生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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88.予習は大事

 ひとしきり騒いでからやっと落ち着いた二人は、我に返ると恥ずかしそうに顔を伏せた。その動きまでそっくりだなと見つめていると、がばっと二人揃って顔を上げた。

「あの、私はロズア村の村長の妻で、アメリアと言います」
「私は村長の娘、テッサです」

 アメリアさんとテッサさんか。うん、やっぱり親子だったんだな。

「俺は冒険者のアキトです」
「アキトさん、こんなに早く依頼を受けてもらえるなんて思っていなくて…騒いでごめんなさいね」
「依頼を受けて頂きありがとうございます」

 キラキラした目で嬉しそうにそう言われてしまうと、ただ馬車乗りたさに受けただけとは言い難い。

「え、いえ。その、トルマルに行く予定があったので」

 隣に立っていたハルは、俺の言葉を聞いて面白そうに笑ってる。馬車に乗りたかったからなんてとても言えないだろうと軽く睨めば、ハルは何も言わずに笑ったまま手を振ってみせた。

「それでも助かります!」
「ええ!」
「緊急依頼でもないのにこれほど早く受けて貰えるなんて!」
「私たちにとってロズア湖はとっても大事なんです!」

 わーまた二人のテンションが上がってきた。これってどう対処すれば良いんだろうかと困っていると、タイミング良く御者さんの声が辺りに響いた。

「そろそろ出発するぞー」

 ちらりと見れば、ヨウはもう食事を終えていた。あれだけの量を全部食べつくしたんだ。食べるところを見逃してしまったな。ちょっと残念に思いながらヨウを見つめていると、後ろから声がかかった。

「アキトさん、もし良ければ、家にお立ち寄りください」

 そんなアメリアさんの提案に、俺は驚いて振り返った。たまたま出会ってしまったから気を使って誘ってくれたんだろうけど、本当なら勝手に依頼を終わらせて冒険者ギルドに報告するだけの筈なんだよな。今回の依頼は依頼主への報告不要になってた筈。

「あ、えーと、すぐに依頼に向かう予定だったんですが」
「まあ、すぐに対処して貰えるんですか?」
「それは助かります」
「あ、いえいえ」
「でしたら、村を出る前にでもお立ち寄り頂けたら」

 そこまで言われてしまうと、断りにくい。どうしようとちらりと見れば、ハルはすぐに笑顔で頷いてくれた。あ、このお招きは受けても良いんだ。

「はい、では村を出る前にお邪魔します」
「ではお待ちしておりますね!」



 馬車に戻った俺は、席に座るなり図鑑を取り出した。これだけ揺れないなら図鑑くらい読めそうだし、ちょっとだけでも予習しておきたい。

 まずは討伐対象のウインの情報を探す。すぐに見つかったページには目つきの悪い茶色の鳥が描かれていた。

 ウインは20体から50体程度がまとまって群れを作り、常にその群れで行動を共にする魔鳥だ。個々の強さはさほどでもないが、一度群れの土地と決めた場所に侵入されると狂暴になり襲い掛かってくるらしい。遠距離からの攻撃手段が無い状態で遭遇すると、極めて厄介な魔物だそうだ。

 なるほど、だからDランク以上で無いと受けられない依頼なのか。一人で納得していると、ハルはそっと追加情報を教えてくれた。

「ウインは食肉としても人気があるんだ。冒険者ギルドでは常時買取の素材だよ」

 マルックスはジューシーで柔らかかったけど、ウインは旨味が濃くてしっかりした肉質なんだって。それはぜひ食べてみたいな。俺はペンを取り出すと、『食肉として人気の常時買取素材』と書き足した。

「次はルマイス草だね」

 ルマイス草のページもすぐに見つかったけれど、説明はかなり少なかった。

 何故かロズア湖の近くにしか生えない薬草の一種で、毒消し薬の素材に使われる。ロズア村では食材として利用されることもあるらしい。

 絵を見ても普通の緑色の雑草にしか見えないし、特に目立った特徴は無いみたいだ。うーん、これは探すのが大変そうだな。間違えて違うのを採取しないように気を付けないと。

「あれ?説明ってこれだけ?」

 一緒に図鑑を覗き込んでいたハルは、驚いた様子でそう声を上げた。

「ルマイス草は魔力に反応して色を変えるんだけど…この情報はまだ図鑑にのってないんだ」
「え?」
「魔法を当てれば色が変わるのは間違いないよ。俺も採取した事があるし」

 へーそんな不思議な植物があるんだな。訂正。ルマイス草を探すのは簡単そうだ。

「アキトだったら、水魔法を雨みたいに降らせるとか、霧みたいにするとかが簡単かな」

 しっかり俺にあった方法まで教えてくれるハルに感謝しながら、俺はいそいそと図鑑に文字を書き足した。
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