生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
77 / 1,561

76.幸せな朝

「…キト、起きて」

 起き抜けにうっすらと聞こえてきたのは、ハルの優しい声だった。

「アキト?」
「うー」

 ちゃんと聞こえてはいるんだけど、まだ頭が全然起きてくれないから返事もうまくできない。ただの呻き声で答えると、ハルはクスクスと笑い出した。

「そろそろ起きないと、朝ごはん食べ損なうよ」
「んうー…やだ、おきる」

 黒鷹亭の朝ごはんは美味しいから、食べられる日は逃したくない。そう思って何とか返事を返せば、頭もすこしづつ動き出した気がする。

「おはよ、ハル」

 目をこすりながら答えれば、ハルは優しく笑ってくれた。

「おはよう、アキト」

 好きな人に起こしてもらうとか、幸せな朝すぎるよね。気を抜くとにやけそうな顔を、俺は必死で引き締めた。



 浄化魔法で身支度を済ませると、いそいそと食堂へと足を伸ばした。

「「「おはようございます」」」
「おはようございます」

 今日の配膳担当さんは、若い人ばかりみたいだ。弾けるような元気な朝の挨拶に、俺も明るく挨拶を返した。今日の朝食はいつも通りの水にパンと具だくさんのスープ、それとセウカを切り分けたものがついていた。

「あ、セウカだ」
「これ夏場は特にうまいよねーレーブンさんが差し入れでもらったらしいよ」

 料理を運んできてくれた少年が教えてくれた裏事情にへぇと感心していると、少年はハッと口を押さえた。

「あーえっと…セウカって美味しいですよね。レーブンさんが差し入れでもらったやつらしいです…よ?」
「俺には別に敬語じゃなくて大丈夫だよ」
「でも、規則なので。すみませんでした」
「ううん、運んでくれてありがとう」

 これ以上言葉を重ねても気にするだけかなとそう答えれば、少年は嬉しそうに笑って去っていった。元気な子だなと微笑ましい気分で見送った。

「今日のも美味しそうだね」

 笑顔のハルに笑みを返してから、俺はいただきますと手を合わせた。



 休みにすることだけは昨日のうちに決まってたんだけど、今日の予定までは決めていなかった。だからまずは自室に帰って、ハルと相談しながらゆっくりと予定を決めることになった。

 ベッドの上に腰かけて、ハルと向かい合う。

「どこか行きたい場所とかはある?」
「行きたい場所かー」

 改めて聞かれると、行きたい場所って特に思い浮かばないな。冒険者装備もまだ買い替えるほど痛んでないし、服も前に買いにいったので十分だ。何も思い浮かばなかった俺は、そのまま黙り込んでしまった。

「思いつかないなら、目的地を決めずにうろうろしてみても良いと思うよ」

 ハルと一緒に目的地も決めずにうろうろする。それってまるでデートみたいだよな。そんな浮かれた事を、つい考えてしまった。

「ハルのお勧めの場所とかある?」
「そうだな…アキトは本を読むの好きだよね?」
「あ、うん」
「本は高級品に入るんだけど、今のアキトなら問題なく買えるし本屋はどうかな?」

 ああ、うん。ギルドカードの残高は怖くて確認してないくらいだもんな。でも本か、確かに本は何冊か買いたいかもしれない。

「本屋か、行ってみたいな」
「あとは、庶民向けの甘いものを売ってるお店もお勧めかな」

 甘いものが好きだって言った事はないのに、ポルパの実ではしゃぎ過ぎたせいか、ハルにはばっちりばれてたみたいだ。しかも高級店じゃなくて庶民向けのお店を勧めてくれるあたりが、俺への配慮がばっちりなんだよね。ああーこれ以上はもうやめてくれ。惚れなおしちゃうから。

「アキトさえ良ければ、お昼はカルツさんおすすめのアジーの串焼き屋に行ってみるのも良いかなって思ってるんだけど…」

 そうだ。カルツさんお勧めのお店はポリッチェともう1軒、アジーの串焼き屋って言ってたな。

 俺の好みを把握してくれてて、俺が行きたいって言ってたお店をさらりとお勧めしてくれる。ハルってすごすぎない。この顔でこの気配り。きっと昔からモテまくってたんだろうな。勝手に想像してしまったハルのモテっぷりに、胸がちくりと痛んだ。

 駄目だ駄目だ。今からハルと二人でおでかけするんだから、勝手に想像して勝手に凹んでる場合じゃない。そんなことしたら、あまりにもったいなさすぎる。慌てて気分を切り替えると、俺はハルを見上げた。

「甘いものもアジーの串焼き屋も両方行ってみたいな」
「じゃあ、距離的に近い甘いものから行こうか」
「案内お願いしまーす」

 俺の言葉に、ハルはにっこりと笑ってから胸に手をあててそっと目を伏せた。

「承りました」

 は、え、今の何?ちょっとあまりにも王子様が過ぎない?何その格好良いポーズ。何その急な敬語。

「アキトが急に敬語になったから、仕返しだよ」

 そんな風に言ったハルの悪戯っぽい笑顔にノックアウトされた俺は、脳内で盛大に叫びながらも、何とかベッドから立ち上がった。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。