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83.新しい図鑑
一気に緊張した俺とブレイズを交互に見つめたメロウさんは、いつもの安心させるような優しい笑顔を浮かべてくれた。
「あなたたちなら、落ち着いてやれば簡単ですよ」
「はい」
「がんばります」
「Dランクへの昇級試験の内容は、遠距離からの的当てです」
メロウさんは床に引いてある線の前に立つと、訓練場の端に立っている的を指差した。
「ここからあの的3つを狙って頂きます。投石、投げナイフ、弓、魔法…手段は問いません。3つ中2つまで命中させれば合格になります」
遠距離の的当てか。確かに落ち着いて挑戦さえできれば、大丈夫そうだな。ハルが心配いらないよって言ってたのは、試験内容がこれだったからか。
「ではブレイズさんから」
メロウさんのその言葉を聞くなり、ブレイズは鞄の中から大きな弓と矢筒を取り出した。ブレイズの武器は弓なのか。弓を使う人を見たことはないから、ちょっと楽しみだ。
線の前に立ったブレイズは、すーっと息を吸ってから弓を構えた。その瞬間、表情が一変した。さっきまでの明るい笑顔は綺麗に消え、的を睨む目は真剣だ。引き絞った弓の矢尻も、ぴくりたりとも動かない。
「うん、彼の弓の腕は一流みたいだね」
思わずといった感じで漏れたハルの誉め言葉を聞きながら、俺はブレイズのその姿に見惚れていた。ぴんと張り詰めた空気の中、ブレイズは次々と矢を放った。一本目と二本目は的の中心をきっちりと捕らえた。三本目は中心こそ外したものの、きっちりと的に命中している。
「すごい!」
「うん、やっぱりすごい腕だね」
「ブレイズさん、お見事です」
弓をおろしたブレイズは、悲し気な顔をして俺たちを振り返った。
「焦って最後失敗した…あー」
しょんぼりと肩を落として落ち込んでいたけど、十分にすごい結果だと思う。
「では次、アキトさんはどうされますか?」
「あ、では魔法で」
線の前に立ってすぐに、俺は魔力を練り始めた。ここはやっぱり一番得意な土魔法にしようかな。無詠唱でつぶてを3つ作り上げると、ブレイズが息を呑んだのが分かった。あ、そうか詠唱しないのってちょっと珍しいんだっけ。やっちゃったなと思ったけど、まずは試験をクリアしないと。
じっと的を見つめて狙いを定めてから、俺は立て続けに魔法を放った。ゴブリン相手に使った時は外してしまった事もあったけれど、この的は魔物と違って動かない。そう思えば、楽な気持ちで狙うことができた。
空気銃をイメージしたつぶてはまっすぐに飛んでいくと、3つともきっちりと的のど真ん中を撃ち抜いた。
「アキト、すっげー!」
ブレイズのキラキラした目で見られると、何だか言葉で褒められるよりも照れてしまう。
「うん、上達されましたね。さすがドロシーさんのお弟子さんです」
「ドロシーさんってあの金級の?」
「ええ、そうですよ」
さっき無詠唱に驚いてたから、メロウさんはわざとドロシーさんの名前を出してくれたんだろうな。ドロシーさんからは弟子と名乗って良いのよとお墨付きを頂いてるから問題は無いんだけど、メロウさんに気を使わせてしまったのが申し訳ない。
そのままあれこれと話はじめた二人をぼんやりと眺めていると、ハルがわざわざ顔を覗き込んできた。顔の!距離が!近すぎる!動揺しながらもじっと見つめ返すと、ハルは満足そうに笑ってみせた。
「アキトなら出来ると思ってたよ」
正直、俺にとっては、合格おめでとうと言われるよりも嬉しい言葉だ。ハルは俺の事を信頼してくれてるってことだもんな。
「それでは、まずはブレイズさん、こちらの部屋へどうぞ。アキトさんはしばらくお待ちくださいね」
メロウさんはそう言うと、ブレイズを連れて出て行ってしまった。
「何だろ?」
「ランクアップ時のいつものやつだよ」
「ああ、魔道具のやつ!」
「あれはギルド職員と1対1でやるものだからね」
ハルによると、あの小さな部屋でやることにも意味があるんだって。もしあそこで暴れ出したら結界魔法でそのまま閉じ込められるらしいよ。確かに、そのぐらいの保険がなかったら、ギルド職員さんも安心して検査できないもんな。そんな裏情報を聞いている間に、満面の笑顔のブレイズだけが戻ってきた。
「次アキトだって」
