89 / 1,561
88.予習は大事
ひとしきり騒いでからやっと落ち着いた二人は、我に返ると恥ずかしそうに顔を伏せた。その動きまでそっくりだなと見つめていると、がばっと二人揃って顔を上げた。
「あの、私はロズア村の村長の妻で、アメリアと言います」
「私は村長の娘、テッサです」
アメリアさんとテッサさんか。うん、やっぱり親子だったんだな。
「俺は冒険者のアキトです」
「アキトさん、こんなに早く依頼を受けてもらえるなんて思っていなくて…騒いでごめんなさいね」
「依頼を受けて頂きありがとうございます」
キラキラした目で嬉しそうにそう言われてしまうと、ただ馬車乗りたさに受けただけとは言い難い。
「え、いえ。その、トルマルに行く予定があったので」
隣に立っていたハルは、俺の言葉を聞いて面白そうに笑ってる。馬車に乗りたかったからなんてとても言えないだろうと軽く睨めば、ハルは何も言わずに笑ったまま手を振ってみせた。
「それでも助かります!」
「ええ!」
「緊急依頼でもないのにこれほど早く受けて貰えるなんて!」
「私たちにとってロズア湖はとっても大事なんです!」
わーまた二人のテンションが上がってきた。これってどう対処すれば良いんだろうかと困っていると、タイミング良く御者さんの声が辺りに響いた。
「そろそろ出発するぞー」
ちらりと見れば、ヨウはもう食事を終えていた。あれだけの量を全部食べつくしたんだ。食べるところを見逃してしまったな。ちょっと残念に思いながらヨウを見つめていると、後ろから声がかかった。
「アキトさん、もし良ければ、家にお立ち寄りください」
そんなアメリアさんの提案に、俺は驚いて振り返った。たまたま出会ってしまったから気を使って誘ってくれたんだろうけど、本当なら勝手に依頼を終わらせて冒険者ギルドに報告するだけの筈なんだよな。今回の依頼は依頼主への報告不要になってた筈。
「あ、えーと、すぐに依頼に向かう予定だったんですが」
「まあ、すぐに対処して貰えるんですか?」
「それは助かります」
「あ、いえいえ」
「でしたら、村を出る前にでもお立ち寄り頂けたら」
そこまで言われてしまうと、断りにくい。どうしようとちらりと見れば、ハルはすぐに笑顔で頷いてくれた。あ、このお招きは受けても良いんだ。
「はい、では村を出る前にお邪魔します」
「ではお待ちしておりますね!」
馬車に戻った俺は、席に座るなり図鑑を取り出した。これだけ揺れないなら図鑑くらい読めそうだし、ちょっとだけでも予習しておきたい。
まずは討伐対象のウインの情報を探す。すぐに見つかったページには目つきの悪い茶色の鳥が描かれていた。
ウインは20体から50体程度がまとまって群れを作り、常にその群れで行動を共にする魔鳥だ。個々の強さはさほどでもないが、一度群れの土地と決めた場所に侵入されると狂暴になり襲い掛かってくるらしい。遠距離からの攻撃手段が無い状態で遭遇すると、極めて厄介な魔物だそうだ。
なるほど、だからDランク以上で無いと受けられない依頼なのか。一人で納得していると、ハルはそっと追加情報を教えてくれた。
「ウインは食肉としても人気があるんだ。冒険者ギルドでは常時買取の素材だよ」
マルックスはジューシーで柔らかかったけど、ウインは旨味が濃くてしっかりした肉質なんだって。それはぜひ食べてみたいな。俺はペンを取り出すと、『食肉として人気の常時買取素材』と書き足した。
「次はルマイス草だね」
ルマイス草のページもすぐに見つかったけれど、説明はかなり少なかった。
何故かロズア湖の近くにしか生えない薬草の一種で、毒消し薬の素材に使われる。ロズア村では食材として利用されることもあるらしい。
絵を見ても普通の緑色の雑草にしか見えないし、特に目立った特徴は無いみたいだ。うーん、これは探すのが大変そうだな。間違えて違うのを採取しないように気を付けないと。
「あれ?説明ってこれだけ?」
一緒に図鑑を覗き込んでいたハルは、驚いた様子でそう声を上げた。
「ルマイス草は魔力に反応して色を変えるんだけど…この情報はまだ図鑑にのってないんだ」
「え?」
「魔法を当てれば色が変わるのは間違いないよ。俺も採取した事があるし」
へーそんな不思議な植物があるんだな。訂正。ルマイス草を探すのは簡単そうだ。
「アキトだったら、水魔法を雨みたいに降らせるとか、霧みたいにするとかが簡単かな」
しっかり俺にあった方法まで教えてくれるハルに感謝しながら、俺はいそいそと図鑑に文字を書き足した。
