺をじっと見つめていた。正直に言うと、一人だったら絶対に入りたくない場所だけど、隣には頼れるハルがいてくれる。
「うん、よろしくね、ハル」
俺の言葉に、ハルは柔らかく目を細めて笑ってくれた。
ナルクアの森の中を二人で話しながら歩いていると、どうしても出会ったあの日のことを思い出す。
もし水を求めて川に行っていなかったら、俺はハルに出会えなかった。それどころか、生きて森から出られたかどうかもわからない。
あの時はただ親切で優しい幽霊だと思っていたけれど、今ではもうかけがえのない俺の好きな人だ。
あの日の俺に、その王子様系イケメン霊の事を好きになるんだよって言っても、絶対に信じないだろうな。そんなくだらない事を考えながら歩いていると、不意にハルが声を上げた。
「あ、あれは」
「ん?どうしたの?」
「あそこにポルパの実があるんだ。これは常設で買取されてる食材なんだけどね」
そう言ってハルが指差したのは、手のひらサイズの鮮やかな黄色の実だった。
「綺麗な色だけど…これって食べれるの?」
「うん、美味しいよ。ちょっと食べてみる?」
いつも美味しいものを教えてくれるハルだけど、その場で食べてみる?って言われたのは初めてだ。好奇心に負けた俺は、即座に頷いた。
まず初めに水魔法を発動して、水球を目の前に浮かべる。そのまま念入りに手も浄化した。
「準備よし」
「柔らかいから、そっとね」
こんなに硬そうに見えるのに、柔らかいんだ。恐る恐るポルパの実に触れてみると、ふにゃりとした触感が指先から伝わってきた。
「うわっ…柔らかっ!」
注意してもらってなかったら、指が埋まっていたかもしれない。それぐらいの柔らかさだった。そっと小型のナイフで切り取った実は、目の前に浮かぶ水球の中に慎重に入れて丸洗いだ。
「下の方の皮を指でめくって、かじってみて」
「わかった。いただきまーす」
そっと黄色の皮をめくれば、中にあったのは意外にもシンプルな白色の果肉だ。この世界の食べ物は何でもカラフルだと思ってたけど、こんなにシンプルなのもあるんだな。感心しながら口をつけた俺は、その味に大きく目を見開いた。
「生クリーム!」
「なまく…何だって?」
「砂糖まで入った生クリームの味だ!!」
甘いものも大好きな俺が、ケーキの中で一番好きなのはショートケーキだ。こどもの頃から、誕生日にはショートケーキが良いって言い続けてきた俺に、不意打ちで与えらえた生クリーム味の実。それはもう、大興奮するしかない。
「アキト、落ち着いて」
「あ、ごめん…えーと…俺の世界のお菓子であった味なんだ」
正確にいえばお菓子というか、お菓子の一部なんだけど。上手く説明が出来そうにないから、この説明で許して欲しい。
「アキトの好みには合ったみたいだね?」
「うん、すごく好きな味」
「そうだな8つぐらいは納品して、あとはアキトが欲しい分採っていくと良いよ」
鈴なりになっているポルパの実を指差したハルに、俺は考え込んだ。
「ハル…これって、バラーブ村に差し入れしたら、もらってくれると思う?」
「うーん…これは受け取って貰えないだろうね…結構高価だから」
「え…そうなの?」
「普通の果物にした方が気楽に受け取ってくれると思うよ」
ナドナの果実は特別な宴だったから受け取ってくれたけど、あまり高級な果物にこどもたちを慣れさせるのも良くないからと言われてしまった。そうか、そうだよな。頻繁に食べられるものじゃないんだもんな。
「それは後で探すとして…。これは痛みやすいから、枝に繋がってた方を下にした方が長持ちするんだ」
俺はハルに色々教えてもらいながら、いそいそとポルパの実を採取した。
もちろん自分用もしっかり確保した。
これと苺っぽい果物を合わせて柔らかめのパンに挟んだら、フルーツサンドみたいなのができたりしないかな。既にある焼き菓子にこれと果物でケーキみたいなのもできるかもしれないし、パフェみたいなのも作れるかもしれない。
やりたいことがたくさん浮かんできて、俺は鼻歌を歌いながら歩き出した。
気配を探りながら前を歩いてくれていたハルは、見た事のある薬草の前で不意に立ち止まった。
「そろそろ時期かな」
「ん?これってスリーシャ草?前に納品したことあったよね?」
「そうそう、よく覚えてたね」
こういうちょっとしたことでも、はっきりと言葉にして誉めてくれるんだよな。俺はハルの優しい声での誉め言葉に、かなり弱いみたいだ。
熱くなった頬をごまかすために、俺は取り出した図鑑を開いた。下を向いて図鑑を見ていれば、頬の赤さには気づかれないだろうから。
スリーシャ草の項目を見てみれば『毎年秋に流行る病の特効薬に使う場合は、しっかり乾燥させる事』と書き足してあった。
「あ、そろそろ流行り病の薬を作り出す時期ってこと?」
「うん、正解」
「じゃあ乾燥させた方が良いって事だね」
「うん、それも正解」
よくできましたと柔らかく笑ってくれるハルの笑顔を、俺はドキドキしながら見返した。
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