「うん、わかった。ありがとう」
後はもうギルドカードを渡してうそ発見器が終わったら、あっという間にランクアップだ。訓練場に戻れば、ブレイズは嬉しそうに笑って出迎えてくれた。
「ブレイズさん、アキトさん、EランクからDランクへの昇格おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
メロウさんはにっこり笑うと、鞄から取り出した図鑑を俺たちの前に差し出してくれた。
「Dランクから中級冒険者となりますので、こちらの図鑑をどうぞ」
「ありがとうございます!」
初級用とは分厚さが誓う。これはまた読み応えがありそうだ。ワクワクしながら受け取った俺の隣で、ブレイズは複雑そうな顔で図鑑を受け取った。
「うわーぶあつい…」
「読み応えありそうで嬉しいよね!」
「え…読むの?」
「俺は初級のはかなり読み込んだよ」
「えー…あれって嘘じゃないんだ…?」
「ふふ、図鑑を読み込むのは、冒険者としての実力を上げたいなら良い練習になりますよ」
メロウさんにもそう言われて、ブレイズは申し訳なさそうにしながら図鑑をしまいこんだ。一緒に組んでる仲間からそう言われたけど、本を読むのが苦手な俺に意地悪を言ってるのかと思ってたらしい。
「あとでちゃんと謝ろう…」
叱られたわんこみたいになったブレイズは、頭を撫でてあげたくなってしまう。まあ、身長が高すぎて届かないんだけどね。
「さて、Dランクになると護衛の任務が解禁になります」
「護衛ですか?」
「街から街へと移動する商人の護衛や、村などへの物資の運搬の護衛、旅人の護衛、さらには冒険者以外が採取地へ行く際の護衛など、種類は色々あります」
元の世界ほど安全なわけじゃないから、護衛っていう仕事にも需要があるって事か。
「ただ、護衛依頼は、基本的には掲示板には張り出されないんです」
信用がなければ務まらないため、依頼主と既に知り合いだとか、常に依頼を受けている冒険者の推薦が無いと駄目らしい。それは俺には縁が無さそうだな。
「ですので、護衛依頼が来た場合には、ギルドの受付からお声がけさせて頂きます。断っても罰則等はありませんので、分からない事があればその時に聞いて下さいね」
「わかりました」
「はーい」
「説明は以上です。ではお二人ともお疲れ様でした」
ブレイズと二人で声を揃えてお礼を言えば、メロウさんはにっこりと笑ってくれた。
メロウさんは訓練場に鍵をかけると、忙しそうに去っていった。残されたのはハルと俺とブレイズだけだ。
ブレイズはじっと俺を見つめて口を開いた。
「なあ、アキト、今度みかけたら声かけても良い?俺こっちに知り合いいなくてさ」
「うん、俺も知り合いすくないから嬉しいよ。みかけたら俺も声かけるね」
俺の答えを聞くなりぱああっと笑顔になったブレイズに、思わず微笑んでしまった。大好きな散歩に連れていってもらえるって決まった時のわんこみたいだ。
「じゃあ、また会おうなー」
元気にそう宣言すると、ブレイズは嬉しそうに階段を駆け上っていった。
「なんだか、犬みたいな子だったな」
ハルの言葉に、俺はぶはっと噴き出してしまった。
「ハルもそう思ってたんだ?」
「もってことはアキトもか?」
「うん、でも良い子そうだし、また会えると良いな」
「そうだな」
アキトにとっても知り合いが増えていくのは良いことだしなと笑ったハルが、何故か寂しそうに見えた。
受付が見える所まで戻ってくると、ハルと同じくらいの身長のムキムキマッチョと一緒にいるブレイズの姿が遠くに見えた。
「ウォルター兄ちゃん」
「ブレイズ、兄ちゃんって呼ぶな!」
「兄ちゃんは兄ちゃんなのに?」
「あーもういい。結果は?」
「無事にランクアップしましたー!」
「よっし、よくやった!今日は仲間皆で誉めてやる!」
「やったー」
大声でのやりとりに周りの視線が集中している隙に、俺はこそっとハルに声をかける。
「俺も宿に戻ったら誉めてほしい」
「アキト?」
「だって仲間に誉めてもらうんでしょ?俺にとっての仲間はハルだもん」
「そうか…そうだな」
そう言って笑ったハルはいつも以上の笑顔で、俺はその笑顔に見惚れてしまった。
まあ、この時の自分の発言を、俺は後悔することになったんだけどね。
ハルの本気での誉めはやばかった。心臓がいくつあっても足りないくらい、きゅんきゅんさせられたよ。
