生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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103.異世界の温泉は

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 ハルの嬉しい提案に、俺は速攻で飛びついた。そうだよ。今から入れば良いんだよ。

 ウキウキですぐに着替えを用意しようとしたけど、何故か提案してくれたハル本人に止められてしまった。

「待って、アキト」
「え?」
「この世界の温泉は初めてなんだし、分からないことがあったら困るよね?一度一緒に浴室を見にいかない?」

 んーそう言われると確かにそうだな。ハルらしい気遣いに感謝の言葉を伝えつつ、俺たちは二人で一緒に浴室へと向かった。

「ここ?」
「そうだよ」

 部屋の壁にあったシンプルなドアを開ければ、そこには脱衣所らしき場所があった。

 作り付けの棚には、お洒落なカゴがいくつか並べて置いてある。そこに着替えを入れるんだって。その隣にはタオルとして使うための綺麗な布も、何枚かまとめて置いてあった。連泊の時は受付に持っていけば替えてもらえるらしい。

「ここの説明はそれぐらいかな」

 ハルの言葉に頷きながら、俺はもう一つのドアをじっと見つめていた。あのドアの向こうが浴室ってことだよね。ワクワクしながらハルを見上げれば、頷いてから手の動きだけでどうぞと促してくれた。許可がでたので開けたいと思います。俺は弾むような足取りで、もう一つのドアへと近づいていった。

「アキト、嬉しそうだね」
「うん。さっきからワクワクしてる」

 そーっとドアを開くと、まず流れる水音が聞こえてくる。

 期待に胸を膨らませながら覗き込むと、そこにはカラフルなタイルで彩られた大きな浴槽があった。壁にある魔法陣から流れ続けている乳白色のお湯が、柔らかく水面を揺らしている。

「わー想像以上に温泉っぽい!」
「気に入った?」
「すっごく気に入った!」

 浴室内の壁もシンプルな白色なんだけど、浴槽だけは色んな色のタイルが使われてるので目に楽しい。見慣れたシャワーの魔道具もあるから、これで体を流すのかな。

「トルマルの地下に湧いている温泉がいくつかあってね、ここはそこから魔道具を使ってお湯をひいてるんだ」
「魔道具でひいてるの?」
「そうだよ。溢れたお湯はあの床の隅にある魔道具で排水してるんだ」

 ハルが指差した所を見てみれば、確かにそこに魔法陣が刻まれたタイルがあった。溢れたお湯は、その魔法陣に吸い込まれていくみたいだ。

 ここは浄化以外の手を入れてないのが自慢なんだって。異世界にも源泉かけ流しっていう概念があるんだな。というか、もしかしたらこれも異世界人がもたらしたものだったりするのかな。

 備え付けの備品や魔道具の使い方まで、ハルはきっちりと全部説明してくれた。

「これで、分からないことは無いかな?」
「うん、多分無いと思う。ありがと」
「どういたしまして」

 部屋に戻ると、ハルはテーブルの椅子にきっちりと座りなおした。

「俺はここで海を見てるから、ゆっくりしてきて」
「うん、じゃあ行ってくるね」
「うん、湯あたりだけはしないように気をつけてね」

 優しい声で言ってくれるハルの背中を、思わず俺はじっと見つめてしまった。せっかく温泉がある宿なんだからハルも入れたら良いのにな。

 まあ、もし入れたとしても、さすがに一緒に入ろうなんてとても言えないけど。意識してない友人なら気楽に誘えるけど、好きな人と一緒に温泉なんてきっと心臓が持たないもんな。

 そんな事をつらつらと考えながら、俺は着替えを抱えて脱衣所へと足を進めた。



 この世界に来てからはずっと、浄化魔法とシャワーみたいな魔道具だけでしのいできたから本当に久々の入浴だ。しかも入浴剤とかじゃなくて、源泉かけ流しの温泉だ。これってすごい贅沢だよな。

 体をさっと洗ってからすぐに湯舟に浸かると、ふうーと思わず大きな息が漏れた。熱すぎない温度で、俺の好みにぴったりと合ってる。乳白色のお湯は肌ざわりも良くて、自然と笑顔になってしまう。だらしない顔をしてるだろうけど、誰も見てないからまあ良いか。

 ああ、どんどん体の力が抜けていく。体の疲れとか色んなものが、お湯に溶けだしてるみたいだ。久しぶりのお風呂が温泉とか、幸せすぎる。

 念願の入浴をしみじみと噛み締めながら、俺はのんびりと温泉を堪能した。
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