生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
104 / 1,561

103.異世界の温泉は

 ハルの嬉しい提案に、俺は速攻で飛びついた。そうだよ。今から入れば良いんだよ。

 ウキウキですぐに着替えを用意しようとしたけど、何故か提案してくれたハル本人に止められてしまった。

「待って、アキト」
「え?」
「この世界の温泉は初めてなんだし、分からないことがあったら困るよね?一度一緒に浴室を見にいかない?」

 んーそう言われると確かにそうだな。ハルらしい気遣いに感謝の言葉を伝えつつ、俺たちは二人で一緒に浴室へと向かった。

「ここ?」
「そうだよ」

 部屋の壁にあったシンプルなドアを開ければ、そこには脱衣所らしき場所があった。

 作り付けの棚には、お洒落なカゴがいくつか並べて置いてある。そこに着替えを入れるんだって。その隣にはタオルとして使うための綺麗な布も、何枚かまとめて置いてあった。連泊の時は受付に持っていけば替えてもらえるらしい。

「ここの説明はそれぐらいかな」

 ハルの言葉に頷きながら、俺はもう一つのドアをじっと見つめていた。あのドアの向こうが浴室ってことだよね。ワクワクしながらハルを見上げれば、頷いてから手の動きだけでどうぞと促してくれた。許可がでたので開けたいと思います。俺は弾むような足取りで、もう一つのドアへと近づいていった。

「アキト、嬉しそうだね」
「うん。さっきからワクワクしてる」

 そーっとドアを開くと、まず流れる水音が聞こえてくる。

 期待に胸を膨らませながら覗き込むと、そこにはカラフルなタイルで彩られた大きな浴槽があった。壁にある魔法陣から流れ続けている乳白色のお湯が、柔らかく水面を揺らしている。

「わー想像以上に温泉っぽい!」
「気に入った?」
「すっごく気に入った!」

 浴室内の壁もシンプルな白色なんだけど、浴槽だけは色んな色のタイルが使われてるので目に楽しい。見慣れたシャワーの魔道具もあるから、これで体を流すのかな。

「トルマルの地下に湧いている温泉がいくつかあってね、ここはそこから魔道具を使ってお湯をひいてるんだ」
「魔道具でひいてるの?」
「そうだよ。溢れたお湯はあの床の隅にある魔道具で排水してるんだ」

 ハルが指差した所を見てみれば、確かにそこに魔法陣が刻まれたタイルがあった。溢れたお湯は、その魔法陣に吸い込まれていくみたいだ。

 ここは浄化以外の手を入れてないのが自慢なんだって。異世界にも源泉かけ流しっていう概念があるんだな。というか、もしかしたらこれも異世界人がもたらしたものだったりするのかな。

 備え付けの備品や魔道具の使い方まで、ハルはきっちりと全部説明してくれた。

「これで、分からないことは無いかな?」
「うん、多分無いと思う。ありがと」
「どういたしまして」

 部屋に戻ると、ハルはテーブルの椅子にきっちりと座りなおした。

「俺はここで海を見てるから、ゆっくりしてきて」
「うん、じゃあ行ってくるね」
「うん、湯あたりだけはしないように気をつけてね」

 優しい声で言ってくれるハルの背中を、思わず俺はじっと見つめてしまった。せっかく温泉がある宿なんだからハルも入れたら良いのにな。

 まあ、もし入れたとしても、さすがに一緒に入ろうなんてとても言えないけど。意識してない友人なら気楽に誘えるけど、好きな人と一緒に温泉なんてきっと心臓が持たないもんな。

 そんな事をつらつらと考えながら、俺は着替えを抱えて脱衣所へと足を進めた。



 この世界に来てからはずっと、浄化魔法とシャワーみたいな魔道具だけでしのいできたから本当に久々の入浴だ。しかも入浴剤とかじゃなくて、源泉かけ流しの温泉だ。これってすごい贅沢だよな。

 体をさっと洗ってからすぐに湯舟に浸かると、ふうーと思わず大きな息が漏れた。熱すぎない温度で、俺の好みにぴったりと合ってる。乳白色のお湯は肌ざわりも良くて、自然と笑顔になってしまう。だらしない顔をしてるだろうけど、誰も見てないからまあ良いか。

 ああ、どんどん体の力が抜けていく。体の疲れとか色んなものが、お湯に溶けだしてるみたいだ。久しぶりのお風呂が温泉とか、幸せすぎる。

 念願の入浴をしみじみと噛み締めながら、俺はのんびりと温泉を堪能した。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。