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93.料理人
「ここです」
そう言ってアメリアさんが立ち止まったのは、村の中でも一際大きな家の前だった。村長の家なんだから当たり前か。
「テッサ、アキトが来たわよ」
「アキトさんが!?もう終わったんですか?」
「ええ、今あの人が確認に行ってるわ」
とりあえずこちらへとテッサさんに案内されたのは、立派な応接室だった。すかさずお茶も出されて、大切な客人扱いにむしろ慌ててしまう。
「アキト、堂々としてれば良いんだよ」
うん、ハルはこういうの緊張しなさそうだもんね。あの本屋に行った時から知ってたよ。
「アキトさん、甘いものはお好きですか?」
「はい、甘いもの好きです」
「でしたら、あの…これいかがですか?」
もじもじしながらテッサさんが差し出したのは、ごろごろとナッツがたくさん入った焼き菓子だった。
「わ、美味しそうですね」
「ぜひ食べてみてください!」
お腹が空いていた俺は、ひょいっとその焼き菓子をつまんで口に放り込んだ。食べ応えのある木の実の歯ごたえと、ザクザク食感の生地がよく合っている。ちょっとクッキーに似ている。
「美味しい!」
「良かったです!あの、アキトさんにお聞きしたいんですけど」
本当に美味しいなともう一つ口に放り込んだ俺に、テッサさんがそう声をかけてきた。
「アキト、俺はちょっと席を外すね」
突然そんな事を言い出したハルの顔を慌てて見ると、何故かつらそうな顔をしている。
「え」
バラ―ブ村の時みたいにまた外の偵察とかに行く必要があるんだろうか。でもそれならこのつらそうな表情の説明がつかない。
慌てた俺は咄嗟にハルの服の袖をひっぱろうとしてしまった。もちろん触れなかったんだけど、その仕草だけでハルは俺が引き留めようとしていることに気づいたみたいだ。
「ごめん、やっぱりここにいるよ」
「あのー」
「あ、えと質問って何かな?」
ハルの様子を気にしながらもそう聞けば、テッサさんはまっすぐに俺を見つめた。
「アキトさんから見て、このお菓子はトライプールでも受け入れられると思いますか?」
何故か目を見開いて驚くハルを置いておいて、俺はじっと焼き菓子を見つめた。
「値段にもよるだろうけど、俺はトライプールで売ってたら買います」
「本当ですか?値段はそこまで高くせずに売るつもりなんですけど」
「アンヘル菓子店ぐらいかな?」
「アンヘル菓子店のお菓子も食べた事があるんですか?」
「え、うん」
「ちょっとだけ待っててください」
テッサさんはそう言うと、すごい勢いで部屋から出ていってしまった。
「ハル、さっきの何だったの?」
「いや、俺の早とちりだったみたいだ。邪魔かと思ったんだけど」
全然意味が分からないけど、ハルの表情が笑顔に戻ったからまあ良いか。
「お待たせしました!」
出ていった時と同じくらいの勢いで帰ってきたテッサさんの後ろには、俺より小さいぐらいの気弱そうな男性が立っていた。俺より華奢で俺より小さい男性って珍しいな。
「アキトさん、こちらはうちの料理人です」
「トッドです」
「あ、冒険者のアキトです」
どうやらテッサさんは幼馴染でもあるトッド君が作るお菓子が大好きで、販売するお店を作ろうとずっと誘ってたらしい。でもトッド君は自分に自信が無くて、身内や村人の美味しいはお世辞だと思い込んでたんだって。
「はーなるほど。それで俺か」
「旅人や冒険者さんが来てもなかなか接点ができなくて」
突然このお菓子を食べて感想を言って欲しいなんて、急に声かけられないもんね。
「アキトさん、素直な感想をお願いします」
「えーとごろごろの木の実とザクザクの生地がよく合ってて美味しいよ」
「ありがとうございます」
「折角の機会なのに、お礼を言うだけで良いわけ?」
テッサさんは、トッド君をじっと見つめた。それまでうつむいていたトッド君は、意を決したように顔を上げる。
「あ、えと…アンヘル菓子店に行った事、あるんですよね」
「うん」
「僕も一度行こうとしたけど…辿り着けなくて」
涙目でそう話すトッド君に、俺はアンヘル菓子店までの道順を思い出そうとしてみた。うん、一回行った事のある俺でも、一人で行ったら迷子になると思う。路地裏を曲がりまくったから、気持ちは分かる。
「ああ、あそこ分かりにくいもんね」
「あの店のお菓子は安価で美味しいって評判で、その、一度食べてみたかったんですけど」
残念そうな声に、ふと思い出した。俺買い込んだやつ全部は食べてないよな。まだ残ってる筈。鞄の中に手を入れると、すぐにクッキーと飴を取り出した。
「これ、あげる」
「え…これって」
お金を払うと言い出した二人に、俺はにっこりと笑ってみせた。
「美味しいお菓子が増えるのは大歓迎なので、期待して待ってる」
「…っ!ありがとうございます!」
丁寧にお礼を言ったトッド君は、料理の手伝いがあるのでと慌てて出て行った。
「アキトさん、本当にお金は良いんですか?」
「うん、本当にいらないよ。トッド君の作るお菓子は美味しいね」
「ええ。それに気弱ですけど、優しい人なんです」
「トッド君のこと、好きなんだね?」
声をひそめて尋ねれば、テッサさんは顔を真っ赤に染めて頷いた。
