生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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84.【ハル視点】昇格試験

「アキト、起きて」

 最近はなかなかすぐには起きなかったアキトだが、今日は珍しく一声で目を覚ました。ゆっくり眠れたおかげで、疲れはだいぶ取れたみたいだな。すっきりと目が覚めた様子のアキトは、にっこりと笑みを浮かべて俺を見上げてきた。

「おはよ、ハル」
「おはよう、アキト」
「今日も目覚まし係させてごめんね」

 申し訳なさそうなアキトに、俺はゆっくりと首を振る。

「頼ってくれて嬉しいから、これからも起こさせて欲しいな」

 というか、もう起こさなくて良いからとか言われたら、その方がつらい。誰か他の人に起こされるアキトの姿なんて、できれば見たくないからな。



 朝食と用意を急いで済ませた結果、試験開始時間より30分も早く、俺たちはギルドに着いてしまった。

「アキト、やる気十分だね」
「はやすぎかな」
「試験場で待てるから、遅れるよりは良いよ」

 決してアキトを慰めるためだけに言った言葉では無い。冒険者の中には、時間を守らないような迷惑な奴も、多少は存在しているからだ。しかもその多くは、冒険者は時間に縛られないとか、遅れて来た方が大物感が出るとか到底理解できない理由でだ。

 そういう一部の迷惑な奴らの対応に苦心してきたギルド職員にとって、アキトの早めの到着はむしろ喜ばれると思う。

 受付前に立ったアキトは、キョロキョロとメロウの姿を探し始めた。試験の監督をやるだろうメロウはここにはいないだろう。伝えるべきかと口をひらきかけた時、一人のギルド職員とアキトの目があった。朗らかな笑みに、アキトはほっとした様子でその受付へと向かっていく。

「あの、すみません。EからDランクへの昇格試験を受けにきました」

 ちらりと時計を見たギルド職員は、俺の思った通り笑みを深めて対応してくれた。

「ギルドカードだけ確認させて頂けますか」

 アキトがすぐに差し出したギルドカードの名前とランクを確認してから、ギルド職員はすぐに地下の訓練場へと案内してくれた。

「どうぞ、座ってお待ちくださいね。時間になりましたら、担当の者が来ますので」
「はい、案内ありがとうございました」
「試験の合格をお祈りしています」

 ギルド職員は、にっこりと笑ってから試験会場を後にした。ギルド職員が合格を祈ると口にすることは、実は滅多に無いことだ。人柄や実績を見て本当に心から合格してほしいと思った人にしか言わないそんな言葉だ。そんなことは知らないアキトは椅子に腰かけると、にこやかに話しかけてきた。

「感じの良い人だったね」
「トライプールの冒険者ギルドは、職員の質が良いので有名なんだよ」
「え、感じが良いのってここだけなの?」
「うーん、職員の質の良さで張り合えるのは、辺境とあとは王都くらいかな」

 アキトは驚いた様子で、俺をまじまじと見つめてきた。

「ここはギルマスのフェリクスの人望で、やる気がある職員が集まってくる。しかもその職員が一人前になるまで、きっちり面倒を見るサブギルマスのメロウがいるからね」

 そろそろメロウの事を伝えておくべきかなとそう口にすると、アキトは目を大きく見開いて固まってしまった。

「え、メロウさんがサブギルマス?」
「あ、知らなかった?」
「全く知らなかったよ!俺、なんか失礼な態度取ってなかったかな?」

 最初に気にするところがそれなんだから、アキトは本当に良い青年だな。俺とメロウに騙していたのかか、知ってて黙っていたのかと怒っても良い所なんだが。

「アキトは誰に対しても失礼な事なんてしないから、大丈夫だよ」

 何かを考えはじめたアキトを見つめていると、訓練場の外から足音と声が聞こえてきた。

「こちらでお待ちくださいね」
「はい」

 そっと開いたドアから入ってきたのは、見覚えの無い赤髪の青年だった。ここまでの長身なら、見かけたことがあれば記憶に残るだろう。

「あ、こんにちは。良かった一人じゃなかったんだ!」

 アキトと目があった瞬間にくしゃりと笑った青年の笑顔は、なんだか人懐っこい犬みたいに見えた。見た目よりもきっと若いんだろうな。

「こんにちは」
「俺ブレイズって言うんだ、今日はよろしく!」
「俺はアキト、うん、よろしくね」
「アキトかー!一人かと思って緊張してたから、一緒に試験受ける人がいて嬉しいよ」
「俺も一人じゃなくて良かったよ」
「やっぱ緊張するよねー!」

