生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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108.トルマル観光

 干し魚屋さんから出た俺たちは、そのままメインストリートをゆっくりと歩く事にした。異世界ならではのお店もたくさんあって、俺にとっては珍しいものばかりだ。

 貝殻を使ったアクセサリー屋の隣には、謎の素材を使った雑貨屋があった。最初に前を通った時も気になったお店だ。雑貨屋というよりよろず屋だろうか。魔道具の灯りを吊るすスタンドとか大きなテント、冒険用のカップまであるんだけど、その全てに使われているのが真っ白な謎の素材だ。

 見た目は流木とかっぽいんだけど、あれって一体何を使ってるんだろう。純粋な好奇心で小さく指差してみれば、俺の質問を理解してくれたハルは、柔らかく笑いながら恐ろしい事を教えてくれた。

「あれは海の魔物の骨を素材にしてるんだ」
「え…」
「白いのは全部魔物の骨だよ」

 俺はまじまじとテントに使われている巨大な白い骨を見つめた。こんなに大きな骨がとれるような大きい魔物がいるんだ。

 うん、この世界では海には絶対に近づかないようにしよう。俺はこっそり決意しながら、ハルの後を追って歩き出した。



 メインストリートを歩いていると、やけにカラフルな場所が目を引いた。原因は店の外まで溢れた、山積みの野菜と果物だ。この世界の植物がカラフルなのは知ってるけど、これだけの種類が一カ所に集まると目がちかちかする。

「お兄さん、良かったら見ていって」

 野菜と果物に埋もれるようにして座っていたお店のおじさんは、にっこりと愛想良く笑ってくれた。じっと見つめてしまってたから、お店に興味があると思われたみたいだ。

 見た事のない果物に興味はあるんだけど、ロズア村で手に入れた魔道収納鞄の事をつい考えてしまう。中身はまだ確認してないけど、野菜と果物が色々入ってるって言ってたよね。買っても被らないような、珍しい野菜とか果物とかあったりするかな。

「ちょっと珍しい野菜とか果物ってありますか?」
「珍しいとなると、やっぱりライスかな」
「え、ライスあるんですか?」
「ああ、あるよ」

 それはぜひ買いたいけど、食べ方が分からない。ハルに聞くにしてもここでは聞けないし、もし後で聞いてハルが知らなかったらどうしよう。店員さんに聞いても大丈夫なんだろうかと一人で悩んでいると、そっと俺の顔を覗き込みながらハルが口を開いた。

「ライスは珍しいから、食べたことがなかったって言えば、何を聞いても大丈夫だよ」

 こんな時でも俺の気持ちを読み取ってくれるんだ。ハルの察しの良さには、感謝しか無い。

「昨日食べたら美味しかったんですけど、これってどうやって食べるんですか?」
「ああ、ライスはトルマルより南じゃあまり出回らんからねぇ」

 店主のおじさんはちょっと待っててと言い置いて、店の奥へと消えていった。

「ハル、ありがと」
「どういたしまして」

 店主さんがいない間に素早くお礼を言えば、ハルは笑顔を見せてくれた。

「お待たせ」

 おじさんが手に持っているのは、真っ白なかぼちゃみたいな形の野菜だった。

「これを割ると」

 言いながらおじさんは表面の皮に包丁で傷をつけると、手の力だけで真っ二つに割ってみせた。見た目からして硬そうだと思い込んでいた俺は、その光景に驚いてしまう。

「これがライスなんだ」

 覗き込んだ果実の中には、見覚えのある既に炊きあがった状態のごはんの粒がみっしりと詰まっていた。異世界のライスは野菜の中に詰まってて、しかも既に炊きあがった状態なんだって。うん、思ってたのと違いすぎて思考停止しそうだ。

 衝撃を受ける俺に気づかずに、おじさんはスプーンでライスをすくい上げた。

「これをたっぷりの水に入れて、茹でながら温める」
「茹でるんですか」
「そのままでも食べることはできるんだけど、美味しくは無いね」

 食べてみるかいとスプーンごと渡されたので、そのまま口に放り込んでみた。温めてない冷めたごはんって感じだな。塩とかをかければ、俺は食べれなくは無いと思う。

「茹でた後はお湯を捨てれば完成だ」
「実演ありがとうございました」
「いやいや、これはわたしたちの晩飯になるだけだからね」

 優しい店主さんにお礼を言いつつ考える。これは買う。買わないなんて選択肢は無いんだけど、果たしてどのぐらいの量なら持ち運べるんだろう。

 魔道収納鞄の空き容量を頭の中で思い浮かべながら、俺は持てるギリギリの量を悩み続けた。



 悩みに悩んだ結果、ライスは結局10個買った。これだけの量をまとめ買いするのは商売人ぐらいだよと苦笑されてしまったけど、もっと買いたかったくらいだ。

 すこしは空きを残しておかないと、冒険者稼業ができなくなると思ってこれでも我慢したんだよ。まあ、10個で我慢できたのは、ハルが口にした一言のおかげだけど。

「直通の馬車なら日帰りもできる距離だし、また買いにくれば良いよ」

 思わずハルをキラキラした目で見つめてしまって、おじさんに不思議そうな顔をさせてしまった。そうだよな。また買いに来れば良いんだ。



 夕方になるまで、飽きもせず俺たちはトルマルの街中を歩きまわった。新鮮な魔物肉を取り扱っている肉屋、お洒落な服屋、色んなお店に立ち寄ったけれど、どこもこの街ならではの色があって面白かった。

 疲れたかなと思うタイミングで、さらりと椅子がある所とか景色の良い場所に案内してくれるハルのおかげで、ただただ楽しい時間だった。

「次はどこに行く?」

 笑顔のハルが、楽しそうにそう聞いてくれる。ハルにとっても楽しい時間だったなら、すごく嬉しい。

「そろそろ、ハルおすすめのお店に行こうか」

 高低差のあるトルマルの街中を長い間歩いたおかげで、お腹もだいぶ空いてきた。

「それならこっちの裏道だね」
「おすすめのお店ってどんなお店?」

 ハルを見上げながら小声でそう尋ねれば、にやりと自慢げな笑みが返ってきた。その顔、すごく格好良い。

「海鮮のスープが美味しいお店でね、ライスのメニューもあるよ」
「おおーそれは楽しみ」
「そこを左ね」

 そうして案内されたハルおすすめのお店は、裏道にあるこじんまりとした店だった。

 塩ベースの海鮮スープは旨味がすごくてたまらなかったし、ライスのメニューとして出て来た魚介のリゾットみたいな料理もめちゃくちゃ美味しかった。

「お腹いっぱいだ」
「気に入ったなら良かった」
「またトルマルに来たら、またあそこに行きたいってぐらい気に入ったよ」
「そんなに?」
「本心だよー。本当にありがと、ハル」
「どういたしまして」

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。明日は、もうトライプールに向けて帰る日だ。旅行が終わってしまう寂しい気持ちもあるけど、また来れば良いってハルも言ってくれた。

 こうやってハルとの思い出が増えていくのって幸せだな。しみじみと噛み締めながら、俺は前を歩くハルの背中をじっと見つめた。
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