生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
136 / 1,561

135.料理上手

 ルセフさんが用意してくれた夕食を前に、俺は絶句していた。動揺しているのは俺だけみたいで、他の3人は嬉しそうに拍手をしながらルセフさんを出迎えている。

「はい、まずはこれ、一角ボアのステーキな」
「うわっ、美味しそう…」
「一角ボアは寝かせて熟成させても美味しいんだけどね、新鮮なのはクセが少ないからこれも試して欲しくて」

 そう言いながら配られた木皿に乗っていた一角ボアのステーキは、網で焼いたらしく格子状に焼き目がついていて見るからに美味しそうだった。食べやすいように切り分けてある断面から、じゅわりと肉汁があふれ出ている。

「これは美味しそうだな」

 白狼亭のステーキが一番好きだと言っていたハルが、思わずそう言っちゃうぐらいに見た目からして美味しそうなんだからすごいと思う。

 次に渡されたスープには、カラフルなサイコロ状の野菜がたっぷり入ってた。見た目はミネストローネに近いかな。野菜はサイコロ状に切った後で、わざわざ干した物なんだって。干し野菜にした方が、旨味の出る野菜ばっかりが入ってるらしい。

「これだと依頼先でも野菜がとれるから」
「へーこんな便利な物があるんですね」

 感心しながらそう口にすれば、ルセフさんはあっさりと俺が作ったと言い切った。え、これ野菜を干すところから手作りなの?だからさっき下ごしらえは終わってるとか言ってたのか。

 さらに軽く火であぶったパンと、皮ごと食べられる果物まで渡されてしまったら、それはもう絶句するだろう。

 だって俺の思う冒険者の食事は、元料理人の幽霊モニカさんから聞いたものだけだ。素材そのままを食べてるとか、栄養が偏ってるとか言ってた、そんなイメージしかない。

「すっごい豪華…」
「そう思ってくれたら良かったよ」

 ルセフさんは嬉しそうに笑ってくれた。

「あーうっまー」

 しみじみと噛み締めるようにそう呟いたウォルターさんに、ブレイズは頷きで同意を示しながらも手と口は止めずに食べ続けている。

「あー今日のもめっちゃうまい。俺、テント作ってよかったー」

 ファリーマさんの言葉を、笑う事はできなかった。確かにこの見た目からして極上な料理を、目の前でお預けにされるのは絶対につらいと思う。俺なら耐えられない。

「お前ら、ちゃんと噛んで食べろよー。ほらアキトも食べてみて」
「いただきます」

 勧められるままに、まずはスープの入った木のコップを手に取った。旨味がしみ出しているスープだけでも十分に美味しいんだけど、干し野菜にしてあるという具の野菜はどれも味がぎゅっと濃縮されている。

「うっま!」
「お、素が出るほどうまかったか」

 感動しながら口に運んだステーキには、俺の語彙力がねこそぎ奪われた。いや、もう本当に美味しいものを食べた時って、言葉とか咄嗟に出ないんだね。思わずははって笑っちゃったよ。

 これだけ料理が出来る腕があったら、そりゃあ料理楽しみにしててって言えるよな。

「どう?口にあった?」
「めちゃくちゃ美味しいです!」
「それは良かった。おかわりもまだあるからね」

 美味しさに負けて絶対おかわりしちゃうだろうな。そう思いながら食べ進めていると、不意にウォルターさんと目があった。

「アキトも胃袋を掴まれたか…」
「え?」
「俺たちのチームはさ、リーダーとかいなかったんだよ、元々は」
「そうなんですか?」
「そうそう」

 ウォルターさんの言葉にファリーマさんは頷いているけど、ブレイズは大きく目を見開いた。ルセフさんは苦笑を洩らしている。

「え、俺も初めて聞いたんだけど」
「お前がチームに入る前だからな」

 チーム申請をした当時、どうしてもリーダーを一人選ばなければいけなくなった。三人は一歩も引かず、全員がリーダーをやりたいと主張したらしい。普通ならもめそうな場面だけど、その時にルセフさんが言ったんだって。

「俺がリーダーになったらこれからも飯は俺が作ってやるってな。この飯を食った事があったら、そんなの折れるしかないだろ?」

 胃袋を掴まれた時点でルセフの勝ちは決まってたんだと、ウォルターさんは続けた。

「うわー…俺ルセフさんがリーダーで良かった」
「リーダーになったウォルターが責任を持って飯を作るってなってたら、俺はこのチーム抜けてたね」

 ファリーマさんは真顔でそう言いながら、ステーキを口に放り込んだ。

「失礼だな、てめぇ!」
「ウォルター兄ちゃん、料理の才能全く無いもんね」
「誰が兄ちゃんだ!」

 兄ちゃん呼びには突っ込みが入ったけど、料理の才能が無い話にはノーコメントな辺りで何となく想像がついてしまった。

 そっか、ウォルターさんは料理が苦手なのか。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。