よく生き延びた、俺。
「あなたたちなら、落ち着いてやれば簡単ですよ」
「はい」
「がんばります」
「Dランクへの昇級試験の内容は、遠距離からの的当てです」
メロウさんは床に引いてある線の前に立つと、訓練場の端に立っている的を指差した。
「ここからあの的3つを狙って頂きます。投石、投げナイフ、弓、魔法…手段は問いません。3つ中2つまで命中させれば合格になります」
遠距離の的当てか。確かに落ち着いて挑戦さえできれば、大丈夫そうだな。ハルが心配いらないよって言ってたのは、試験内容がこれだったからか。
「ではブレイズさんから」
メロウさんのその言葉を聞くなり、ブレイズは鞄の中から大きな弓と矢筒を取り出した。ブレイズの武器は弓なのか。弓を使う人を見たことはないから、ちょっと楽しみだ。
線の前に立ったブレイズは、すーっと息を吸ってから弓を構えた。その瞬間、表情が一変した。さっきまでの明るい笑顔は綺麗に消え、的を睨む目は真剣だ。引き絞った弓の矢尻も、ぴくりたりとも動かない。
「うん、彼の弓の腕は一流みたいだね」
思わずといった感じで漏れたハルの誉め言葉を聞きながら、俺はブレイズのその姿に見惚れていた。ぴんと張り詰めた空気の中、ブレイズは次々と矢を放った。一本目と二本目は的の中心をきっちりと捕らえた。三本目は中心こそ外したものの、きっちりと的に命中している。
「すごい!」
「うん、やっぱりすごい腕だね」
「ブレイズさん、お見事です」
弓をおろしたブレイズは、悲し気な顔をして俺たちを振り返った。
「焦って最後失敗した…あー」
しょんぼりと肩を落として落ち込んでいたけど、十分にすごい結果だと思う。
「では次、アキトさんはどうされますか?」
「あ、では魔法で」
線の前に立ってすぐに、俺は魔力を練り始めた。ここはやっぱり一番得意な土魔法にしようかな。無詠唱でつぶてを3つ作り上げると、ブレイズが息を呑んだのが分かった。あ、そうか詠唱しないのってちょっと珍しいんだっけ。やっちゃったなと思ったけど、まずは試験をクリアしないと。
じっと的を見つめて狙いを定めてから、俺は立て続けに魔法を放った。ゴブリン相手に使った時は外してしまった事もあったけれど、この的は魔物と違って動かない。そう思えば、楽な気持ちで狙うことができた。
空気銃をイメージしたつぶてはまっすぐに飛んでいくと、3つともきっちりと的のど真ん中を撃ち抜いた。
「アキト、すっげー!」
ブレイズのキラキラした目で見られると、何だか言葉で褒められるよりも照れてしまう。
「うん、上達されましたね。さすがドロシーさんのお弟子さんです」
「ドロシーさんってあの金級の?」
「ええ、そうですよ」
さっき無詠唱に驚いてたから、メロウさんはわざとドロシーさんの名前を出してくれたんだろうな。ドロシーさんからは弟子と名乗って良いのよとお墨付きを頂いてるから問題は無いんだけど、メロウさんに気を使わせてしまったのが申し訳ない。
そのままあれこれと話はじめた二人をぼんやりと眺めていると、ハルがわざわざ顔を覗き込んできた。顔の!距離が!近すぎる!動揺しながらもじっと見つめ返すと、ハルは満足そうに笑ってみせた。
「アキトなら出来ると思ってたよ」
正直、俺にとっては、合格おめでとうと言われるよりも嬉しい言葉だ。ハルは俺の事を信頼してくれてるってことだもんな。
「それでは、まずはブレイズさん、こちらの部屋へどうぞ。アキトさんはしばらくお待ちくださいね」
メロウさんはそう言うと、ブレイズを連れて出て行ってしまった。
「何だろ?」
「ランクアップ時のいつものやつだよ」
「ああ、魔道具のやつ!」
「あれはギルド職員と1対1でやるものだからね」
ハルによると、あの小さな部屋でやることにも意味があるんだって。もしあそこで暴れ出したら結界魔法でそのまま閉じ込められるらしいよ。確かに、そのぐらいの保険がなかったら、ギルド職員さんも安心して検査できないもんな。そんな裏情報を聞いている間に、満面の笑顔のブレイズだけが戻ってきた。
「次アキトだって」
「うん、わかった。ありがとう」
後はもうギルドカードを渡してうそ発見器が終わったら、あっという間にランクアップだ。訓練場に戻れば、ブレイズは嬉しそうに笑って出迎えてくれた。
