78 / 1,561
77.アンヘルお菓子店
受付のレーブンさんに手を振って黒鷹亭を出ると、俺たちは二人で並んで歩き出した。ハルおすすめの庶民向けのアンヘルお菓子店は、南区の市場近くの路地裏にあるらしい。
急ぐ理由もないからと、ハルと二人でのんびりと川沿いの道を歩いていく。
太陽の光が反射した川は、キラキラと輝いて見える。立ち止まったハルが指差して教えてくれた大きな魚の泳ぐ姿を、俺も立ち止まってじっと見つめる。うん、なんだかすごくデートっぽいね。
ゆっくりと進んでいくと、今日も賑やかな市場の隅っこに辿り着いた。
「こっちだよ」
騒がしい市場の中には進まずに、そのまま小さな道に入ったハルを、俺は慌てて追いかける。いくつめかの角を曲がった時、ふわりと辺りに甘い香りが漂ってきた。
「あ!」
「分かった?もうすぐだよ」
そのあまりに良い香りに、くんくんと鼻が動いてしまう。
「ここだよ」
ハルがそう言って指差したのは、白い壁に赤い屋根のこじんまりとした可愛らしいお店だった。ドアの横にかかっている木製の看板には、アンヘルの文字と白い羽の絵が描かれていた。
「今は忙しさもひと段落したくらいかな。開店すぐはかなり混む、人気店なんだよ」
そう教えてもらいながらそっとドアを開けると、カランカランと軽やかにベルの音が鳴った。
「いらっしゃいませー、しばらくお待ちくださーい」
遠くから聞こえてくる声を聞きながら店内に進んだ俺は、通ったばかりのドアの上を見上げた。小ぶりなベルがぶら下がっているのが見える。トライプールでは色んなお店にいったけど、こんな風にベルが鳴るのはかなり珍しい。
幼い頃によく行った、両親の好きだった洋食屋さんにも、こんなベルがついてたな。ドアを開けたがって大変だったって言われたのを、今でもはっきりと覚えている。
なんだか懐かしい気分になるお店だ。
「ここはね、50年前に来た異世界人が開業したお店らしいよ」
突然のハルの言葉に、俺は心から驚いてしまった。でもそう言われて店内を見てみると、確かに棚に並んでいるのは色とりどりの飴やクッキーなどの焼き菓子類だ。俺の世界では当たり前にあったお菓子ばかりだ。
「50年前のレシピを元に工夫しているから、味は少しずつ変わってるんだけどね」
「へーそうなんだ」
思わず返事を返した俺に、ハルはにっこりと笑ってくれた。
「この世界ではお菓子は高級品と言われてるし、貴族でもなければ頻繁に口にすることは無いって前に言ったの覚えてる?」
ハルの言葉にこくりと頷くと、よくできましたと言わんばかりの笑顔が返ってきた。不意打ちの満面の笑顔はやめてください。まぶしいです。
「開業した人はそれが嫌だったんだって。もっと気軽に食べれる簡単なお菓子を作って普及させたいって生涯をかけて尽力したそうだよ」
生涯をかけてってことは、もう亡くなってるんだ。異世界人であることを隠してる俺では、もし生きていても異世界の事を話すことはできないんだけど、すこし残念な気持ちになった。
「アキトと同じ世界の人か分からなかったから言わなかったんだけど、その様子だと同じ世界だったみたいだね?」
「その様子?」
「店内に入った時から、懐かしそうに笑ってたよ」
「あーそっかハルにはばればれか。…ありがとう」
「どういたしまして」
小さな声でハルと話していると、店員さんが慌てた様子で出てきた。
「すみません、お待たせしました!」
俺の母親ぐらいの年代の女性店員は、手を拭きながらカウンターの向こうに立った。裏で作業をしていたんだろうな。にっこり笑顔の女性に、俺も思わず笑顔を返した。
「いえ、店内見て良いですか?」
「あ、待っててくださったんですか?どうぞ」
店員さんを待ってたというか、ハルと話し込んでしまっただけなんだけど。なんだかちょっと申し訳無い気分だ。
ギルドカードでの支払いもできると言われたので、俺は嬉々としてお菓子を購入した。本当はもっと買いたいくらいだったけど、あまり大量に持ち歩くのもなって思ったからだいぶ我慢したよ。それでも店員さんに、たくさんありがとうございますって言われるくらいは、買っちゃったんだけどね。
「またお越しください」
「はい、また来ます」
「ありがとうございましたー」
庶民向けのお菓子を見にきたつもりが、まさかクッキーや飴を手に入れられるなんて思ってもみなかった。