そう言ってアメリアさんが立ち止まったのは、村の中でも一際大きな家の前だった。村長の家なんだから当たり前か。
「テッサ、アキトが来たわよ」
「アキトさんが!?もう終わったんですか?」
「ええ、今あの人が確認に行ってるわ」
とりあえずこちらへとテッサさんに案内されたのは、立派な応接室だった。すかさずお茶も出されて、大切な客人扱いにむしろ慌ててしまう。
「アキト、堂々としてれば良いんだよ」
うん、ハルはこういうの緊張しなさそうだもんね。あの本屋に行った時から知ってたよ。
「アキトさん、甘いものはお好きですか?」
「はい、甘いもの好きです」
「でしたら、あの…これいかがですか?」
もじもじしながらテッサさんが差し出したのは、ごろごろとナッツがたくさん入った焼き菓子だった。
「わ、美味しそうですね」
「ぜひ食べてみてください!」
お腹が空いていた俺は、ひょいっとその焼き菓子をつまんで口に放り込んだ。食べ応えのある木の実の歯ごたえと、ザクザク食感の生地がよく合っている。ちょっとクッキーに似ている。
「美味しい!」
「良かったです!あの、アキトさんにお聞きしたいんですけど」
本当に美味しいなともう一つ口に放り込んだ俺に、テッサさんがそう声をかけてきた。
「アキト、俺はちょっと席を外すね」
突然そんな事を言い出したハルの顔を慌てて見ると、何故かつらそうな顔をしている。
「え」
バラ―ブ村の時みたいにまた外の偵察とかに行く必要があるんだろうか。でもそれならこのつらそうな表情の説明がつかない。
慌てた俺は咄嗟にハルの服の袖をひっぱろうとしてしまった。もちろん触れなかったんだけど、その仕草だけでハルは俺が引き留めようとしていることに気づいたみたいだ。
「ごめん、やっぱりここにいるよ」
「あのー」
「あ、えと質問って何かな?」
ハルの様子を気にしながらもそう聞けば、テッサさんはまっすぐに俺を見つめた。
「アキトさんから見て、このお菓子はトライプールでも受け入れられると思いますか?」
何故か目を見開いて驚くハルを置いておいて、俺はじっと焼き菓子を見つめた。
「値段にもよるだろうけど、俺はトライプールで売ってたら買います」
「本当ですか?値段はそこまで高くせずに売るつもりなんですけど」
「アンヘル菓子店ぐらいかな?」
「アンヘル菓子店のお菓子も食べた事があるんですか?」
「え、うん」
「ちょっとだけ待っててください」
テッサさんはそう言うと、すごい勢いで部屋から出ていってしまった。
「ハル、さっきの何だったの?」
「いや、俺の早とちりだったみたいだ。邪魔かと思ったんだけど」
全然意味が分からないけど、ハルの表情が笑顔に戻ったからまあ良いか。
「お待たせしました!」
出ていった時と同じくらいの勢いで帰ってきたテッサさんの後ろには、俺より小さいぐらいの気弱そうな男性が立っていた。俺より華奢で俺より小さい男性って珍しいな。
「アキトさん、こちらはうちの料理人です」
「トッドです」
「あ、冒険者のアキトです」
どうやらテッサさんは幼馴染でもあるトッド君が作るお菓子が大好きで、販売するお店を作ろうとずっと誘ってたらしい。でもトッド君は自分に自信が無くて、身内や村人の美味しいはお世辞だと思い込んでたんだって。
「はーなるほど。それで俺か」
「旅人や冒険者さんが来てもなかなか接点ができなくて」
突然このお菓子を食べて感想を言って欲しいなんて、急に声かけられないもんね。
「アキトさん、素直な感想をお願いします」
「えーとごろごろの木の実とザクザクの生地がよく合ってて美味しいよ」
「ありがとうございます」
「折角の機会なのに、お礼を言うだけで良いわけ?」
テッサさんは、トッド君をじっと見つめた。それまでうつむいていたトッド君は、意を決したように顔を上げる。
「あ、えと…アンヘル菓子店に行った事、あるんですよね」
「うん」
「僕も一度行こうとしたけど…辿り着けなくて」
涙目でそう話すトッド君に、俺はアンヘル菓子店までの道順を思い出そうとしてみた。うん、一回行った事のある俺でも、一人で行ったら迷子になると思う。路地裏を曲がりまくったから、気持ちは分かる。
「ああ、あそこ分かりにくいもんね」
「あの店のお菓子は安価で美味しいって評判で、その、一度食べてみたかったんですけど」
残念そうな声に、ふと思い出した。俺買い込んだやつ全部は食べてないよな。まだ残ってる筈。鞄の中に手を入れると、すぐにクッキーと飴を取り出した。
「これ、あげる」
「え…これって」
お金を払うと言い出した二人に、俺はにっこりと笑ってみせた。
「美味しいお菓子が増えるのは大歓迎なので、期待して待ってる」
「…っ!ありがとうございます!」
丁寧にお礼を言ったトッド君は、料理の手伝いがあるのでと慌てて出て行った。
「アキトさん、本当にお金は良いんですか?」
「うん、本当にいらないよ。トッド君の作るお菓子は美味しいね」
「ええ。それに気弱ですけど、優しい人なんです」
「トッド君のこと、好きなんだね?」
声をひそめて尋ねれば、テッサさんは顔を真っ赤に染めて頷いた。
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