「ブレイズさん、アキトさん、EランクからDランクへの昇格おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
メロウさんはにっこり笑うと、鞄から取り出した図鑑を俺たちの前に差し出してくれた。
「Dランクから中級冒険者となりますので、こちらの図鑑をどうぞ」
「ありがとうございます!」
初級用とは分厚さが誓う。これはまた読み応えがありそうだ。ワクワクしながら受け取った俺の隣で、ブレイズは複雑そうな顔で図鑑を受け取った。
「うわーぶあつい…」
「読み応えありそうで嬉しいよね!」
「え…読むの?」
「俺は初級のはかなり読み込んだよ」
「えー…あれって嘘じゃないんだ…?」
「ふふ、図鑑を読み込むのは、冒険者としての実力を上げたいなら良い練習になりますよ」
メロウさんにもそう言われて、ブレイズは申し訳なさそうにしながら図鑑をしまいこんだ。一緒に組んでる仲間からそう言われたけど、本を読むのが苦手な俺に意地悪を言ってるのかと思ってたらしい。
「あとでちゃんと謝ろう…」
叱られたわんこみたいになったブレイズは、頭を撫でてあげたくなってしまう。まあ、身長が高すぎて届かないんだけどね。
「さて、Dランクになると護衛の任務が解禁になります」
「護衛ですか?」
「街から街へと移動する商人の護衛や、村などへの物資の運搬の護衛、旅人の護衛、さらには冒険者以外が採取地へ行く際の護衛など、種類は色々あります」
元の世界ほど安全なわけじゃないから、護衛っていう仕事にも需要があるって事か。
「ただ、護衛依頼は、基本的には掲示板には張り出されないんです」
信用がなければ務まらないため、依頼主と既に知り合いだとか、常に依頼を受けている冒険者の推薦が無いと駄目らしい。それは俺には縁が無さそうだな。
「ですので、護衛依頼が来た場合には、ギルドの受付からお声がけさせて頂きます。断っても罰則等はありませんので、分からない事があればその時に聞いて下さいね」
「わかりました」
「はーい」
「説明は以上です。ではお二人ともお疲れ様でした」
ブレイズと二人で声を揃えてお礼を言えば、メロウさんはにっこりと笑ってくれた。
メロウさんは訓練場に鍵をかけると、忙しそうに去っていった。残されたのはハルと俺とブレイズだけだ。
ブレイズはじっと俺を見つめて口を開いた。
「なあ、アキト、今度みかけたら声かけても良い?俺こっちに知り合いいなくてさ」
「うん、俺も知り合いすくないから嬉しいよ。みかけたら俺も声かけるね」
俺の答えを聞くなりぱああっと笑顔になったブレイズに、思わず微笑んでしまった。大好きな散歩に連れていってもらえるって決まった時のわんこみたいだ。
「じゃあ、また会おうなー」
元気にそう宣言すると、ブレイズは嬉しそうに階段を駆け上っていった。
「なんだか、犬みたいな子だったな」
ハルの言葉に、俺はぶはっと噴き出してしまった。
「ハルもそう思ってたんだ?」
「もってことはアキトもか?」
「うん、でも良い子そうだし、また会えると良いな」
「そうだな」
アキトにとっても知り合いが増えていくのは良いことだしなと笑ったハルが、何故か寂しそうに見えた。
受付が見える所まで戻ってくると、ハルと同じくらいの身長のムキムキマッチョと一緒にいるブレイズの姿が遠くに見えた。
「ウォルター兄ちゃん」
「ブレイズ、兄ちゃんって呼ぶな!」
「兄ちゃんは兄ちゃんなのに?」
「あーもういい。結果は?」
「無事にランクアップしましたー!」
「よっし、よくやった!今日は仲間皆で誉めてやる!」
「やったー」
大声でのやりとりに周りの視線が集中している隙に、俺はこそっとハルに声をかける。
「俺も宿に戻ったら誉めてほしい」
「アキト?」
「だって仲間に誉めてもらうんでしょ?俺にとっての仲間はハルだもん」
「そうか…そうだな」
そう言って笑ったハルはいつも以上の笑顔で、俺はその笑顔に見惚れてしまった。
まあ、この時の自分の発言を、俺は後悔することになったんだけどね。
ハルの本気での誉めはやばかった。心臓がいくつあっても足りないくらい、きゅんきゅんさせられたよ。
よく生き延びた、俺。
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