「ハル、本当にありがとう」
「どういたしまして」
急ぐ理由もないからと、ハルと二人でのんびりと川沿いの道を歩いていく。
太陽の光が反射した川は、キラキラと輝いて見える。立ち止まったハルが指差して教えてくれた大きな魚の泳ぐ姿を、俺も立ち止まってじっと見つめる。うん、なんだかすごくデートっぽいね。
ゆっくりと進んでいくと、今日も賑やかな市場の隅っこに辿り着いた。
「こっちだよ」
騒がしい市場の中には進まずに、そのまま小さな道に入ったハルを、俺は慌てて追いかける。いくつめかの角を曲がった時、ふわりと辺りに甘い香りが漂ってきた。
「あ!」
「分かった?もうすぐだよ」
そのあまりに良い香りに、くんくんと鼻が動いてしまう。
「ここだよ」
ハルがそう言って指差したのは、白い壁に赤い屋根のこじんまりとした可愛らしいお店だった。ドアの横にかかっている木製の看板には、アンヘルの文字と白い羽の絵が描かれていた。
「今は忙しさもひと段落したくらいかな。開店すぐはかなり混む、人気店なんだよ」
そう教えてもらいながらそっとドアを開けると、カランカランと軽やかにベルの音が鳴った。
「いらっしゃいませー、しばらくお待ちくださーい」
遠くから聞こえてくる声を聞きながら店内に進んだ俺は、通ったばかりのドアの上を見上げた。小ぶりなベルがぶら下がっているのが見える。トライプールでは色んなお店にいったけど、こんな風にベルが鳴るのはかなり珍しい。
幼い頃によく行った、両親の好きだった洋食屋さんにも、こんなベルがついてたな。ドアを開けたがって大変だったって言われたのを、今でもはっきりと覚えている。
なんだか懐かしい気分になるお店だ。
「ここはね、50年前に来た異世界人が開業したお店らしいよ」
突然のハルの言葉に、俺は心から驚いてしまった。でもそう言われて店内を見てみると、確かに棚に並んでいるのは色とりどりの飴やクッキーなどの焼き菓子類だ。俺の世界では当たり前にあったお菓子ばかりだ。
「50年前のレシピを元に工夫しているから、味は少しずつ変わってるんだけどね」
「へーそうなんだ」
思わず返事を返した俺に、ハルはにっこりと笑ってくれた。
「この世界ではお菓子は高級品と言われてるし、貴族でもなければ頻繁に口にすることは無いって前に言ったの覚えてる?」
ハルの言葉にこくりと頷くと、よくできましたと言わんばかりの笑顔が返ってきた。不意打ちの満面の笑顔はやめてください。まぶしいです。
「開業した人はそれが嫌だったんだって。もっと気軽に食べれる簡単なお菓子を作って普及させたいって生涯をかけて尽力したそうだよ」
生涯をかけてってことは、もう亡くなってるんだ。異世界人であることを隠してる俺では、もし生きていても異世界の事を話すことはできないんだけど、すこし残念な気持ちになった。
「アキトと同じ世界の人か分からなかったから言わなかったんだけど、その様子だと同じ世界だったみたいだね?」
「その様子?」
「店内に入った時から、懐かしそうに笑ってたよ」
「あーそっかハルにはばればれか。…ありがとう」
「どういたしまして」
小さな声でハルと話していると、店員さんが慌てた様子で出てきた。
「すみません、お待たせしました!」
俺の母親ぐらいの年代の女性店員は、手を拭きながらカウンターの向こうに立った。裏で作業をしていたんだろうな。にっこり笑顔の女性に、俺も思わず笑顔を返した。
「いえ、店内見て良いですか?」
「あ、待っててくださったんですか?どうぞ」
店員さんを待ってたというか、ハルと話し込んでしまっただけなんだけど。なんだかちょっと申し訳無い気分だ。
ギルドカードでの支払いもできると言われたので、俺は嬉々としてお菓子を購入した。本当はもっと買いたいくらいだったけど、あまり大量に持ち歩くのもなって思ったからだいぶ我慢したよ。それでも店員さんに、たくさんありがとうございますって言われるくらいは、買っちゃったんだけどね。
「またお越しください」
「はい、また来ます」
「ありがとうございましたー」
庶民向けのお菓子を見にきたつもりが、まさかクッキーや飴を手に入れられるなんて思ってもみなかった。
「ハル、本当にありがとう」
「どういたしまして」
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。