生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
114 / 1,561

113.元料理人の心残り

「アキト、最初は俺が近づくから様子を見て」
「ん、分かった」

 ハルの背中にかばわれながら、俺はこそっと幽霊の様子を伺った。母親ぐらいの年代の女性は、まっすぐに近づいてきた俺たちに驚いた顔で振り向いた。

「あなたたちは?」

 その目は綺麗に澄み切っている。

「ハル、大丈夫そう」
「そうか」

 ハルの背中からひょこっと顔を出した俺は、戸惑った様子の女性に声をかけた。

「こんにちは。俺はアキト。幽霊が見える異世界人です」
「アキトさん、幽霊が見える…異世界人?」

 あえて明るく自己紹介をしてみたんだけど、女性は呆然としながら俺を見つめていた。これは幽霊が見えるのと異世界人、どっちに反応してるんだろう。

「俺は幽霊のハルだ。アキトと一緒に旅をしている」

 俺に合わせてか自己紹介をしたハルに、女性はゆっくりと首を傾げた。

「あの、ハロルド様…ですか?」
「ああ、そうだ。今はハルと名乗っている」

 そういえばハルってハロルドって名前だったな。ハル呼びに慣れすぎて、ちょっと忘れかけてた。でも様付けって何でだろう。そう思ったけれど、女性がこちらを見てにっこりと笑ってくれたから聞くタイミングを逃してしまった。

「わたしの名前はモニカです」
「モニカさん」
「ええ、アキトさんとハルさんは何故ここへ?」
「馬車の休憩時間にモニカさんが見えたアキトが、気になると言い出してな」

 何て誤魔化そうかと考えてる間に、ハルが全部言ってしまった。

「まあ、わたしのためにわざわざ?」
「寂しそうだったから、気になったんです」
「ありがとう、お二人とも」

 モニカさんはそう言うと、ふわりと柔らかく笑ってくれた。

「その、私…心残りがあるんです」

 言いづらそうにやっとそう口にしたモニカさんに、俺は幽霊にはよくある事ですよと伝えた。心残りがあってこの世に残る幽霊が圧倒的に多いと知って、モニカさんは少し安心したようだった。

「良ければ話してみませんか?」

 ハルにもそう促されて、モニカさんはゆっくりと口を開いた。

「私は、生前料理人をしていたんです」
「料理人さん!」
「それで、その…言い難いんですけど…自分が食べた事のない料理を見てみたいんです!」

 そう口にするなりモニカさんは恥ずかしそうに顔を伏せた。

「もう食べられないのに、食べ物に未練があるなんて恥ずかしくて!」
「え、別に恥ずかしくは無いですよね。研究熱心だったんだなって思いましたけど」
「ああ、俺も別に変だとは思わないな」
「まあ。ありがとうございます!」

 笑われなくて良かったと嬉しそうなモニカさんに、俺は声を掛けた。

「つまり食べた事のない料理が見れれば良いんですよね?」
「ええ!でもこれが結構難しいんですよ!」

 モニカさんは世界中を旅して、色んな料理を食べて回ってたんだって。

 領都トライプールに住むことを決めてからは、この辺りの料理もかなり食べ歩いた。いや、食べ歩いてしまったと言うべきかもしれませんねとモニカさんは苦笑いを浮かべた。

 この辺りの料理を食べつくしたせいで、なかなか願いが叶わないんだって。

「その上、ここから動けないので…」

 この場所は平な地面が続いているから、森の中で活動する冒険者や旅人の休憩地点として使われているそうだ。だからここで食事をする人は、それなりにいるらしい。

「でも冒険者や旅人の食事なので…」

 モニカさんは最初に見た時の寂しそうな顔で、じっと地面を見つめた。

「ああ、冒険者とか旅人の食事は偏ってるものですからね」

 ハルの言葉に、がばっと顔を上げる。

「そうなんです!しかも素材そのままを食べる人までいて!いっそ私が料理してあげたいって思ってしまうんです!」

 あ、その言葉はさっき干し魚をあぶって食べただけの俺にも、ちょっと刺さる。それにしても、寂しそうにしてた理由が料理をしてあげたいっていうのだったのにはちょっと驚いた。モニカさんは優しい人なんだな。

「何とかしたいけど…」
「領都まで戻ってわざわざ料理を買ってきたとしても、食べた事があるものの可能性が高いって事だよな」

 ハルの言葉に、俺は大きく頷いた。

「でも料理人だった人が満足するような料理を、俺が作れる気もしないし」

 食べたことのない料理ー食べたことのない料理かー。

「…あっ!あるかも!」

 不意にひらめいた考えに、俺は思わず叫んだ。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。