生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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78.マーゴット商会の本部門

 俺はハルに案内してもらった立派な建物の前で、呆然と立ち尽くしていた。

「…ねえ」
「どうしたの?アキト?」
「本当に、ここ?」
「うん、ここがマーゴット商会の本部門だよ」

 動揺しすぎたせいで、多少は人もいる道なのに普通にハルと会話してしまった。

「これが…本屋?」
「うん」

 あ、でもハルとの会話は、もう無理に隠さなくて良くなったんだっけ。

 精霊が見える人って通り名を否定しないってことは、もし俺がハルと話してる所を誰かに見られても、周りは精霊と話してるんだなって思ってくれる。変な人扱いされないなら、必死になって隠さなくても良いかなって思ったんだ。

 一応ハルにも聞いてみたけど、それもそうだねって言ってくれた。

 とはいえ、さすがにこんな街中で話しちゃったのは、俺の気のゆるみだよな。デートって浮かれててごめんなさい。

「はー」

 それにしても、ここまで豪華な建物が本屋だと言われても、正直反応に困ってしまう。

 例えるなら、すごく歴史のある由緒正しい博物館とか美術館みたいなんだよ。どこからどう見ても歴史ある建築物ーって感じの建物。

 しかも、ぴかぴかに磨かれた手入れの行き届いた窓からちらりと見える店員さん達は、それぞれ体型にあったスーツみたいな服をビシッと着こなしている。

「これはちょっと無理かも」
「何故?」
「何故って場違いすぎるから」
「彼らはそんなことで客を判断しないよ」

 大丈夫と断言したのがハルじゃなかったら、絶対にこの建物には入らずに帰ってたと思う。でも、ハルが言うなら信じてみよう。

「分かった、じゃあ行くよ」
「うん、あのドアに近づいて」

 言われた通りにドアに向かって近づいていくと、若い店員さんの手によってすかさずドアが開かれた。まさかの人力自動ドアか。そのためにそこに若い店員さん達が二人並んでたんだ。

「いらっしゃいませ。マーゴット商会へようこそ」

 ドアを通るなりそう声をかけてくれた年配の店員さんは、穏やかに微笑んでくれた。優しそうな笑顔に少しだけ緊張がほぐれた。

「当店のご利用は初めてですか?」
「はい」
「では、こちらのお部屋へどうぞ」

 そのまま案内されたのは、建物の外観から想像した通りの豪華な応接室だった。絵とか花瓶まで飾られている素敵な応接室に、一冒険者の俺。うん、絶対場違いだよなと思うけれど、ハルの言った通り、店員さんは丁寧に接客してくれている。

「こちらにお座り下さい」

 促されるまま一人がけのソファに腰を下ろすと、そのあまりの座り心地の良さにびっくりしてしまった。お高そうなソファだ。店員さんは失礼しますと声をかけると、向かいにある質素な椅子に腰を下ろした。

「私が担当となりますジェイデンと申します」
「あ、冒険者をやってますアキトといいます」

 自己紹介されたので自己紹介を返したら、ジェイデンさんは驚いた様子でぱちぱちと瞬きをしてから、柔らかく笑ってくれた。

「ご丁寧にありがとうございます」

 父親より年上の人に丁寧に喋られると、すごい緊張するんだな。新発見だ。でも多分この人に敬語は無しでってお願いしても断られるだけだろうからぐっと我慢だ。

「お探しの本はありますか?」

 その質問にやっぱりそうかと思ってしまった。明らかにこの部屋にも本が無いもんな。俺が想像していた本屋は、ずらっと本が並んでて自分で選ぶ方式だった。でもここは本を探してもらって、持ってきてもらうんだ。

「あ、えーと…この国の色んな土地の、名所とかが紹介されてるような本はありますか?」

 これからの事を考えたら旅行雑誌みたいなものがあると良いなっていうただの思いつきの発言だったけど、ジェイデンさんはにこやかに微笑んで頷いてくれた。

「他には何かありますか?」
「えーと、この国では定番の物語の本もお願いできますか」
「内容はどのようなものでしょう?」
「昔からの言い伝えなんかが載ってる本と、お勧めの冒険譚もお願いします」
「かしこまりました。では少々お待ち下さいね」