「あの、私はロズア村の村長の妻で、アメリアと言います」
「私は村長の娘、テッサです」
アメリアさんとテッサさんか。うん、やっぱり親子だったんだな。
「俺は冒険者のアキトです」
「アキトさん、こんなに早く依頼を受けてもらえるなんて思っていなくて…騒いでごめんなさいね」
「依頼を受けて頂きありがとうございます」
キラキラした目で嬉しそうにそう言われてしまうと、ただ馬車乗りたさに受けただけとは言い難い。
「え、いえ。その、トルマルに行く予定があったので」
隣に立っていたハルは、俺の言葉を聞いて面白そうに笑ってる。馬車に乗りたかったからなんてとても言えないだろうと軽く睨めば、ハルは何も言わずに笑ったまま手を振ってみせた。
「それでも助かります!」
「ええ!」
「緊急依頼でもないのにこれほど早く受けて貰えるなんて!」
「私たちにとってロズア湖はとっても大事なんです!」
わーまた二人のテンションが上がってきた。これってどう対処すれば良いんだろうかと困っていると、タイミング良く御者さんの声が辺りに響いた。
「そろそろ出発するぞー」
ちらりと見れば、ヨウはもう食事を終えていた。あれだけの量を全部食べつくしたんだ。食べるところを見逃してしまったな。ちょっと残念に思いながらヨウを見つめていると、後ろから声がかかった。
「アキトさん、もし良ければ、家にお立ち寄りください」
そんなアメリアさんの提案に、俺は驚いて振り返った。たまたま出会ってしまったから気を使って誘ってくれたんだろうけど、本当なら勝手に依頼を終わらせて冒険者ギルドに報告するだけの筈なんだよな。今回の依頼は依頼主への報告不要になってた筈。
「あ、えーと、すぐに依頼に向かう予定だったんですが」
「まあ、すぐに対処して貰えるんですか?」
「それは助かります」
「あ、いえいえ」
「でしたら、村を出る前にでもお立ち寄り頂けたら」
そこまで言われてしまうと、断りにくい。どうしようとちらりと見れば、ハルはすぐに笑顔で頷いてくれた。あ、このお招きは受けても良いんだ。
「はい、では村を出る前にお邪魔します」
「ではお待ちしておりますね!」
馬車に戻った俺は、席に座るなり図鑑を取り出した。これだけ揺れないなら図鑑くらい読めそうだし、ちょっとだけでも予習しておきたい。
まずは討伐対象のウインの情報を探す。すぐに見つかったページには目つきの悪い茶色の鳥が描かれていた。
ウインは20体から50体程度がまとまって群れを作り、常にその群れで行動を共にする魔鳥だ。個々の強さはさほどでもないが、一度群れの土地と決めた場所に侵入されると狂暴になり襲い掛かってくるらしい。遠距離からの攻撃手段が無い状態で遭遇すると、極めて厄介な魔物だそうだ。
なるほど、だからDランク以上で無いと受けられない依頼なのか。一人で納得していると、ハルはそっと追加情報を教えてくれた。
「ウインは食肉としても人気があるんだ。冒険者ギルドでは常時買取の素材だよ」
マルックスはジューシーで柔らかかったけど、ウインは旨味が濃くてしっかりした肉質なんだって。それはぜひ食べてみたいな。俺はペンを取り出すと、『食肉として人気の常時買取素材』と書き足した。
「次はルマイス草だね」
ルマイス草のページもすぐに見つかったけれど、説明はかなり少なかった。
何故かロズア湖の近くにしか生えない薬草の一種で、毒消し薬の素材に使われる。ロズア村では食材として利用されることもあるらしい。
絵を見ても普通の緑色の雑草にしか見えないし、特に目立った特徴は無いみたいだ。うーん、これは探すのが大変そうだな。間違えて違うのを採取しないように気を付けないと。
「あれ?説明ってこれだけ?」
一緒に図鑑を覗き込んでいたハルは、驚いた様子でそう声を上げた。
「ルマイス草は魔力に反応して色を変えるんだけど…この情報はまだ図鑑にのってないんだ」
「え?」
「魔法を当てれば色が変わるのは間違いないよ。俺も採取した事があるし」
へーそんな不思議な植物があるんだな。訂正。ルマイス草を探すのは簡単そうだ。
「アキトだったら、水魔法を雨みたいに降らせるとか、霧みたいにするとかが簡単かな」
しっかり俺にあった方法まで教えてくれるハルに感謝しながら、俺はいそいそと図鑑に文字を書き足した。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。