 アキトとの距離をぐんぐんと詰めていくが、何故かブレイズには嫌悪感を感じなかった。ただ無邪気に懐いているのが分かるからだろうか。アキト本人も微笑まし気に笑っていた。

「俺ね、冒険者ギルドに本登録できる年になってすぐ、隣の領からこっちに出てきたんだ」

 その言葉に驚いた俺は、大きく目を見開いた。ちらりとアキトから流れてきた視線に、驚いたまま何とか言葉を紡ぐ。

「仮登録は12歳からで、本登録は15歳からだよ…え、15か16でこの身長?」

 俺の相棒と同じくらいの身長じゃないのか。

「冒険者になってからは、同じ村出身の年上の人達と組んでるんだ」
「へえ、最初から組むつもりでこっちに出てきたの?」
「ううん、俺が村から出てきた時に途中で盗賊にあってね」
「え、大丈夫だったの?」
「うん。全財産とられそうな時に、運よく依頼を受けた冒険者が来てくれたんだ」
「そっか、それは良かった」
「それで、その冒険者がたまたま俺の兄ちゃんの友人だった人でね。今は3人で組んで仕事してるって言うから、俺も入れてーってお願いした!」

 同郷で組んで活動しているのは、冒険者としてはそう珍しくは無い。同郷というだけで仲間意識が強くなるし、お互いの長所も短所も理解しやすくなるからだ。

 それにしても、既にC級で組んでる所に、新人でありながら加入を認められるということは、このブレイズという青年はそれなりの実力者ということになるだろう。友人の弟程度の繋がりなら、お互いの命を預ける仲間にはなれない。

 そんなことを考えている間に、ブレイズはアキトの出身地に興味を抱いたようだった。どう説明すべきか頭を働かせていると、近づいてきている気配に気づいた。そろそろ試験が開始になるみたいだな。

 ブレイズとアキトは突然現れたメロウに、かなり驚いたようだった。

「お待たせしました。それでは時間ですので、EランクからDランクへの昇格試験を始めます」

 二人の緊張感は、一気に高まった。メロウはそんな二人を見て、優しく笑みを浮かべてみせる。ああ、アキトだけでなく、ブレイズもメロウのお気に入りか。

 緊張する二人を宥めながら、メロウは試験内容の説明を始めた。

 内容は遠距離からの的当てで、手段は問わないというものだ。他の試験は毎年内容が改良されているがこの昇格試験は、昔からずっとこの内容のままだ。中級に上がるなら遠距離からの攻撃手段があった方が、各段に安全になるからだ。

「ではブレイズさんから」

 先に指名されたブレイズは、使い込まれた大きな弓と矢筒を取り出した。丁寧に手入れが行き届いた弓は、かなり古いもののようだ。きっと祖父母の代から受け継いだものなのだろう。

 線の前に立ったブレイズは、すーっと息を吸ってから弓を構えた。その瞬間、表情が一変した。人懐こい笑顔は綺麗に消え、的を睨む目は真剣だ。引き絞った弓の矢尻も、ぴくりたりとも動かない。

「うん、彼の弓の腕は一流みたいだね」

 きっと幼い頃から弓に親しんできたのだろうと、一目で分かった。これなら確かに途中加入も認められただろうな。姿勢からして外すはずが無いと見守っていれば、ブレイズは次々と矢を放った。一本目と二本目は的の中心をきっちりと捕らえ、三本目は中心を少し外れたところに当たった。

「すごい!」
「うん、やっぱりすごい腕だね」
「ブレイズさん、お見事です」

 口々に褒められたブレイズは、悲し気な顔をして振り返った。

「焦って最後失敗した…あー」

 しょんぼりと肩を落として落ち込んでいたけれど、まだ下級冒険者なのだから十分に誇れる結果だ。

「では次、アキトさんはどうされますか?」
「あ、では魔法で」

 アキトの方は落ち着いた様子で、魔力を練り始めた。得意な土魔法でつぶてを作ったアキトに、ブレイズが息を呑んだ。

 アキトはちらりとそちらを見たものの、動揺するでもなくきっちりと3つの的のど真ん中を撃ち抜いてみせた。

「アキト、すっげー!」

 キラキラした目でアキトを見つめるブレイズをちらりと見てから、メロウは口を開いた。

「うん、上達されましたね。さすがドロシーさんのお弟子さんです」
「ドロシーさんってあの金級の?」
「ええ、そうですよ」

 ドロシーの弟子なら無詠唱ぐらい余裕かと思わせるんだな。配慮ありがとう、メロウ。

「ドロシーさんから魔法を学んだってことですか?」
「そうですね、彼にはドロシー本人から弟子を名乗る許可が出ていて」

 そう説明を続けているメロウを、アキトはぼんやりと眺めていた。どうかしたのかと心配になった俺は、そっとアキトの顔を覗き込んでみた。アキトはメロウに申し訳なさそうではあったけれど、普段通りの表情で少しだけほっとした。