 丁寧にお辞儀をしたジェイデンさんが部屋を出ていった瞬間、ふうと肩から力が抜けた。想像以上に緊張した。

「ハルの言った通り俺相手でも丁寧だったね」
「ここは本を扱う中でも一流店だからね」
「そっか…ちなみに値段っていくらぐらいなの?」

 高いってことだけ聞いてたから、気になってたんだよね。

「1冊5万~10万グルってところかな」

 なるほど、確かに高いとは思ってしまうけれど、これがこの世界での本の価値だって言われたら納得もできる。

「この世界って、図書館って無いの?」
「あるけど、領主か騎士団長の許可が無いと入れないね」

 そうか、だから余計に本の値段が高いのかもしれないな。小声でハルと話していれば、段々と緊張も薄れてきた。



「おまたせしました」

 しばらくして戻ってきたジェイデンさんの手には、真っ赤な布のかかった木製のトレイがあった。布をどければ出てきたのは4冊の本だった。

「まず、こちらはセスミアの旅行手記です。マールクロア王国内の人気の名所や、その土地のおすすめの食べ物などが載った本です。冒険者や商人などの、旅によく出る方には特に人気のものです」

 一見すると図鑑みたいなみための真面目そうな本なんだけど、中をすこしみせてもらったら景色が綺麗な場所の絵や、その土地の食べ物の絵も載っていた。本当に旅行雑誌みたいな本だ。

「うん、これは俺も読んだよ。かなり良い本だから、買って損はないと思うよ」

 トレイを覗き込んでいたハルも、満足そうに頷きながらそう教えてくれる。

「こちらの2冊は、セルシオの伝承とミーナス物語です。どちらも伝承や童話などが分かりやすくまとめられています」

 そう言いながら差し出されたのは、小さめの2冊の本だ。こちらは表紙にも絵があって、金色の線が絵を飾るように入っていたりと見た目も綺麗な本だった。

「珍しい本を持ってきたな…うん、でも良い選択だ」

 ハルが満足そうだから、これも買うのは決定だな。

「最後に、ケイリー・ウェルマールの冒険ですね。こちらはかなり定番の冒険譚ですが、読まれたことはありますか?」

 確認しながら差し出されたのは、表紙に剣と盾の絵が描かれたすこし厚めの本だった。ハルの様子を伺ってみれば、苦笑しながらも頷いてくれた。買うなって言わないってことは、駄目な本じゃないみたいだ。

「いえ、読んだことは無いです」
「そうでしたか。こちらは辺境伯領の実話を元に書かれた、凄腕の剣士である領主の冒険譚です」
「へぇ、面白そうですね」
「ありがとうございます。それではこちらに並べた4冊から、お買い求めになる本をごゆっくりお選び下さい」

 え、選ぶものなの?全部買う気だった俺は、慌ててハルに視線を向けた。

「本は安くは無いからね、数冊の中から選ぶ人も多いんだよ」

 でもアキトが興味を持てたなら、全部買って良いと思うよと背中を押してくれた。うん、どの本も読んでみたい。

「ジェイデンさん、こちら全て頂きます」
「全てですか?」
「ギルドカードで支払いってできますか?」
「はい可能です。少々お待ち下さいね」

 ジェイデンさんのスーツの胸ポケットから出てきたのは、ギルドカードでの精算用の魔道具だった。明らかに入る大きさじゃないから、その胸ポケットに魔道収納袋と同じ効果があるって事なんだろうな。さすが異世界だ。

「まずはこちらをご確認下さい」

 そう言って差し出された紙には、流れるような綺麗な文字で、本の値段がしっかり記されていた。


・セスミアの旅行手記 8万グル
・セルシオの伝承 5万グル
・ミーナス物語 5万グル
・ケイリー・ウェルマールの冒険 6万グル


「合計24万グルになります」
「はい、じゃあこれでお願いします」

 目の前の魔道具にそっとギルドカードを載せてしばらく待てば、ふわりと青く光った。残高が足りなかったら赤く光るらしいよ。分かりやすくて良いよね。

「お支払いは完了しました。お買い上げありがとうございます」
「こちらこそ、良い本を選んで頂いてありがとうございました」

 俺が想像していた、ずらっと本が並んでる本屋とは違っていたけど、ジェイデンさんが選んでくれた本は俺の好みにばっちり合ってた。お礼の言葉にジェイデンさんは優しく目を細めて笑ってくれた。
 
「光栄です。またお越しの際は、ぜひ私に担当させてください。本日はありがとうございました」
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