「アキトなら出来ると思ってたよ」

 素直な気持ちを告げれば、アキトは嬉しそうに笑ってくれた。



 別室に移動してのいつもの検査を受けた二人は、無事にDランクへの昇格を果たした。その場で中級用の図鑑を受け取ったアキトは、満面の笑みを浮かべていた。

 ワクワクした様子のアキトとは違って、ブレイズは複雑そうな顔だ。

「うわーぶあつい…」
「読み応えありそうで嬉しいよね!」
「え…読むの?」
「俺は初級のはかなり読み込んだよ」
「えー…あれって嘘じゃないんだ…?」
「ふふ、図鑑を読み込むのは、冒険者としての実力を上げたいなら良い練習になりますよ」

 それを見越して作られたものだから当然だ。メロウの言葉にブレイズは申し訳なさそうな顔で図鑑をしまいこんだ。

「一緒に組んでる仲間から図鑑を読み込めって言われて、本を読むのが苦手な俺に意地悪してるのかと思ってちゃんと聞かなかったんです…後でちゃんと謝ろう…」

 しょんぼりしているブレイズは、本当に犬みたいに見えるな。そんな事を考えている間に、メロウはどんどん説明を続けていった。護衛依頼の説明も、アキトとブレイズは真剣な顔で聞いていた。

「説明は以上です。ではお二人ともお疲れ様でした」



 試験も無事に終わり、メロウは訓練場に鍵をかけると忙しそうに去っていった。

「なあ、アキト、今度みかけたら声かけても良い?俺こっちに知り合いいなくてさ」
「うん、俺も知り合いすくないから嬉しいよ。みかけたら俺も声かけるね」

 アキトの答えに、ブレイズはぱあっと笑顔になった。

「じゃあ、また会おうなー」

 元気にそう宣言すると、ブレイズは嬉しそうに階段を駆け上っていった。

「なんだか、犬みたいな子だったな」

 思わずそう呟いてしまえば、アキトはぶはっと噴き出した。

「ハルもそう思ってたんだ?」
「もってことはアキトもか?」
「うん、でも良い子そうだし、また会えると良いな」
「そうだな。アキトにとっても知り合いが増えていくのは良いことだしな」

 そう言いつつ、どうしても考えてしまう。知り合いがどんどん増えていけば、アキトに惚れる奴も増えていくんだろうな。そしていつかそいつらの気持ちを受け入れるのかもしれない。そんな風に考えてしまう、自分の弱さがすごく嫌だ。

 そんな事を考えながら受付が見える所まで戻ってくると、俺とそう身長の違わない筋肉質な男と一緒にいるブレイズの姿が見えた。

「ウォルター兄ちゃん」
「ブレイズ、兄ちゃんって呼ぶな!」
「兄ちゃんは兄ちゃんなのに?」
「あーもういい。結果は?」
「無事にランクアップしましたー!」
「よっし、よくやった!今日は仲間皆で誉めてやる!」
「やったー」

 大声でのやりとりにギルド中の視線が集中しているが、ブレイズは嬉しそうに笑っている。ああ、本当に仲間の一員として認められているんだなと眺めていると、不意にアキトが声をかけてきた。

「俺も宿に戻ったら誉めてほしい」
「アキト?」
「だって仲間に誉めてもらうんでしょ?俺にとっての仲間はハルだもん」
「そうか…そうだな」

 仲間に誉めてもらいたいとそう言ってくれたアキトの気持ちが、本当に嬉しかった。思わず満面の笑みを浮かべてしまった俺に、アキトもにこにこと笑い返してくれた。



 宿に戻ってから、俺はアキトのランクアップを祝い、それだけでは飽きたらずアキトの長所をずらずらと並べ立てた。折角の良い機会だと、これからも一緒にいたい事まできっちりともう一度伝えさせてもらった。

 アキトは顔中を真っ赤にして照れていた。恥ずかしがりやな所も可愛いなと思いつつ、俺はアキトから止められるまでひたすらにアキトを褒めちぎった。
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